解説
「スリー・ビルボード」のオスカー女優フランシス・マクドーマンドが主演を務め、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー。
ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、「ザ・ライダー」で高く評価された新鋭クロエ・ジャオ監督がメガホンをとった。
ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。
キャンピングカーに全てを詰め込んだ彼女は、“現代のノマド(遊牧民)”として、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送ることに。毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ね、誇りを持って自由を生きる彼女の旅は続いていく。
第77回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞、第45回トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞するなど高い評価を獲得して賞レースを席巻。第93回アカデミー賞では計6部門でノミネートされ、作品、監督、主演女優賞の3部門を受賞した。
2020年製作/108分/G/アメリカ
原題:Nomadland
配給:ディズニー
- 監督
- クロエ・ジャオ
- 製作
- フランシス・マクドーマンド
- ピーター・スピアーズ
- モリー・アッシャー
- ダン・ジャンビー
- クロエ・ジャオ
- 原作
- ジェシカ・ブルーダー
- 脚本
- クロエ・ジャオ
- 撮影
- ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ
- 美術
- ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ
- 編集
- クロエ・ジャオ
- 音楽
- ルドビコ・エイナウディ
緊急事態宣言明け“最初の洋画大作”を映画館で見よう
奇跡の映画、至福の108分、空間に吸い込まれる体験
年に何本か、この作品だけは絶対に見なければならない、と直感する映画がある。3月26日から公開される「ノマドランド」は、まさにそれにあたる。
ある者は「奇跡の映画」と形容した。またある者は「空間に吸い込まれる体験を味わった」と振り返る。圧倒的な強さでゴールデングローブ賞“2冠”を達成。アカデミー賞の最有力候補のひとつと称されるのは、もはや道理とすら思える。
車上生活者の女性を描く本作には、それほどの魔力が宿っているのだ。緊急事態宣言が明け、最初に公開される洋画大作。万難を排して映画館で鑑賞してほしい。
この特集では物語、監督、主演、受賞歴、得られる映像体験の素晴らしさに迫る。さらに映画.com編集長のレビューや、Twitterフォロワー約17万人を誇るオスカーノユクエ氏による解説も掲載する。
【予告編】あなたの人生を変えるかもしれない、特別な作品
奇跡の映画―― 物語、監督、主演、全てが超一流
車上生活を送る女性の人生に、あなたは何を感じるか

○物語:家を失った女性は、キャンピングカーに人生を詰め込み旅に出た
ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。キャンピングカーに亡き夫との思い出や、人生の全てを詰め込んだ彼女は“現代のノマド(放浪の民)”として車上生活を送ることに。
過酷な季節労働の現場を渡り歩き、毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ねる。誇りを持って自由を生きるファーンの旅は、果たしてどこへ続いているのか――。

○監督:クロエ・ジャオ 役者から真実の演技を引き出す稀有な才能
映画ファンの間で傑作と称される「ザ・ライダー」の新鋭クロエ・ジャオが、監督・製作・脚本・編集を担当。本作が規格外である理由は、彼女の存在によるところが大きい。
出演者たちは、2人(フランシス・マクドーマンドとデビッド・ストラザーン)以外は“実際のノマド”なのだ。つまり演技素人の一般人。そんな彼・彼女らに、ジャオ監督は“自身のリアルな胸中”をそのまましゃべらせ、物語と調和させる手法を採用した。これによりフィクションとドキュメンタリーの境界を融解させ、映画という芸術の新たな側面を発掘したと言える。

素人を起用した作品は数多くあるが、そのほとんどが「よくやってる」レベルの演技にとどまっている。しかし本作は、ほぼ全員が「名演」レベルの演技を見せているから驚かされる。日本でのマスコミ試写において、エンドロールで「実際のノマドが出演者」と明らかになった時、その事実を知らなかった場内ではどよめきが起こったほどだ。
リアルなノマドたちによる「名演」には、名だたる俳優たちの芝居とはまた違った説得力がある。もちろん、マクドーマンドやストラザーンらが本物のノマドのなかに違和感なく馴染んでいる姿にも圧倒されるが、それらの素晴らしい”役者”たちが、ひとつの世界で同じノマドとして息づいている。その奇跡を実現させたのは、ジャオ監督の手腕に他ならない。
ジャオ監督は今後、マーベル新作「エターナルズ」を手がけることも決まっている。今最も注目される監督が、中国出身の、しかも女性であるという事実。実力で世界を変え続けるジャオ監督から、目が離せない。

○主演:フランシス・マクドーマンド “無敵の俳優”“生きた劇場”“動く国立公園”
「ファーゴ」「スリー・ビルボード」で2度のアカデミー賞主演女優賞に輝いた無敵の俳優フランシス・マクドーマンドが、主人公ファーンに扮する。これまでの受賞歴は数知れず、この地球上で最も力のある俳優のひとりである。
シリアスな存在感が中核にある一方、どこか親しみやすさがあり、そしてどこかコミカルなお茶目さもあり、見ていて笑いが込み上げてくる。経験と才能に裏打ちされた怪物じみた演技力が、彼女の最大の魅力だろう。

今回はファーンの人生の憂いと、これからを体現。実際のノマドたちと車上で生活し、労働し、交流することで絆を育んでいった。劇中、ファーンが大事にしていた皿が、あっけなく割れてしまうシーンがある。マクドーマンド自身も大学時代に父親から皿のセットを一揃いもらい、ずっと大事にしていたそうだ。
このほかにもファーンのキャンピングカーには、マクドーマンドの私物やアイデアが持ち込まれ、彼女の実生活や実体験が色濃く反映されており、血の通ったシーンの数々を創出した。これまでも様々な役を演じてきたマクドーマンドが、さらに踏み込んだ芝居を披露する様子にも、ぜひ注目していただきたい。

○至福の108分:アクションはない 派手なロマンスもない しかしひたすら“没入”する唯一無二の映画体験
本作、実は映画館で見るべき作品である。低い灌木がまばらに生える荒野のはるかかなたに、天を突かんばかりの巨大な岩山が連なっている。風がさっと吹き、砂を巻き上げていくのが聞こえる――。

雄大な自然と極めて解像度の高い環境音は、本作に特別な力を与えている。どちらかといえば静謐な作品だが、魂がスクリーンに吸い込まれ、映る空間に浸るような没入感が得られるのだ。
そんな究極に近い映画体験をもたらしたのは、「ゴッズ・オウン・カントリー」「ザ・ライダー」などを手がけた撮影監督ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ。音楽は「最強のふたり」や是枝裕和監督作「三度目の殺人」などのルドビコ・エイナウディが担当した。可能な限り質の良い映像・音響設備がある劇場へ足を運び、至福の108分を堪能してもらいたい。
○世界的評価:ゴールデングローブ賞で圧勝 アカデミー賞のフロントランナー
“世界三大映画祭”のひとつであるベネチア国際映画祭の金獅子賞を獲得(過去に「ジョーカー」「シェイプ・オブ・ウォーター」など)。さらに、“アカデミー賞に最も近い”とされるトロント国際映画祭では観客賞(過去に「ラ・ラ・ランド」「スリー・ビルボード」「グリーンブック」)に輝いた。

ベネチアの金獅子賞、トロントの観客賞のダブル受賞は史上初の快挙である。ゴールデングローブ賞でもドラマ部門の最優秀作品賞と監督賞を獲得(まるで当然かのように)し、賞レースで圧倒的な強さを見せている。第93回アカデミー賞では作品賞など6部門にノミネートされ、「授賞式ではいくつの部門を制覇するのか」に注目が集まっている。
【レビュー①】映画.com編集長・駒井尚文
「その類い希なる才能を世界に知らしめる1本」

シネマスコープ画面の端から端までを使って映し出す、空と大地とスカイライン。息をのむような美しいカットが、映画の随所に挿入されています。監督のクロエ・ジャオと、撮影監督のジョシュア・ジェームズ・リチャーズは、そのほんの数秒のカットを、おそらく何日も何日も待って、最適な光を捉まえて撮っているのでしょう。
マジックアワーを選んで、自然光のみで、広角の手持ちカメラで撮影するスタイルは、最近のテレンス・マリック監督とエマニュエル・ルベツキの仕事を彷彿とさせます。「ソング・トゥ・ソング」とか「聖杯たちの騎士」ですね。マリック監督は、俳優が演じるシーンではマイクすら使わず(俳優をあおって撮る際に吊られたマイクが邪魔)、俳優の語りを後で映像に被せるポエミーなスタイルを貫きますが、クロエ・ジャオはちゃんとマイクを吊り下げて、俳優のセリフを収録します。彼女はポエムを詠んでいるのではなく、ストーリーにコミットしていると感じます。

「ノマドランド」は、「クロエ・ジャオの映画」ではなく「フランシス・マクドーマンドの映画」です。マクドーマンドはプロデューサーも兼ねている。しかし、一連の賞レースを経て、クローズアップされているのはマクドーマンドではなくジャオの方。
物語を紡ぎ、映像を紡ぎ、映画を紡ぐ、その類い希なる才能を世界に知らしめる1本です。映画ファンを自認する人なら、絶対に見逃せません。必ず映画館で、シネマスコープの画面いっぱいに広がる彼女のアートを楽しんでください。
【レビュー②】賞レースマニア・オスカーノユクエ
「ノマドランド」がオスカー戦線を独走する3つの理由

コロナ禍の影響で例年の2カ月遅れとなる4月25日に授賞式が開催される今年のアカデミー賞。過去92年の歴史を振り返っても異例中の異例と言える今年のアカデミー賞ですが、こと受賞結果に関しては、波乱のない穏やかなものになりそうです。
ここ数年、アカデミー賞は本命視される作品が賞を逃すサプライズが続いていますが、今年に関してはそんな番狂わせが起きることはないでしょう。下馬評そのままに、「ノマドランド」が作品賞を受賞する公算が極めて高いです。
理由は大きく3つ。

まず1つ目は、圧倒的な前哨戦実績です。毎年、暮れから年始にかけて全米各地で発表される映画賞は、“アカデミー賞前哨戦”としてオスカーウォッチャーたちの耳目を集め、その結果をもとに本番たるオスカーの行方が占われます。
通常であれば、少なくとも2~3作品が本番で受賞争いの余地を残す程度に賞を分け合うのですが、今年は「ノマドランド」が他を寄せ付けない無双っぷり。正直なところ予想という面では全く面白みに欠ける展開となっています。
2つ目は、クロエ・ジャオ監督という才能の出現。演技経験ゼロの素人たちが実名のまま自身の物語を演じるという手法で周囲を驚かせた前作「ザ・ライダー」で一躍脚光を浴びると、製作&主演のフランシス・マクドーマンドによって「ノマドランド」の監督に抜擢されました。
その才能を見抜いたのはマクドーマンドだけではありません。かのマーベルもジャオに目をつけ、MCU最新映画「エターナルズ」のメガホンを任せています。2015年に長編映画デビューを果たしたばかりのジャオは、ハリウッドではめずらしい中国出身の女性監督。人材のダイバーシティ(多様性)を課題に掲げるアカデミー協会にとっては、まさに象徴的な存在といえます。

3つ目は、この作品が劇場用映画であること。コロナ禍の危機にあえいだ2020年は、全米の映画館が機能不全に陥り、配信サービスが大いにシェアを拡大しました。アカデミー賞を争う有力候補も気づいてみれば配信作品が多数派となり、劇場用映画は明らかな劣勢を強いられています。
そんな状態の中で、劇場用映画の輝ける星となっているのが「ノマドランド」なのです。ここ数年、「ROMA ローマ」や「アイリッシュマン」など配信作品があと一歩のところで作品賞を逃しているのも、アカデミー会員の劇場映画への愛着が無縁とは言い切れません。そんな心理が、特にコロナ禍のいま、強く働いたとしても不思議はないでしょう。

アカデミー賞最有力「ノマドランド」原作者、映画化の心境を吐露「もし映画がひどいものだったら…」

(C)Todd Gray
第93回アカデミー賞に作品賞を含む6部門でノミネートされている「ノマドランド」(公開中)は、車上生活者=現代の“ノマド(遊牧民)”として生きる人々を描いたフィクションと現実のハイブリッド映画だ。実在のノマドたちが出演する今作の原作となったのは、ジェシカ・ブルーダーによるノンフィクション本「ノマド 漂流する高齢労働者たち」。3年間にわたり現代のノマドの取材に情熱を傾けたブルーダーが、今作がフィクションを交えて映画化された心境を正直な言葉で語った。(取材・文/編集部)
「ノマドランド」は、「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー。プロの役者は、主人公ファーンを演じたオスカー女優フランシス・マクドーマンドと、ファーンと心を通わせるノマドのデイブ役を演じたデビッド・ストラザーンのみで、ほかに登場するノマドたちは実際の車上生活者だ。

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.
――映画に出演された“現代のノマド”のひとりであるリンダ・メイさんとの出会いについて教えて下さい。
リンダに会ったのは、アリゾナ州クオーツタイト郊外のソノラ砂漠で開催された「Rubber Tramp Rendezvous」というイベントでした。そのときは、雑誌に書こうと思っていた人のことがいろいろな理由で書けなくなってしまい、困り果てていたんです。できる限りすべての人に声をかけ、探してまわり、話し続けて、最後に会った人たちのひとりがリンダ・メイでした。私がすごくシャイになってしまい、「あなたの犬を撫でてもいいですか?」みたいな会話をしました。思い切って取材を申し込んだら、了承してくれたんです。その時点では、私がこれから3年間も彼女に付きまとうことになろうとは、お互いに思いもしませんでした。
――いまもノマドの方々と連絡を取り合っていますか?
ゴールデングローブ賞(今作はドラマ部門の最優秀作品賞、最優秀脚本賞を受賞)はリンダと、本に登場して映画にも少し出てきたレボン、それにスワンキーと一緒に見ていました。Zoomでの視聴会をして、みんなでストリーミング画面を共有していました。最優秀作品賞が発表されたときのスワンキーの姿は必見でしたね。彼女は興奮して大騒ぎしていました。飛び上がってバンの上に頭をぶつけるのではないかと心配しました(笑)。

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.
――映画化の話はどのような経緯で進んだのでしょうか? 観客は原作に登場しない架空のキャラクターであるファーンを通してノマドの生活を見ることになりますが、映画化にあたり、ノンフィクション作家として守ってほしい条件など提示したことがあれば教えてください。
この映画がフィクションと現実のハイブリッドになることは知っていました。私は映画監督でも脚本家でもないので、映画を作るなら、私が尊敬する過去作品を手掛けた信頼できる芸術家と一緒に作らなければならないと思いました。脚本にこうしろ、ああするな、とは言えません。そういったことは私の役割ではありませんから。
それに、ファーンはこの物語の素晴らしい入り口だと思いました。実際、この本を書いているときに、編集者から「エンパイアの町から、閉鎖時に道路に出て行った人はいないの?」と言われ、私も「もしいれば、すごくいいキャラクターよね。でも、出会っていないの」と答えていました。クロエがそれを映画で実現できたことで、ちょっとした願望が叶ったような気がしています。
――では、ジャオ監督やマクドーマンドにはどのようにご自身の意見を伝えたのでしょうか?
船には何人もの船長がいてはいけません。リサーチしたことはたくさん提供しました。この映画が正確で真実味があるものになるのか気になりましたし、簡単なことではありませんでしたが、監督を信頼して任せたのです。
脚本を読んで、「これはダメ!」「全然違う!」などと言ったことは1度もありませんでした。私が言ったのは、「これが私のリサーチのすべてです。本も読まれましたよね」ということだけです。本には載っていない写真も、音声ファイルも、いろいろとお渡しました。「これだけのものがあるんです。何年もクローゼットに仕舞われていたけれど、使えるものは使っていただいて結構です。でも、上手く使ってくださいね」というふうに。そして、実際に上手く使っていただきました。
(この物語を)手放すのは大変な決断でした。誰も未来を知ることはできません。もし映画がひどいものだったら、当然とても悲しいですから。でも、クロエの作品とフランシスの作品への尊敬の念をもとに、できる限りの推測をしてみたところ、彼らはその信頼に応えてくれると思いました。そしていま、感謝しています。

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.
――監督を見る目があったということですね。
実は、クロエを見つけてきたのはフランシスなんです。フランシスのエージェントの夫が私の本を読んでいて、彼女のエージェントに「これがフランシスの次回作になるかも」と紹介したみたいなんです。そこからすべてが始まりました。
それから間もなくして、トロント映画祭に参加したフランシスは、クロエの映画「ザ・ライダー」を見てすっかり魅了され、自分が適役かもしれないと強く思ったようです。
――ご自身が実際に取材した人たちが映画に登場することになったとき、どのように感じましたか? また、完成した映画を見た感想を教えて下さい。
映画に出演することになった人たちに関しては、クロエが私のところに彼らを紹介して欲しいと言ってきたこともあったので、その様子を見守っていました。このプロジェクトに参加することになったとき、クロエが過去に俳優ではない人、さらに言えば演技経験のない人たちと仕事をしたことがあると知っていましたし、彼女であればそれが可能であることも分かっていました。いざプロジェクトが始まると、その(実際のノマドに出演してもらう)方向性に好感が持てました。もちろん、3年間取材して、最終的には友人となった人たちを(出演者として)紹介するには、このプロジェクトを信頼する必要がありましたが、結果として後悔はまったくありません。
スクリーンで彼らを見たとき、自分の物語を語ることで彼らが評価されるのを見て素晴らしいと思いました。試写会でのQ&Aで、フランシスやクロエと一緒にステージに立った彼らを見たのですが、とても美しい瞬間でした。思わず胸が熱くなりました。

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.
――撮影現場には行かれましたか?
私のバンで現場に行きました。実はエキストラとして出演しているんですよ。誰かと被っていて姿は見えないと思うのですが、キャンプファイヤーの周りでギターを弾いているとき、聞こえてくるギター音に私のギターの音が紛れているはずです。非常にエターナルな方法で出演しました。
――原作、映画でも描かれたアマゾンのキャンパーフォースのように、企業がワーキャンパーを安価な労働力としてみなしていることについての意見を聞かせてください。
この問題は、一企業よりもずっと大きいと思っています。独占禁止法はデジタル時代になっても守られていません。労働組合さえないこともざらです。人々が、自分にはもっと価値があるという意識を常に持っていられない状況を悲しく思います。(ドナルド・)トランプ前大統領が退陣したいま、状況が少しずつ変わっていくことを期待しています。労働者と雇用者の間には大きな格差があり、所得格差はますます開き、悪化しているからです。新型コロナウイルスの感染拡大がそのすべてを悪化させていますし……。教養として、思いやりを持つ余裕を持ち、このような問題をじっくりと考えられる状況になればいいと願っています。
ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。バンに亡くなった夫との思い出と生活のすべてを詰め込んだ彼女は、現代のノマドとして、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送ることに。毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ね、誇りを持って自由を生きる彼女の旅は続いていく。

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.
――ハーパーズ・マガジンの編集者からこの本を作ろうと言われたとのことですが、現代のノマドと呼ばれる人々を取材しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
雑誌の記事を読んで興味を持ったのがきっかけです。私はサブカルチャーや、人々がどのようにして自分のコミュニティを見つけるのかにとても興味があります。私が子どもの頃は、RV車に乗っている人たちは、退職金を貯めて贅沢に国中を旅していて、リタイア後のバケーションを楽しんでいるのだと思っていました。しかし、なかには仕事を引退する余裕もなく、全国各地で聞いたこともないような仕事をしながら、車のなかで生活している人もいることを知りました。私の認識と異なる現実に深い疑問と好奇心を抱き、実際に旅に出て何が学べるか試してみようと思ったんです。
――取材を始めた当初、この取り組みが3年間にわたると思っていましたか?
いいえ、まったく思っていませんでした。最初はバンすら持っていなくて……。テントやレンタカーを借りて、2週間ほど砂漠で取材した後、また1、2回砂漠に戻って取材しました。そしてハーパーズ・マガジンに記事が載ったときには、これでこの物語は終わりかなと思っていたんです。でも、まだたくさんの疑問があったし、雑誌の記事には収まりきらなかったネタもたくさんありました。私はまだこのコミュニティに夢中で、自分が出会った人たちがどうなるのか知りたかったのです。幸運なことに、私の雑誌編集者には書籍編集者の友人がいて、彼女が私にこれを本にできるかと聞いてきたので、「なんてことなの! もちろんです!」と答えました。それが本当の始まりでした。
最近、配送の過剰な梱包をしなくなったのは良いと思いますが、その分、商品は丁寧に扱って欲しいです。玄関先の置き配をお願いしたのですが、雑に置かれたのか本の角が凹んでました。
誰かの意見に対して別の角度から疑問を投げかけたり議論をすることが歓迎されている状態ということは「自分の意見」も俎上にあがることがあるという、時には緊張感も漂う状態だと言えるでしょう。その先に期待できるのは、イノベーションと組織の成長です。組織として1人あるいは一握りの人たちでは考えつかなかったリスクやチャンスについて気づき、事業や経営に関する重大な危機や損失が起こる前に軌道修正できるかもしれないからです。
本書では、心理的安全性を高めるために、病院や企業などがどのようなステップをたどったかを紹介し、心理的安全性が組織のパフォーマンスに重要な理由を、調査結果などを示しながら順に説明していきます。そして、最後には「心理的安全性に関する、よくある質問」で、心理的安全性を自分たちの組織やチームに導入することへの迷いへのアドバイスで終わります。心理的安全性を組織に根づかせるには、たゆまぬ努力をし続けないといけませんが、促進・継続する価値はあると、本書は教えてくれます。
日本には、「腹を割って話そう」という表現があります。上司からこの言葉を言われると「何を言わせようとしているんだろう」と身構えてしまう人もいるかもしれません。話す人が不利益を被らないことが、心理的安全性には必要で、ただ「不満がある人は言ってください」とか「今の組織をどうしたらいいと思いますか」と問うだけでは組織は変わらないということも、本書から教わりました。
翻訳書としてもとても自然で読みやすい日本語でわかりやすかったですし、本編後の早稲田大学教授の村瀬氏による解説でさらに理解が進みます。信頼との違いについての考察はとくに興味深く、説得力がありました。
最後の点になりますが、本書で言う「賢い失敗」が許される組織は、強いと思います。一方で、その失敗ができるだけの(ある程度の)余裕が経営資源にないと難しい部分もありそうです。私は非営利セクターに身を置いていますが、助成金や補助金、寄付が事業を展開する主要な資金減の場合、どこまでそのような失敗が許されるだろうかと、考えています。あきらめるということではなく、何から始められるか、何なら可能なのか考えてみたいと思いました。
きちんと「ビジネス」や「企業」についても考えた上で、組織にとって心理的安全性が価値があるということを、論理的に説明してくれている1冊です。
筆者は1990年代から長年心理的安全性について研究し、学術研究結果と官民両方の実例など、かなり網羅された内容になっていていました。
今までこんなに凝縮された内容は読んだことがなかったので驚きました。
具体的に「心理的安全性を実現させる」方法や、実現している組織名やプロセスも書かれていました。
ただし、海外の事例が中心なので、日本で全てがそのまま実現可能かという点は疑問が残り、読み手に委ねられています。