恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 77 三十三丁表 三十三丁裏 と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9
富田高至 編者
和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年
下 77 三十三丁表 三十三丁裏
三十三丁表
◯をかし、田村と云 能ありけり、その時の大夫、高安と
いふ、今もありけり、それを呼て、天王寺にて、三日しける、
人/″\、提(サケ)食籠もてきたる、もてきあつめたる、くひ
物、千ゝハかりあり、そこばくの提重箱を木の枝に付て
三十三丁裏
堂のまへに立てたれハ、山もさくらに堂の前にひかり出たる
やうになむ、みへける、それを「謡衆にありける藤市の
何ゆきか」とか申すゐたり、祝言のをハる程に、歌読む人
/″\を招き集て、「けふの御能を題二てあ云(ママ 春)の心
ハヘある歌たてまつらし給へ、」と云、右の馬の大夫
なりける翁、目ハたかりながら、よみける、
山婆の をハりて後の狂言ハ
腹しつきれて わらふなるへし
とよみけるを、今見れハ、よるもあらさりける、その
かみとこれやまさりけん、をかしかりける、
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
山婆の をハりて後の狂言ハ
腹しつきれて わらふなるへし
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
山のみな うつりてけふにあふ事は
春の別れを 塗布となるべし
提(サケ)食籠 (さげじきろう)
提げることができる食籠
食籠(じきろう)
〘名〙 食物を入れる漆器で、手に提げて持って行くようにしたもの。多く、丸形。
※言経卿記‐慶長三年(1598)九月二七日「常楽寺女中よりさけ食籠送給了」
食籠(じきろう)
1 食物を盛る器。ふたがつき、円形または角形。重ね式のものもある。
2 茶の湯で、菓子器などに使用されるふたのある器。
千ゝ (千
たくさん、くらいの意味だろう。
そこばく 【若干・許多】 副詞 (「そくばく」とも。)
①たくさん。
数量の多いさま。
出典伊勢物語 七七 「そこばくの捧(ささ)げ物を木の枝につけて」
[訳] たくさんの贈り物を木の枝につけて。
②たいそう。ひどく。▽程度のはなはだしいさま。
出典狭衣物語 三
「そこばく広き大路、ゆすり満ちて」
[訳] たいそう広い大通りに(見物人たちが)ざわめいて。
③若干。いくらか。
出典宇津保物語 吹上下
「そこばく選ばれたる人々に劣らず、ご覧ぜらる」
[訳] (涼(すずし)は)何人か選ばれた人々にも劣らないと、(院は)ご覧になる。
ここでは、 ①たくさん。数量の多いさま。
謡衆
地謡衆の意味か。
あ云(ママ)
はる(春)
馬の大夫
右の馬の大夫という意味
右馬寮(うめりょう/うまりょう) ←→ 左馬寮(さめりょう/さまりょう)
馬寮 (めりょう) の允 (じょう) で五位に叙せられた者。
馬寮 (めりょう) の允
馬寮(めりょう/うまのつかさ)は、律令制における官司の一つ。
唐名では典厩(てんきゅう)。
目ハたかりながら、よみける、
(人)目をはばかりながら、詠みける。
そのかみ
その当時
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