阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

ラオスの母子保健について報告会を実施

2011年09月28日 16時08分46秒 | 政治

 8月31日から9月3日までラオスに行き、国連人口基金(UNFPA)の案内でラオスの乳幼児死亡率の削減と妊産婦の健康の改善に関する視察を行いました。一昨日、国会内で報告会を実施し、母子保健の環境改善について提案を行いました。


*報告会にて意見発表する私
 


*ユースセンターにて今回参加したメンバーの方々と。牧山ひろえ参議院議員を団長に6名の国会議員とUNFPA(国連人口基金)、CSOネットワーク、そして国際開発ジャーナルからそれぞれ参加しました。


 私は1992-1993年にかけてUNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)で選挙監理要員として勤務しましたが、任地はラオスと隣接するラタナキリ州でした。同じ民族が国境を越えて交流する山岳少数民族の村に住み、独特の風習の中で生活しました。人々はカンボジアの公用語であるクメール語ではなく文字のない部族の言葉を話し、男性は褌姿、女性も上半身裸で生活するなど、クメール民族とは全く違う文化が色濃く残っていました。人々の生活は慣習法によって支配され、夜這いなどの風習も残っていました。

 牧山ひろえ参議院議員の紹介で「お母さんと子どもの命を守る勉強会」に参加した時、ラオスの山岳民族にも極めて近い風習があり、特に妊産婦には、様々な慣例によって行動が制約されていることを知りました。

「妊婦は出産の前後には囲炉裏の上で生活しなくてはならない」
「特定の色の食べ物は食べてはならない」
「森の中で出産しなくてはならない」


 カンボジアでの任務は、選挙を実施する上での現地責任者でしたが、選挙というものを経験したことがなく、また、文字もない人々に「選挙」という概念を浸透させ、実際に参加してもらうのは、大きなチャレンジでした。試行錯誤の末、コミカルな「劇」を演じ、山岳少数民族の方々にも参加してもらうことで、撃ち合い、殺し合いで物事を決める戦時の意志決定から、ひとりひとりが同じ価値を持つ一票を投じることで参加する「民主主義」の概念を伝える工夫をしました。結果的に選挙を無事実施できたこともあり、「妊産婦に対する衛生教育」についても、文化や風習を尊重しながらゴールに近づく有効な方法を考える上で、私自身も経験に基づいて貢献できる可能性があると考えて参加させて頂くことにしました。

 昨年、ラオス議連としても現地訪問をしています。メインテーマは日本からの投資の促進と中国などの投資や経済協力の実態を調べることでしたが、「妊産婦の囲炉裏の上での生活」に質問を絞り、母子保健についても会う人会う人に訊ねました。(私が唐突に質問するのでラオス語の通訳を務めて下さった石川書記官は大変だったと思いますが、とても上手に意図を伝えてくれました!)閣僚や国会議員を含む、影響力のあるポジションにいる方々全員が、伝統的な風習に賛成していることが非常に印象的でした。その多くが女性でした。
 
 日本政府はミレニアム開発目標の達成に向け、進捗が特に遅れている母子保健については、EMBRACE(エンブレイス:Ensure Mothers and Babies Regular Access to Care)という支援モデルをつくり、母子保健に取り組んでいます。私たちは現地の病院を視察し、妊産婦、妊産婦医療に関わる医者や助産婦からヒアリングを行った他、保健大臣、保健分野に知識の深い国会議員との対話を通して問題意識を構築し、何度かミーティングを行った上で、提案をまとめました。特に衛生教育に関しては、保健に関する正しい教育(家族計画の正しい知識、妊産婦健診の重要性、専門的技能者の立会いのもとでの出産の必要性、産後のケアや子どもの栄養など)の普及を目指すとして、下記のような提案をしました。私の問題意識を反映させた部分につき一部を紹介します。


*UNFPAラオス事務所にて薮田美恵子所長と


世代間交流を含めた教育プログラムの実施
古くからある規範や伝統を尊重する姿勢を保ちつつ、科学的根拠に基づく知識や情報の普及・共有に努める現代医療のレベルが格段に優れていないと、風習に基づく人間関係などをトータルで考えた時、「伝統的施術の方がマシ」と判断せざるを得ない。「科学的根拠」を認識できる医療がカバーできる範囲を広げ、少なくとも伝統的な施術との選択が可能な環境作りに寄与する。また、家庭や地域で権限を持つ年長者(特に妊産婦のお母さん)を参加者に含めたプログラムを実施する。


教育のツール
識字率が低いと言われる山岳民族や少数民族の女子や、ラオ語を話さない少数民族の人たちに配慮した紙芝居、漫画、あるいは、地域の方々による参加型の寸劇などのツールを活用する。

少数民族や山岳地域への教育
保健医療施設へのアクセスが難しいといわれている山岳地域を重点的にカバーする教育プログラムの開発、独自の文化や伝統を尊重しながら地域の特性を踏まえた上での教育を実施する。そのためには、住民やコミュニティとの関係が深く、少数民族や社会的弱者に対する活動の経験が豊富なNGOやローカルな組織を支援、またはそれらの組織と連携することにより、その地域特有の課題を踏まえて取り組む。

 報告会では、若者への性と生殖(SRH)に関する正しい知識の普及、保健医療人材育成、特に助産専門技能者育成プログラムの強化、設備支援などについても提案し、さらに、再生可能エネルギーを中心に、コミュニティ電源を提供するための経済協力の必要性についても提言しました。私自身、カンボジアやモザンビークなどで、電気がない地域で生活した経験から、母子保健の飛躍的な改善などhuman development(人間開発)を進める上で、電気の普及は不可欠と実感しています。

 今回の視察は、UNFPAや在ラオス日本大使館の方々、また現地の関係者の方々による大きな支援がなければ成り立ちませんでした。国会議員の視察をコーディネートするのは大変だと思いますが、皆さんには心から感謝を申し上げます。私自身も、山岳少数民族の村を訪問して調査を行うことも含め、今後とも、この問題に、そしてラオスに関わっていきます。



*病院で産科医師、助産婦との意見交換を終えて