我が家の老犬が、丁度一年前、生れてから13年1ヵ月余で息を引き取りました。今日の「お気に入り」は、歌人で犬の研究家である平岩米吉さんの歌です。
「犬は犬 われはわれにて 果つべきを いのち触りつつ むすぶ悲しさ」
山本夏彦さんにこんなコラムがあります。
「犬は驚いたとき、腹がへったとき、甘ったれるとき、それぞれちがった鳴き声を発します。けれどもそれは五十種を出ません。人類はそれを犬が人より劣った証拠だとみなしてきましたが、我々の言論も、むろん五十以内に整理できます。犬ではすでに整理され、我々ではまだされていないからといって、それを高等だと思うのは身贔屓にすぎません。」
(山本夏彦著「日常茶飯事」所収)
「ずーっと昔から私は犬と人を区別しなかった。犬は人の鑑だと思っていた。共に哺乳類だからよく似た存在である。人間のことを人間によって知ろうとすると、身贔屓があって知ることが出来ない。犬によって知ろうとするとかえって知ることが出来る。のちに私は人を嫌悪するあまり、犬の振り見てわが振り直せ、と言うにいたった。私は犬を哺乳類の上位に置くものではないが、それでも人よりはましだと思っている。」
(山本夏彦著「笑わぬでもなし」所収)