「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2008・12・19

2008-12-19 09:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、森鷗外(1862-1922)の詩「えのしま」。


  手をたづさはり  むつびつつ
  清き白浜     とめくれば
  苔みどりなる   いはむろに
  波打寄せて    砕け散る

  あないぶかしや  吾背子は
  いくさのにはに  ましますを
  などえのしまに  来まししと
  おもへば夢は   さめにけり

  火影さびしき   閨のうち
  おもひいづれば  むかしより
  このみ祠に    めをとして
  詣づな努(ゆめ)と いふぞとよ

  ながき別と     なりぬべき
  讖(しるし)にもやと まどはれて
  もも筋千筋(ちすぢ) 絶間なく
  涙はおちぬ     枕辺に
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2008・12・11

2008-12-11 08:05:00 | Weblog
今日の「お気に入り」。


  山河はや冬かがやきて位(い)に即(つ)けり (飯田龍太)
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2008・12・01

2008-12-01 08:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、北原白秋(1885-1942)の「邪宗門秘曲」。

  
 われは思ふ、末世の邪宗、切支丹でうすの魔法。
 黒船の加比丹(かひたん)を、紅毛の不可思議国を、
 色赤きびいどろを、匂(にほひ)鋭(と)きあんじやべいいる、
 南蛮の桟留縞(さんとめじま)を、はた、阿剌吉(あらき)・珍酡(ちんた)の酒を。

 目見(まみ)青きドミニカびとは陀羅尼(だらに)誦(ず)し夢にも語る、
 禁制の宗門神を、あるはまた、血に染む聖磔(くるす)、
 芥子粒を林檎のごとく見すといふ欺罔(けれん)の器(うつは)、
 波羅葦僧(はらいそ)の空をも覗く伸び縮む奇なる眼鏡を。

 屋(いへ)はまた石もて造り、大理石(なめいし)の白き血潮は、
 ぎやまんの壷に盛られて夜(よ)となれば火点るといふ。
 かの美(は)しき越歴機(えれき)の夢は天鵝絨(びろうど)の薫(くゆり)にまじり、
 珍らなる月の世界の鳥獣映像(うつ)すと聞けり。

 あるは聞く、化粧(けはひ)の料(しろ)は毒草の花よりしぼり、
 腐れたる石の油に画(ゑが)くてふ麻利耶の像よ、
 はた、羅甸(らてん)、波爾杜瓦爾(ぽるとがる)らの横つづり青なる仮名は、
 美くしき、さいへ悲しき歓楽の音(ね)にかも満つる。

 いざさらばわれらに賜へ、幻惑の伴天連尊者、
 百年(ももとせ)を刹那に縮め、血の磔(はりき)脊(せ)にし死すとも
 惜しからじ、願ふは極秘、かの奇しき紅の夢、
 善主麿(ぜんすまろ)、今日を祈(いのり)に身も霊(たま)も薫(くゆ)りこがるる。
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