文部科学省
子どもの自殺は、他の世代に比べて遺書が残されていないことが多いために、文部科学省や警察庁の発表をみても、原因が特定されない場合が少なくありません。また、大人には信じられないような些細なきっかけで自ら命を絶つこともあります。
自殺の引き金となる「直接のきっかけ」が原因としてとらえられがちですが、自殺を理解するためには複雑な要因がさまざまに重なった「準備状態」に目を向けることが大切です。
自殺の準備状態が長期にわたり、要因が複雑であればあるほど、一見ごく些細なきっかけで、自殺が突然起こったように思えるときがあります。
子どもの身近にいる教師は、子どもが生きるエネルギーを失い、死を思うほど苦悩するとき、どう向き合い、どう支えていったらいいのでしょうか。自殺の危険が高まった子どもへの具体的な関わり方について考えていきましょう。
自殺の心理:自殺に追いつめられる子どもの心理はどのようなものなのでしょうか?
自殺はある日突然、何の前触れもなく起こるというよりも、長い時間かかって徐々に危険な心理状態に陥っていくのが一般的です。
自殺にまで追いつめられる子どもの心理とはどのようなものなのでしょうか。
次のような共通点を挙げることができます。
1) ひどい孤立感:「誰も自分のことを助けてくれるはずがない」「居場所がない」「皆に迷惑をかけるだけだ」としか思えない心理に陥っています。
現実には多くの救いの手が差し伸べられているにもかかわらず、そのような考えにとらわれてしまうと、頑なに自分の殻に閉じこもってしまいます。
2) 無価値感:「私なんかいない方がいい」「生きていても仕方がない」といった考えがぬぐいされなくなります。
その典型的な例が、幼い頃から虐待を受けてきた子どもたちです。
愛される存在としての自分を認められた経験がないため、生きている意味など何もないという感覚にとらわれてしまいます。
3) 強い怒り:自分の置かれているつらい状況をうまく受け入れることができず、やり場のない気持ちを他者への怒りとして表す場合も少なくありません。何らかのきっかけで、その怒りが自分自身に向けられたとき、自殺の危険は高まります。
4) 苦しみが永遠に続くという思いこみ:自分が今抱えている苦しみはどんなに努力しても解決せず、永遠に続くという思いこみにとらわれて絶望的な感情に陥ります。
5) 心理的視野狭窄:自殺以外の解決方法が全く思い浮かばなくなる心理状態です。
1) 自殺未遂
高い所から飛び降りたけれども一命をとりとめたというような未遂の場合には、その深刻さを疑う人はほとんどいません。
しかし、薬を少し余分に服用したり手首自傷(リストカット)をしたりと、死に直結しない自傷行為の場合であっても、その後、適切なケアを受けられないと、長期的には自殺によって生命を失う危険が高まります。
2) 心の病
うつ病、統合失調症、パーソナリティ障害、薬物乱用、摂食障害などが自殺の危険の背後に潜んでいることがあります。
これまでは、子どもの自殺が起きても心の病との関連についてはあまり触れられることがありませんでした。
しかし、子どもでも、ひどく落ちこんだり、好きだったものにも興味がわかなくなったり、眠れない・食欲がわかないなどの症状が長期間続く場合には、うつ病の可能性があります。
子どもであってもうつ病になる率は決して低くありません。
次のような点に気づいたら、うつ病の可能性を考えましょう。
・学校へ行き渋る ・自分を責めたり、イライラしたりする
・眠れない、食べられない ・リラックスして好きなことを楽しめない
・身体の不調を訴えても検査では異常がない
高校生の年代になると、大人と同じように心の病が自殺の危険と密接に関連するようにな
ります。
この年代は統合失調症などの心の病の好発年齢にもなるので、早期に発見して、適切な治療に結びつけることが重要です。
摂食障害も思春期に多く発症します。摂食行動をコントロールできないために抑うつ症状が重なってくると、自殺の危険は高まる場合があります。
発症が疑われる場合には専門家の助言を求めることが大切です。