うさぎくん

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カズオ・イシグロ氏インタビュー

2017年12月17日 | テレビ番組

16日(土)のNHK BS1で放映された、カズオ・イシグロ氏のノーベル文学賞受賞に伴う単独インタビュー番組を見た。

イシグロ氏は自らの生い立ちについて触れ、両親の生き方が自分が小説家になることそのものに強い影響を与えた、という。イシグロ氏の父は海洋学者で、イギリスに招かれて北海油田の開発に携わった。最初は数年で日本に戻ることを考えていたが、なかなか戻れずにいた。このことは、イシグロ氏をして自分たちは「訪問者」であって「移民」ではないという意識を与えた。イギリス人は異郷の地の「先住民」であり、その慣習を尊重するように言われた。が、「適応」することは求められなかった。自然、イシグロ氏は二つの異なる社会規範があることを理解し、イギリス人に距離を置いてみるように育った。ものごとを一方的に正しいとしてうのみのすることはなかった。

イシグロ氏は日本の50~60年代の小津映画などに、両親と過ごした家庭を見る。それは今日の日本の家庭とは違うかもしれないが、イシグロ氏にとっては懐かしい日本の家庭生活にうつるようだ。それがかれの小説世界の一つの背景になっているのだという。インタビューの最後のほうで触れているが、漫画(日本の)もまた彼に強い影響を与えており、その手法をこれからの作品に反映させたいのだという。表現形式のクロスオーバーというか、表現手法の多様性については例えば、昨年ノーベル賞を受賞したボブ・ディランについても、イシグロ氏は強い影響を受けている。かれの表現手法をスウェーデンの選考委員会が、文学賞に値すると判断したことは素晴らしいことだ、と激賞している。

イシグロ氏の作品世界については、僕は彼の作品をそれほど読んでいない(前にも書いたが、「浮世の画家」を英語と邦訳で、「ノクターン」を英語で読んでいる)ので、作品に関する彼のコメントは語りにくいのだが、彼の初期の一つの大きなテーマは、人生を振り返った時に、自らが打ち込んでしてきた仕事が、実は恥ずべき事であり、今は罪悪感を感じているという「記憶」にかんするものだったという。「浮世の画家」にはたしかにそういう面がある。彼は戦前にあっては国威を発揚する(戦争画のような?)絵を描く師匠のような存在であったものが、戦後はそれゆえに画壇での地位を失い、同時に家庭においても家長としての威厳を失っている。が、自らは直接その記憶に直面しようとはしていない。

こうしたテーマは、イシグロ氏が第二次大戦の直後に生を受け、また戦争を引き起こした日本の出身であることが影響している。しかし一方、自分を日本のことだけを書く作家とは見られたくない、という思いも強かったようだ。「日の名残り」は、戦前ナチスとの融和を図ろうとしたイギリス貴族の、執事の回想が主題なのだという(読んでいないのでわからないが、映画化もされているようだ。見たい)。

インタビューは多くの示唆に富んでいて、すべてを書き尽くすことはできないが、あと二つほど取り上げておく。

「私にとって文学とは、人間の感情に大きくかかわるもので、人間が作り出した壁を越えて感情を分かち合うことなのです」

「国家は暗い過去を忘れる方法をどのように決めるのか。国家は全身や結束のために社会が分裂し内戦に陥るのを防ごうと、過去を忘れなければならないことがあります。」国家はときに過去を忘れなければならないことがあると説き、しかし一方で、それまでおきた恐怖や不正に対処せず、安定した民主主義を保てるのか、ともいう。国もまた個人が抱える問題と同じ問題に悩んでいる。いつ思い出すべきか、いつ忘れるべきか、イシグロ氏はずっと、このテーマに心を奪われているのだ、という。

インタビュアーの「日本は過去の記憶にうまく向き合ってきたか」という質問に対しては、これはBS「国際報道」でもそこだけ抜粋して流していたが、「日本人にとってはは記憶にふたをして、自分たちが原爆の被害者と思おうとするほうが楽なのだろう。しかしだからこそ、事は微妙な問題になる。なぜなら、日本は軍国主義のファシズム社会から、近代的で自由な民主主義社会に移行するのに成功した輝かしい手本だからです。世界が不安定になりつつある今、日本は安定してる。これは日本が過去の暗い記憶を脇へ追いやらずになしえただろうか?日本のような良い社会を気づけるかどうかは無理にでも物事を忘れることにかかっているのかもしれません。それが正義ではなくてもです」

かなり踏み込んだ発言だ。インタビュアーはこのあともさらに畳みかけようとしているが、それは余分だろう。

先日、中国人の同僚とイシグロ氏について話す機会があった。たしかに文学は、人々をつなぐ架け橋としての役割があるようだ。

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