「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

Long Good-bye 2019・10・31

2019-10-31 05:00:00 | Weblog





  今日の「お気に入り」。


  「 アンはその夜、満足することの幸福をしみじみ味わった。桜の枝を風が静かに

   わたり、ハッカの香がただよってきた。星は窪地(くぼち)の樅の上でまたたき、

   木の間からダイアナの窓の灯(ひ)が輝(かがや)いていた。

    アンの地平線はクイーンから帰ってきた夜を境としてせばめられた。しかし

   道がせばめられたとはいえ、アンは静かな幸福の花が、その道にずっと咲(さ)

   きみだれていることを知っていた。真剣(しんけん)な仕事と、りっぱな抱負

   (ほうふ)と、厚い友情はアンのものだった。何ものもアンが生まれつきもって

   いる空想と、夢の国を奪(うば)うことはできないのだった。そして、道には

   つねに曲り角があるのだ。


   『神は天にあり、世はすべてよし』(訳注 英国の詩人ブラウニング(1812-89)

   の言葉)とアンはそっとささやいた。


   ( Lucy Maud Montgomery 著、村岡花子訳 「赤毛のアン」(原題 "Anne of Green Gables") 新潮文庫所収 )



                


   「赤毛のアン」の最後の文章、その原文は:

    " God's in his heaven, all's right with the world." whispered Anne softly.

         
   


       ・・・・ And there was always the bend in the road. ・・・・・

               
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Long Good-bye 2019・10・25

2019-10-25 05:30:00 | Weblog






  今日の「お気に入り」。


  「 アンが小川の丸木橋をわたると、グリン・ゲイブルスの台所の灯が『 お帰り 』という

   ようになつかしくまたたいており、あいている戸口から炉の火が輝いて、秋の夜寒にあた

   たかそうな赤い光を放ってい た。アンが元気よく丘を駆けあがり台所に駆けこむと、テー

   ブルの上には熱い夕食が待っていた。

   『 やっと、帰ってきたね 』とマリラは言って、編物をしまった。

   『 ええ、ああ、帰ってきてうれしいわ 』アンはうれしそうに叫んだ。

   『 なにもかも、時計にだってキスしたいくらいだわ。マリラ、焼き鶏ね! まさかあたし

    のためにこさえたんじゃないでしょうね 』

   『 そうだよ。あんたにさ 』マリラは答えた。『 あんなにながいこと乗ってくるんだから、

    さぞお腹をすかしてくるだろうと思ってね、なにかおいしいものがほしかろうと思ったのだよ。

    さあ早く、外套や帽子をぬいでおいで。マシュウが帰ってきたらすぐ食事だよ。あんたが帰っ

    てきてたすかったよ。あんたがいないと、ひどくさびしくてね、こんなながい四日間をすごし

    たことはないよ 』

    夕食のあと、アンは炉の前に、マシュウとマリラの間にすわり、町でのことをすっかり話して

    きかせ、最後にうれしそうに、『 とてもすばらしかったわ。あたしの生涯で画期的なことにな

    ると思うの。 でもいちばんよかったことは家へ帰ってくることだったわ 』」


   ( Lucy Maud Montgomery 著、村岡花子訳 「赤毛のアン」(原題 "Anne of Green Gables") 新潮文庫所収 )



                 

         
   


                
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Long Good-bye 2019・10・19

2019-10-19 05:25:00 | Weblog



  今日の「お気に入り」。


  「 アンの予感は的中した。この午後のできごとを知ったときのバーリー家とクスバート家の

   騒ぎはたいへんなものだった。

  『 いったい、いつになったら、あんたに分別がつくんだろうね、アン 』マリラはうめいた。

  『 つきますとも、だいじょうぶよ、マリラ 』アンはうきうきと答えた。東の部屋で一人きり

  で思う存分に泣いたので神経も休まり、いつもの快活さがもどったのだ。

  『 分別がつく見込みは、いまじゃずっとたしかになりました 』

  『 さあ、どんなもんかね 』

  『 だってね、あたし、きょう、新しく、とてもいいことを学んだんですもの。グリン・

   ゲイブルスにきてからずっとあたしは失敗ばかりしてきたけれど、一つするたびになに

   かしら自分のとてもわるい欠点がなおっていたのよ。紫水晶のブローチのことでは自分

   のものじゃない品物にさわるくせがなおったし、『 お化けの森 』のことではあんまり

   想像をめぐらせすぎることがなおったし、塗り薬のお菓子の失敗は、お料理は注意ぶかく

   しなくてはならないことを教えてくれたんですもの。髪を染めたことで虚栄心をなおし

   たし、いまじゃもう、自分の髪や鼻のことを考えないわ―― たまにしかね。それから

   きょうの失敗は、あたしがあんまりロマンチックすぎるのをなおしてくれたわ。アヴォ

   ンリーじゃロマンチックになろうとしてもだめなことがわかったの。何百年も昔の塔の

   町キャメロットでだったら、よかったんでしょうけれど。でもいまじゃ、ロマンスはあ

   んまりはやらないわ。もうあたしもすっかり変わってしまう時がきたと思います、マリ

   ラ 』

  『 そうなれば結構だがね 』マリラはうたがわしそうに言った。

   しかし、マリラが部屋から出て行ってしまうと、いつもきまった自分の片すみに黙り

  こくってすわっていたマシュウが、アンの肩に手をかけて、『 お前のロマンスをすっかり

  やめてはいけないよ 』とアンにもじもじしながらささやいた。

  『 すこしならいいことだよ――あんまり度を越しちゃいけないがね、もちろん――。だが

   すこしはつづけるんだよ、アンや、すこしはつづけたほうがいいよ 』」


   ( Lucy Maud Montgomery 著、村岡花子訳 「赤毛のアン」(原題 "Anne of Green Gables") 新潮文庫所収 )



                 

         
   



                
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Long Good-bye 2019・10・09

2019-10-09 05:25:00 | Weblog



  今日の「お気に入り」。


   「 アンにものごとを冷静に受けとれということは、性格を変えろということになるだろう。

   全身これ『 活気と火と露 』のようなアンではあったが、人生のよろこびも苦しみもアンには

    三倍も強く感じられた。これを見ているマリラとしては、アンが運命の浮き沈みの中で、どん

    なに激しい苦しみをしなければならないかと思うと、言いしれぬ不安を覚えるのだった。マリ

    ラには、苦痛が激しく感じられる心には、よろこびもそれだけ強くこたえるものであり、それ

    で十分つぐないはついていくのだということが理解できなかった。いつでも静かに、気分の平

    均を失わないなどということは、川の浅瀬にキラキラおどる光線のようなアンには、まったく

    見当もつかないものだったのに、マリラはアンにその落着きを与えるのが自分の義務だと思い

    こんで、苦心するのだが、どうもうまくいかなかった。なにかの希望や計画がだめになったと

    なると、アンは『 絶望のどん底 』へ落ちこんでしまうかわりに、それがかなったとなると歓

    喜の世界で有頂天になってしまうのだった。この気まぐれ少女を自分の好みにかなった地味な

    性質に改造することには、もうマリラもそろそろあきらめかけていたし、じつのところは現在

    のままのアンをけっしてきらいではなかった。」


   ( Lucy Maud Montgomery 著、村岡花子訳 「赤毛のアン」(原題 "Anne of Green Gables") 新潮文庫所収 )



                 


   主人公アン・シャーリーの性格を言い表す「活気と火と露」は「赤毛のアン」冒頭の

   題辞の中にある言葉。

   英国の詩人 Robert Browning (1812-1889) の " Evelyn Hope " という詩の一節を

  モンゴメリ女史は二行だけ抜粋し、「赤毛のアン」の題辞とされています。


   英語の原文:

    ” The good stars met in your horoscope,

     Made you of spirit and fire and dew ” 
 

   村岡花子さんの訳文:

    「天空の導きの星が汝の運命を定め、

     活気と火と露もて汝の魂を創り給いし」

         
   


               
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Long Good-bye 2019・10・01

2019-10-01 04:50:00 | Weblog



  今日の「お気に入り」。


   「 あのね、マリラ、何かを楽しみにして待つということが、そのうれしいことの半分にあたるのよ」と

    アンは叫んだ。

   「 そのことはほんとうにならないかもしれないけれど、でも、それを待つときの楽しさだけはまちがい

    なく自分のものですもの。リンドの小母さんは、『何ごとも期待せぬ者は幸いなり、失望することなき

    ゆえに』って言いなさるけれど。でも、あたし、なんにも期待しないほうが、がっかりすることより、

    もっとつまらないと思うわ 」


   ( Lucy Maud Montgomery 著、村岡花子訳 「赤毛のアン」(原題 "Anne of Green Gables") 新潮文庫所収 )



                 

         
   


               
               
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする