「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

蕪村 2005・10・31

2005-10-31 06:30:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は与謝蕪村(1716-1783)の句です。

 「宗任に水仙見せよ神無月」

 「待人の足音遠き落葉哉」

 「菊は黄に雨疎かに落葉かな」

 「蕭条(せうでう)として石に日の入(いる)枯野かな」

 「古郷にひと夜は更るふとんかな」
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2005・10・30

2005-10-30 07:10:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「パリの空港でトランクに腰かけて何か待っている男がいます。どうかなすったかと問うと、いやいま遠くから着いたが、体は着いたが心がまだ着かない。それを待っていると答えたという話をむかし読んだことがあります。」


  (山本夏彦著「良心的」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)
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2005・10・29

2005-10-29 06:10:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「文士や詩人はアウトローである。人殺しなんかしなくても人殺しが書けるのは、胸中で何人殺したかしれないからである。」


 (山本夏彦著「良心的」-夏彦の写真コラム-新潮文庫所収)
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2005・10・28

2005-10-28 06:10:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「わが税制は複雑をきわめているから簡単にする必要がある。税金はイヤなものである。私はあれは奪われるものだと心得ている。それではあんまりくやしいからくれてやるものだと思うことにしている。『まる優』は恩恵だと言うがそれは国や税吏の言い草で、預金はあらゆる税を奪われたカスまたは宝だとは何度も言った。
 その預金の零細な利子に更に課税するのは二重三重の課税で、国家ともあろうものが本来してはならぬことで、ドロボーかサラ金のすることである。何が恩恵か。」


  (山本夏彦著「良心的」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)

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2005・10・27

2005-10-27 06:25:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集の中の「菊池寛百歳」と題したコラムから。

 「菊池の文章はひと口に言えば、あらゆるムダを去ってまっすぐに目的に達してそれでいて味わいある無類のものである。芥川龍之介の弔辞にもそれはみられる。

  芥川龍之介君よ
   君が自ら択み自ら決したる死について
   我等何をか云はんや
   ただ我等は君が死面に平和なる微光の漂へるを見て甚だ安心したり
   友よ安らかに眠れ!
   君が夫人賢なれば
   よく遺児を養ふに堪ゆるべく
   我等亦微力を致して君が眠のいやが上に安らかならん事に努むべし
   ただ悲しきは
   君去りて我等が身辺とみに蕭条たるを如何せん

 芥川は死の直前たまたま不在中の菊池を会社に訪ねたという。それを社員の誰も伝えなかった。芥川は何か訴えたかったのだろう。あるいは今一度別れを告げたかったのだろう。よく来る客だから社員は伝えるのを忘れたのだろうが、ひとこと言ってくれればかけつけたものをと、菊池は足ずりせんばかりにくやしがったという。」


  (山本夏彦著「良心的」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)
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恩怨ともに忘る 2005・10・26

2005-10-26 06:25:00 | Weblog

 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「韓国人が日本人を憎んでいることは知られだしたが、それが度を超えていることは知られていない。

 ”朝鮮征伐”ということばが『広辞苑』にあるのを削れといってもめたことがある。韓国人は文禄慶長の役と

 聞いただけで顔色をかえるという。だから加藤清正の虎退治の話なんかするのは禁物である。いつぞやの

 光州事件というのはシラギとクダラの争いだと読んだことがある。光州育ちは差別されて絶対に出世しない

 そうである。してみれば同じ民族の間の怨みも深いのである。
 
  怨みを忘れないのは韓国人だけではない。スターリンは第二次大戦末期に参戦して、これで日露戦争の

 怨みをはらしたと言ったと読んで私は驚いた。日本人は日露戦争の勝利に酔って他を忘れている。だから

 怨みと言われて驚いたのである。

  かれらとくらべるとわれらは怨むということを知らないに近い。なるほど韓国人に好意を持たない日本人は

 多いが、それは韓国人が日本人を憎んでいるのとはくらべものにならない。

  日本はアメリカと戦って敗けて占領されながらアメリカ人を憎まない。怨まない。マッカーサー元帥が解任

 され日本を去るときなど『マッカーサー元帥萬歳』をとなえんばかりだった。ソ連の参戦とそのあとの強制連行

 と過酷な労働によって何万という人が殺されたことを言う人は少い。したがって怨む人もまた少い。

  蒋介石は怨みに報いるに徳をもってするといって日本人全員を早速送りかえした。賠償を求めないと声明を

 発した。それを恩義に感じている人は稀である。

  このぶんでは原爆許すまじも口さきだけで、本気で憎んでいる人はないのではないか。日本人は恩怨ともに

 忘れる。千年前の怨みを忘れないのはよいことではないが、すぐ忘れるのもまたよくないのではないか。そして

 忘れる国民は忘れない国民に犇とかこまれているのである。」

  (山本夏彦著「良心的」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)





                 
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2005・10・25

2005-10-25 05:50:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「もうずいぶん前から私は月日がたつのは早いと言わない。第一そんなことを思わない。子供じゃあるまいしハタチすぎれば月日がたつのは早い。三十すぎればなお早い。四十五十は矢のようだと昔からきまっているのに、毎年言うのは月並であり愚痴である。」

 「一日の苦労は一日で足りるのである。一日が充実していればそれだけでいいのである。月日がたつのは早いとただ挨拶に言うのならいいが、もし本気なら精神衛生上よくない。」

  (山本夏彦著「良心的」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)
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白髪は知恵のしるしではない 2005・10・24

2005-10-24 08:00:00 | Weblog
   今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

  「齢をとって利口になるなら齢をとった甲斐があるが、白髪は知恵のしるしではない。それでは若くさえあればいいか

  というと、あれは今の老人の○十年前の姿だから同じく何の値打もない。」


  「平均寿命がふえて老人がふえるのはよいことではない。ことに隠居しないで老人が政財界の要職を占めているのは

  よくない。中国やソ連の幹部は老齢というより頽齢である。わが国でも各界の親玉は老人である。明治初年の大臣

  参議は多く三十代だった。
 
   当時の三十代の参議と今の六十代の閣僚をくらべて参議のほうが偉かったというものがある。もし偉かったとすれば

  それは才能は天賦だということの一証左である。

   いま歴代内閣の閣僚は老齢にすぎるといわれている。若くしなければいけないといわれている。けれども若返るという

  発想はすでに老人のものである。これを若返らせるのはわけはない。まず七十以上の高齢者から大臣候補になる資格を

  奪う。次回は六十以上はなれないことにする。その次は五十以上はなれないことにすればみるみる大臣また国会議員は

  四十代になって維新の昔に近くなるのに誰も賛成しない。すれば自分が大臣になれないからで、若くしたいなんて本気

  ではないことがこれで分るのである。」

  (山本夏彦著「良心的」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)





               


         
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2005・10・23

2005-10-23 06:25:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「俗に『役者子供』といって役者は人並でないところがある。それでいて嫉妬心だけは人一倍旺盛である。新国劇はもと沢田正二郎の一座で、昭和四年沢正が急死したおかげで、まだ二十代の辰巳と島田は花形になれたのである。
 それを忘れて二人は五十年座長に居すわって後継者を育てなかった。緒方拳が頭角をあらわしたら自分たちを凌ぎはしないかと緒方を居られなくした。大山勝巳なら安心だから邪魔にしなかったが、大山では客は呼べない。それに気がついたときはすでに遅かった。客は辰巳島田と共に老いて新国劇そのものがつぶれてしまった。」

  (山本夏彦著「良心的」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)
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言論の自由 2005・10・22

2005-10-22 06:20:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「私は『言論の自由』と聞くとカッとなるくせがある。それは危険なときは黙っていて、安全と見てとると我がちに言う自由のことかと思うからである。」

 「言論の自由は、隣人と同じことを言う自由である、隣人と共に罵る自由である、同じことを言わないと言えと忠告して、なお言わないと『村八分』にする自由である。こんな自由なら戦争中もあったし、今もあるし、これからもある。」

 (山本夏彦著「美しければすべてよし」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)
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