今日の「お気に入り」は、中原中也(1907-1937)の詩一篇。
わが半生
私は随分苦労して来た。
それがどうした苦労であつたか、
語らうなぞとはつゆさへ思はぬ。
またその苦労が果して価値の
あつたものかなかつたものか、
そんなことなぞ考へてもみぬ。
とにかく私は苦労して来た。
苦労して来たことであつた!
そして、今、此処、机の前の、
自分を見出すばつかりだ。
じつと手を出し眺めるほどの
ことしか私は出来ないのだ。
外では今宵、木の葉がそよぐ。
はるかな気持の、春の宵だ。
そして私は、静かに死ぬる、
坐つたまんまで、死んでゆくのだ。
(角川春樹事務所刊 「中原中也詩集」 所収)
わが半生
私は随分苦労して来た。
それがどうした苦労であつたか、
語らうなぞとはつゆさへ思はぬ。
またその苦労が果して価値の
あつたものかなかつたものか、
そんなことなぞ考へてもみぬ。
とにかく私は苦労して来た。
苦労して来たことであつた!
そして、今、此処、机の前の、
自分を見出すばつかりだ。
じつと手を出し眺めるほどの
ことしか私は出来ないのだ。
外では今宵、木の葉がそよぐ。
はるかな気持の、春の宵だ。
そして私は、静かに死ぬる、
坐つたまんまで、死んでゆくのだ。
(角川春樹事務所刊 「中原中也詩集」 所収)
今日の「お気に入り」は、高浜虚子(1874-1959)の句をいくつか。
春雨の貴船に詣る女かな
琴坂の左右や春水迸(ほとばし)る
苔青く紅葉遅しや二尊院
洛北の貴船神社、宇治の興聖寺、嵯峨野の二尊院、京都の三つの名勝で詠んだ句といいます。
春雨の貴船に詣る女かな
琴坂の左右や春水迸(ほとばし)る
苔青く紅葉遅しや二尊院
洛北の貴船神社、宇治の興聖寺、嵯峨野の二尊院、京都の三つの名勝で詠んだ句といいます。
今日の「お気に入り」は、橘曙覧(たちばなのあけみ)(1812-1868)の「独楽吟」の歌をいくつか。
たのしみは心にうかぶはかなごと
思いつづけて煙草吸う時
たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどい
頭ならべて物を食う時
たのしみは火鉢(すびつ)のもとに打ち倒れ
ゆすり起すも知らで寝し時
たのしみは朝起きいでて昨日まで
無かりし花の咲ける見る時
たのしみは心にうかぶはかなごと
思いつづけて煙草吸う時
たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどい
頭ならべて物を食う時
たのしみは火鉢(すびつ)のもとに打ち倒れ
ゆすり起すも知らで寝し時
たのしみは朝起きいでて昨日まで
無かりし花の咲ける見る時