しょうわちゃんはもちろん本名ではなく、会社の子がつけた名前だ。同じフロアの別のオフィスで働いている子のようだった。廊下でよく見かける人は他にもいるが、この子のことはちょっと気になっていて、時々会社の子と話していた。
おかっぱ(なんていったらいいの?ボブ)の、おとなしい感じで、普通なら全く目立たない子なのだが、さいしょの頃は毎日中原淳一の絵みたいな、ちょっと古風な感じのワンピースを着ていた。着こなしとしては普通でも、オフィスではちょっと異質だ。それも、たまにだったらすぐ忘れちゃうが、頻繁に見かけるので、印象に残ってしまう。全体的には、今風ではないとは言え良く似合っていたのだと思う。だから印象的だったのだろう。
その後、服装が替わり、裾の広いベルボトム風の上下になった。何となく、70年代初期のモードを思わせるものがあり、レトロな雰囲気は変わらなかった。どちらもとてもいい着こなしだが、周りとはちょっと異質なのだ。それで、会社の子に「さっき昭和の子と会った」というと、さっと通じた。
しょうわちゃんの独特なファッションはどこからきたのか。もしかしたら、お母さんが娘に色々買ってきてくれているものを着ているのではないか、と話したことがある。
「しょうわ、今度はこんなの買ってきたわよ。まあ、私の若い頃にそつくり」などといったりして。
しょうわちゃんと廊下ですれ違うと、よく目を伏せられた。きらわれてんじゃない、とからかわれたが、考えて見ると、僕がじろじろ見ていたのかもしれない。そのつもりはなくても、つい見てしまいたくなるのだ。
しょうわちゃんは一時期外で電話しているのを良くみかけたが、さいきんは全く見なくなってしまった。