今日の「 お気に入り 」は 、ノンフィクション作家 ビル・ブライソンさん の
著書 " The Body ― A Guide for Occupants " からの抜き書き 。
翻訳本の中で「 大気汚染は喘息の発作を起こすが病因ではない 」との
見出しがついた一節 。
" If YOU HAD to nominate someone to be a poster figure for
asthma, you could do worse than the great French novelist
Marcel Proust ( 1871 - 1922 ). But then you could nominate
Proust as a poster figure for a great many medical conditions
because he had a superabundance of them. He suffered from
insomnia, indigestion, backaches, headaches, fatigue, dizziness,
and crushing ennui. More than anything else, however, he was
a slave to asthma. He had his first attack at nine and passed a
wretched life thereafter. With his suffering came an acute germ
phobia. Before opening his mail, he would have his assistant
place it in a sealed box and expose it to formaldehyde vapors
for two hours. Wherever he was in the world, he sent his mother
detailed daily reports on his sleep, lung function, mental composure,
and bowel movements. He was, as you will gather, somewhat
preoccupied with his health.
Though some of his concerns were perhaps a touch hypochondriacal,
the asthma was real enough. Desperate to find a cure, he submitted
to countless ( and pointless ) enemas; took infusions of morphine,
opium, caffeine, amyl, trional, valerian, and atropine; smoked
medicated cigarettes; inhaled drafts of creosote and chloroform;
underwent more than a hundred of painful nasal cauterizations;
adopted a milk diet; had the gas to his house cut off; and lived as
much of his life as he could in the fresh air of spa towns and mountain
resorts. Nothing worked. He died of pneumonia, his lungs worn out,
in the autumn of 1922 aged just fifty-one.
In Proust's day, asthma was a rare disease and not well understood,
Today it is common and still not understood. The second half of the
twentieth century saw a rapid increase of asthma rate in most Western
nations, and no one knows why. An estimated 300 million people in the
world have asthma today, about 5 percent of adults and about 15
percent of children of those countries where it is measured carefully,
though the proportions vary markedly from region to region and
country to country, even from city to city. In China, the city of Guangzhou
is highly polluted, while nearby Hong Kong, just an hour away by train,
is comparatively clean as it has little industry and lots of fresh air
because it is by the sea. Yet in clean Hong Kong asthma rates are 15
percent, while in heavily polluted Guangzhou they are just 3 percent,
exactly the opposite of what one would expect. No one can account
for any of this. .
Globally, asthma is more common among boys than girls before puberty,
but more common in girls than boys after puberty. It is more common in
blacks than whites ( generally but not everywhere ) and in city people
than rural people. In children, it is closely associated with both being
obese and being underweight ; obese children get it more often, but
underweight children get it worse. The highest rate in the world is
in the U.K., where 30 percent of children have shown asthma symptoms.
The lowest rates are in China, Greece, Georgia, Romania, and Russia,
with just 3 percent. All the English-speaking nations of the world have
high rates, as do those of Latin World.
There is no cure, though in 75 percent of young people asthma resolves
itself by the time they reach early adulthood. No one knows how or why
that happens either, or why it doesn't happen for the unfortunate minority.
Indeed, where asthma is concerned, no one knows much of anything. "
( 出典 :Bill Bryson 著 " The Body ― A Guide for Occupants " .
Knopf Doubleday Publishing Group. 刊 )
上掲の英語の文章は 、翻訳本の中で 、次のように 日本語訳されています 。
「 喘息のイメージキャラクター に誰かを推薦する必要があるなら 、フラ
ンスの偉大な小説家マルセル・プルースト ( 1871 - 1922 年 ) を選ぶの
も悪くない 。とはいえ 、数え切れないほどの 体の不調を抱えていたプ
ルーストだから 、ほかにもたくさんの病気のイメージキャラクターに
推薦できる 。不眠症 、消化不良 、腰痛 、頭痛 、疲労 、めまい 、極度
の倦怠感にも悩まされた 。しかし何より 、喘息には苦しめられた 。九
歳のとき初めて発作を起こしてからは 、つらい人生を送った 。苦痛の
せいで 、異常なほどの細菌恐怖症になった 。郵便物は開封前に 、アシ
スタントに頼んで密封した箱の中に入れ 、ホルムアルデヒド蒸気で二
時間滅菌した 。
世界のどこにいるときも 、睡眠 、肺の調子 、心の落ち着き具合 、便通
について 、毎日詳しい報告を母親に書き送った 。ご推察のとおり 、プ
ルーストは自分の健康に少しばかり取り憑かれていた 。
懸念のいくつかは心気症的なものだったかもしれないが 、喘息は本物
だった 。必死に治療法を探していたプルーストは 、無制限に ( そして無
意味に ) 浣腸をし 、モルヒネやアヘン 、カフェイン 、アミル 、トリオ
ナール 、カノコソウ 、アトロピンを注射し 、薬用タバコを吸い 、クレ
オソートとクロロホルムを吸入し 、痛みを伴う鼻粘膜 焼灼術を百回以
上受け 、牛乳を中心とした食事をとり 、家へのガス供給を止めさせ 、
できるかぎり温泉町や山の保養地の新鮮な空気の中で生活を送った 。
しかし 、何ひとつ効果はなかった 。1922年の秋 、すっかり肺を
消耗させて肺炎を起こし 、プルーストは亡くなった 。まだ51歳だ
った 。
プルーストの時代には喘息はまれな病気で 、よく理解されていな
かった 。現代ではありふれた病気になったが 、理解はいまだに進ん
でいない 。二十世紀後半には 、ほとんどの先進国で喘息の発生率が
急増したが 、その理由は不明だ 。今日 、喘息患者は全世界に三億人
いると推定され 、注意深い測定が行われた国々では 、成人の約五パ
ーセント 、子どもの約十五パーセントを占めるという 。ただし 、
その割合には地域ごと 、国ごと 、さらには町ごとに大きなばらつき
がある 。中国では 、広州市は大気汚染が深刻だが 、列車でほんの
一時間の距離にある近隣の香港は 、製造業がほとんどない海辺の都
市なので空気がよく 、比較的汚染が少ない 。なのに 、香港の喘息
の発症率は十五パーセントだが 、大気汚染のひどい広州市の発症率
は三パーセントにすぎず 、予想とはまったく逆の結果になっている 。
その理由は誰にも説明できない 。
世界的に見ると 、喘息は思春期前では女子より男子に多いが 、思
春期後では男子より女子に多い 。白人より黒人に多く ( 一般にはそ
うだが 、どこでもというわけではない ) 、田舎に住む人より都会
に住む人に多い 。子どもについては 、肥満と低体重のどちらとも
密接な関連がある 。肥満の子どものほうが喘息にかかりやすいが 、
重症になりやすいのは低体重の子どもだ 。世界で最も発生率が高
いのはイギリスで 、2018年には三十パーセントの子どもが喘
息の症状を示した 。最も発生率が低いのは 、中国 、ギリシャ 、
ジョージア 、ルーマニア 、ロシアで 、わずか三パーセントだ 。
英語圏の国々はどこも発生率が高く 、ラテンアメリカの国々も同
じくらい高い 。治療法はないが 、若者の七十五パーセントは 、
成人期初期までには自然に治る 。どのようにして 、なぜ治るのか 、
あるいはなぜ少数の不運な子は治らないのか 、誰にもわからない 。
それどころか 、喘息については何もかもがよくわかっていないの
だ 。」
( 出典 : ビル・ブライソン著 桐谷知未訳 「 人体大全 ― なぜ生まれ 、
死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか ― 」新潮社 刊 )
原書および翻訳本の第13章からの引用はここまで 。
研究者に「 喘息についてただひとつ言えるのは 、主として欧米の病気であること
( " All we can really say about asthma is that it is primarily a Western disease. " ) 」
と言わせるほど喘息はよくわかっていない病気なんですね 。
三十代になって、気道が狭まる喘息発作に見舞われ 、苦しい思いをした経験が
ありますが 、四十代以降 、とんとご無沙汰です。
若い頃は 、お酒を飲むと 、皮膚の所々に蕁麻疹が出ましたが 、晩酌の習慣がな
いためか 、舐める程度のアルコールでは 、いつしか蕁麻疹が出ることも無くなり
ました 。
子どもの頃からアレルギー体質といわれてきましたが 、今の歳まで花粉症には
なりません 。
一筋縄ではいきませんね 。