高額医療費増 8月見送り

2025年03月09日 09時28分47秒 | 医科・歯科・介護

高額療養費制度 負担上限額 ことし8月の引き上げ見送りへ 政府

高額療養費制度の負担上限額の引き上げについて、政府は与野党からさらなる見直しを求める意見が出ていることから、ことし8月の引き上げを見送る方針を固めました。

医療費が高額になった患者の自己負担を抑える高額療養費制度の見直しについて、政府は物価や賃金の上昇を踏まえ、ことし8月の負担上限額の引き上げは予定どおり行う一方、来年8月以降の制度のあり方は改めて検討し、ことし秋までに決定するとしていました。

しかし立憲民主党などの野党やがん患者らが引き上げの凍結を強く求めていることに加え、与党の参議院側を中心に国民の理解が十分に得られていないとしてさらなる見直しを求める意見が出ていたことから政府内で対応を協議してきました。

その結果、ことし8月の引き上げを見送り、制度のあり方を再検討する方針を固めました。

具体的な対応は、来年8月以降の制度のあり方とあわせて検討し、ことし秋までに結論を出したいとしています。

一方、政府・与党内では、引き上げの見送りに伴う新年度予算案の取り扱いについても慎重に調整が進められています。

石破総理大臣としては、7日中にもがんや難病の患者団体と面会し意見を交わしたい考えです。

石破首相「患者団体の話も聴いて政府として判断」

石破総理大臣は参議院予算委員会で「今の時点で方針は決まっていない。きちんと患者団体の人たちの話も聴いて政府として判断する。今日に至るまでの審議の過程や見直しの意義、それに、これから先の展開を視野に入れながら決まるものだ」と述べました。

また「ことし夏の参議院選挙が戦えないという声があるから見直すのではないか」と問われ「与党の中のいろいろな意見は当然、尊重して聴いていかなければならないし、野党の指摘も踏まえながら政府としてよく判断していく。選挙目当てで決めることはない」と述べました。

石破首相 きょう患者団体と面会で調整

石破総理大臣は、午後の参議院予算委員会で、高額療養費制度をめぐり、7日に患者団体と面会する方向で調整していることを明らかにしました。

また、高額療養費制度のことし8月の負担上限額の引き上げに理解を求める立場を変えたのか問われ「いろいろな可能性はある。高額療養が、医学の進歩に伴ってさらに増えていく中で、制度を維持するために何をすべきかということについて国会で答えてきた。その思いは今も変わっていない」と述べました。

「まずは安心した」 がん患者の受け止めは

高額療養費制度について政府がことし8月の負担上限額の引き上げを見送る方針を固めたことについて、がん患者からは「まずは安心したが、いつか患者の負担が増えるのではないかという不安を感じる」などという声も聞かれました。

東京・小平市に住む水戸部裕子さん(50)は、肺がんが最も進行した状態の「ステージ4」と診断され、これまで何度も高額療養費制度を利用してきました。

それによって自己負担は多い時でも、月に8万円ほどに抑えられていましたが、もし8月に負担上限額が引き上げられた場合、8000円ほど増える可能性がありました。

水戸部さんは高校生と中学生の息子がいて、教育にかかる支出も増えている中で、政府が負担上限額の引き上げを見送る方針を固めたことを知り、まずは安心したといいます。

一方で、ほかの患者からは「制度の見直しが白紙撤回されるまで安心できない」などといったメッセージがSNSで送られてきています。

水戸部さんも「引き上げはいったん見送られたものの、今後、制度が見直され、いつか患者の負担が増えるのではないかという不安を感じる」と話しています。

その上で「医療保険の財政が悪化し、その対策が必要だという考えはわかるが、一番苦しい状況にある患者が最初に追い込まれるのはやはりおかしいと思う。ほかに見直すべきものは無いか、じっくりと議論することが必要で、その際には患者の意見も聞く場を国が設けてほしい」と話しています。

なぜ見送り?政治部 長谷川デスク解説

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Q.反対の声なども出ていた中、なぜこのタイミングで引き上げ見送る方針固めた?

野党第1党の立憲民主党が、がん患者の要望を踏まえて負担上限額の全面的な凍結を求めていました。

これに加えて、与党内からも見送りを求める声が強まっていました。

6日の参議院予算委員会で公明党から国民の理解が十分得られていないと強く見送りを迫る声がありました。

自民党内でも、参議院側を中心にこのまま引き上げれば与党に強い批判が向かうという声が出ていまして、少数与党の政権運営に苦慮する政府としては与野党からのこうした声に応じる必要があると判断したものとみられます。

Q.与野党の反応は

立憲民主党からは、大きな成果だという声が出ています。
ある幹部は、予算委員会で野田代表が強く求めていたということを踏まえ、粘り勝ちだという声も出ています。

与党内からも「地元を回っていると引き上げに厳しい反応が多かった」「このまま引き上げれば選挙で大敗するところだった」など、とりあえずことし夏の東京都議選や参議院選への影響を回避されたとして安どする声が広がっています。

Q.新年度予算案の再修正、今後どうなっていくか

まだ決まったわけではなく、政府与党内では、たしかに修正が必要ではないかという指摘が出ています。

今回の見送りを受けて、どういう対応が可能かということを与党内で協議が行われているものとみられます。

新年度予算は衆議院で教育無償化の具体策などを反映した形で修正を行って可決され、現在参議院で審議されているわけですが、再度修正となると、衆議院に予算を戻してまた予算審議をする必要があるのではないかという指摘もあります。

与党内が目指す年度内成立は、今の段階でもタイトなスケジュールですが、これが予算の再修正となるとさらに厳しくなります。

与党内で慎重に対応を検討するものとみられます。

高額療養費制度 これまでの協議の経緯

「高額療養費制度」は、高額な治療を受けた際に、患者の負担が重くならないよう、ひと月あたりの医療費の自己負担に上限を設けるものです。

政府は、高額な薬の利用などによって、医療保険の財政が悪化していて、支え手となる現役世代の保険料負担を軽減していく必要があるとして、去年12月、負担上限額を、ことし8月から再来年にかけて段階的に引き上げる方針を決めました。

これに対し、患者団体などから「治療の継続を断念しなければならなくなる」などと反対の声が上がったことを受け、政府は方針を一部修正して、長期的に治療を続ける患者の負担については、いまの金額のまま据え置くことを決めました。

その後、衆議院での新年度予算案の修正協議をめぐり、立憲民主党が負担上限額の引き上げを全面的に凍結するよう強く求めたことから、石破総理大臣は、さらに修正して、ことし8月からの引き上げは予定どおり行う一方、来年以降の制度のあり方については患者団体などの意見も聴いた上で改めて検討し、ことし秋までに決定する方針を示しました。

しかし、予算審議の舞台が参議院に移っても、批判はやみませんでした。

野党に加え与党からも、ことし8月からの引き上げについて「国民の理解が十分に得られていない」などとして、石破総理大臣にさらなる見直しを求める意見が出ていました。

公明 斉藤代表「国民の理解いただけるよう努力」

公明党の斉藤代表は記者会見で「私は、まだ方針を何も聞いていないが、この制度の重要性について、これからも国民の理解がいただけるようにしっかり政府・与党として努力していかなければならない」と述べました。

立民 野田代表「熟議の国会の1つの成果」

立憲民主党の野田代表は記者会見で「もし本当に8月からの引き上げが凍結されるなら、これまで総力戦で凍結のために奮闘してきたので熟議の国会の1つの成果になるのかなという思いだ」と述べました。

その上で「参議院の予算委員会の質疑でも与党内から不安の声が出ていたので、政府・与党が再検討に追い込まれたのではないか。われわれも粘り強く主張してきたし、関係団体もあきらめずに来たので、ようやく成果になりつつあり、戦い続けることの必要性を改めて感じることができた。石破総理大臣はもっと早い段階で英断を下すべきだった」と述べました。

維新 吉村代表「引き上げ反対という考え 今も変わっていない」

日本維新の会の吉村代表は大阪府庁で記者団に対し「引き上げを見送る方針には賛成だ。高額療養費の制度は、いざという時、大病にかかった時のためのものであり、上限の引き上げに反対という考えは今も変わっていない」と述べました。

国民 玉木代表「衆議院で審議をやり直せといいたい」

国民民主党の玉木代表はNHKの取材に対し「患者の不安に応えていくという意味では評価するが、なぜ衆議院の予算審議の段階でその判断ができなかったのか。判断が遅く、ぶれていると言わざるを得ない」と述べました。

その上で「高額療養費制度における負担上限額の引き上げを前提とした新年度予算案に自民・公明・日本維新の会は賛成したわけだが、方針を変えるのであれば、もう1回、衆議院で審議をやり直せといいたい」と述べました。

共産 山添政策委員長「そもそも引き上げが間違っている」

共産党の山添政策委員長は記者会見で「与党の議員からも『国民の理解が得られていないのではないか』といった指摘が出されるほどの状況で、衆議院で行われた修正が、いかに当事者の思いなどからかけ離れたものだったかということを示している。衆議院の審議で予算案に賛成した自民・公明両党と維新の会の責任は重い」と述べました。

その上で「怒りの世論を今になってようやく受け止め、ことし8月からの負担上限額の引き上げをやめるのは当然だが、遅すぎるというか、そもそも、引き上げることが間違っている。全面的な白紙撤回を求めていきたい」と述べました。

 


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