阪口直人の「心にかける橋」

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北朝鮮在住の日本国籍者、そして脱北者への人道的措置の必要性を外務委員会で質問

2014年05月17日 22時03分05秒 | 政治

 北朝鮮と国境を接する中国延辺朝鮮族自治州での調査をもとに、14日の外務委員会で質問しました。衆議院のインターネット放送でご覧頂けます。


外務委員会にて北朝鮮在住の日本国籍者、そして脱北者への人道的措置の必要性を質問 衆議院インターネットTV(5月14日) 


 私の問題意識は下記の4点に集約されます。その上で、下記のような質問をしましたが、政府の当事者意識が薄いことに衝撃を受けました。北朝鮮情勢は大きく変化する可能性が高く、適切な対応をするには情報収集、そして分析能力の向上が必要です。


1.1959年からの帰国事業に対して、日本政府としてはどのように評価・分析しているのか?

 1959年12月に日本に住む朝鮮半島出身者の方々の帰還事業が始まりました。日本赤十字社と北朝鮮の赤十字会が在日朝鮮人の帰還に関する「カルカッタ協定」を結び、日本赤十字が帰国希望者の登録や事業の運営を行い、赤十字国際委員会が助言という形で関与。日本政府も朝鮮総連と一緒に帰国事業を推進しました。当時の日本は在日朝鮮人の方々への激しい差別があり、能力を活かせる機会を見つけるのはほぼ不可能でした。従って、「地上の楽園」と喧伝された共和国建設の力になりたいと、大きな希望を抱いて海を渡った方々が9万3千人余り。その中には1800人の日本人を含め、6800人の日本国籍者も存在していました。ところが人々を待っていたのは一切の人権が認められない社会。北朝鮮の厳しい階級制度の最下層に近い位置に貶められた帰国者たちに対し、地元の人は帰国者と接触すると自分たちまで疑われることを恐れ、差別と密告で自分たちの身を守ろうとしました。どんなにひどい扱いを受けても守ってくれる後ろ盾がなく、特に日本人家族は自国を植民地支配していた敵国人とされてとりわけ非人道的な状況に置かれていたみたいです。多くの方が苦難の中で命を落としました。地上の楽園ではなく、まさに地上の地獄ともいえる場所であったことは明らかです。

 日本政府は生活保護率が高く、治安悪化の要因にもなっていた人々を『厄介払い』でき、北朝鮮は朝鮮戦争で失われた労働力、とくに炭鉱鉱山をはじめとする北朝鮮の人々さえ行きたがらない場所での労働力にするとのメリットがあったとされています。

① 帰国事業をどのように評価しているのか?

② 日本政府はなぜ、正確な情報を提供しなかったのか?

③ 当初説明されていた数年後の帰国を実現させるための働きかけはしなかったのか?


2.「日本国籍者の帰国」として、日本人妻と拉致被害者の帰国を要求すべき


 私を案内して下さった『日本から「北」』に帰った人の物語』の著者の方も、とにかく生きて日本に帰ることを支えに40年あまり、苦難に耐えたのでした。ところが、これらの人たちは両国間の条約によって「合法的に」「自分の意志で」行った人たちとされているので、拉致問題に比べると明らかに国民の関心は薄く、日本政府も積極的な対応をしているとは言えません。一方、最近は北朝鮮も「高齢で亡くなる前に日本に帰らせる」として表面上は人道主義を発揮して見返りを引き出す戦略に考えを改めているようです。

 拉致を認めていない北朝鮮に拉致被害者の帰国を求める交渉は、これまで目に見える進展がありませんでした。しかし、日本国籍の人たちを帰国させる交渉には応じる用意があるようで、最近になって比較的良い待遇になっているようです。日本人妻の里帰りは1997年~2000年にかけて3回(合計43人)ありましたが、北朝鮮への帰国が前提だったため、自由な発言ができない状況でした。今後は日本に帰って永住したいと考える希望者を受け入れる交渉をすべき。拉致被害者の人たち、さらに第二次世界大戦後に残留を余儀なくされた方々にも「日本国籍の人」という枠組みで帰国できるように交渉してはどうでしょうか?

① 拉致被害者、日本人配偶者、戦後北朝鮮に幽閉されて帰れなくなった残留邦人などの日本国籍者の正確な情報は把握しているのか?

② 交渉の戦略と状況は?

③ 帰国事業で北朝鮮へ行った在日朝鮮人とその子孫についても日本との往来の自由を認めさせるよう交渉すべき


3.中朝国境地域における脱北者に対する人道支援の在り方

 私が訪問した長白の町は北朝鮮に極めて近く、狭いところではわずか数メートル幅の川の向こうに北朝鮮の人々の生活が手に取るように見えます。夜は真っ暗になってしまう町並みや人々の様子を見れば貧しく苦しい生活は一目瞭然です。脱北者を巡る状況は常に変化しているようですが、命懸けの行動であることは変わりません。

 金正恩体制になって国境警備が非常に厳しくなった一方で、上手く川を渡っても中国側の捜索も厳しくなり、公安に見つかれば強制送還される状況は変わりません。初犯では2~4週間程度の調査で解放されることが多とのことですが、再度脱北した場合、また韓国など外国行きを企てていると見なされた場合は「鍛錬隊(短期強制労働キャンプ)」で6カ月ほど送られ、さらに「悪質」と見なされた場合は拘置施設行きとのことです。この場合、数か月以内に命を落とす可能性が非常に高いようです。

 しかし、国境貿易に関わっている人たちによれば、金正恩体制になり、金正日時代の軍事一辺倒から『国民を食べさせる』ことが重要と少しずつ政策転換しているようです。従って、経済的な理由で国境を超える人々に対しては黙認する状況も新たに生まれる一方で、国境を超える際にブローカーが介在し、借金を返させるための人身売買も横行しています。従わないと強制送還されるため、脱北者を巡る状況は相変わらず過酷を極めています。

 中国は1982年に国連の「難民協約」に加盟。難民や人権問題に直接関係する脱北者問題に向き合わなければならない立場ですが、脱北者を「難民協約上の難民」と認めていません。

 一方、「中朝相互犯罪者引き渡し協定(1966」と「辺境地域の国家安全と社会秩序維持のための相互協力議定書(1986)」も締結しており、さらに、1997年、警報を改正する時に刑法8条「国境管理妨害罪」を新設し、中国内の脱北者を手助けする自国民に5年以下の有期懲役を処するようにしています。


① 北朝鮮に戻された場合、命を落とす可能性が非常に高いにも関わらず中国政府が脱北者を強制的に送還している点について大臣の見解は如何か? 人道的な見地からどのように対処すべきか?

② 人道的措置の対象は国籍によって制約されるべきではないが、日本国籍を持っている人に対しては邦人保護の視点でも強制送還をしないように中国に働きかけるべき。また、出入国管理法で在留資格が認められる元在日韓国人と朝鮮人とその3等親以内の家族に対しても同様の対応をすべき

③ 脱北者が日本国籍ではなくても、脱北者が希望する国との往来の自由は認めるべき。『日本から「北」』に帰った人の物語』の著者の方も亡くなったご主人が北朝鮮人であり、北朝鮮国籍の子供たちの安否を非常に心配していた。

4.日本にいる脱北者の支援の在り方、

 帰国者と家族だけを受け入れている日本では脱北者に対する公的支援はない。2006年成立の「北朝鮮人権法」で脱北者を保護、支援することは明記されたが、具体的支援策は未だにない。民間のNGOがボランティアとして行っているのみ。

 韓国は2007年の法律に基づき、希望する脱北者全員を韓国で保護。昨年8月の時点で、2万5千人あまり韓国に滞在しています。また、国を挙げて脱北難民の強制送還に反対しています。脱北者には定着準備金や住宅支援金、職業訓練費など社会福祉から教育まで185万円~443万円程度を支給。(2013年10月現在)1999年に設立したハナ院では韓国社会馴染めるよう最初の教育もしており、その後はNGO、教会、自助組織が脱北者を支援。公的企業や役所では脱北者採用枠を設置している他、脱北者を採用する民間企業も税制優遇されます。脱北者は当初の「保護対象」としての対応から、南北統一を準備する人材と定義されるようになってきました。特別枠での大学進学制度があり、博士号取得者も輩出。国会議員も誕生しています。

 韓国と比較すると日本における支援は非常に脆弱です。日本では言葉の壁もあり、少なくとも最初の段階では自立をサポートするための措置が必要です。

 金正恩体制になり、軍の備蓄米を配給したり、土地を試験的に個人に分配したり、市場経済への移行を部分的に探っているようにも見えます。新しい局面に移行できるかどうかは国際社会との関係構築が重要。援助を獲得するために人道的措置として拉致問題の解決、日本国籍者の帰国、さらに脱北者への配慮などがより前向きに検討される可能性が出てきたと言えるかもしれません。ところが、これらの問題提起に対する日本政府の取り組みは大変心もとないものでした。北朝鮮とは国交がない以上、ジャーナリスト、地域研究者の情報活用も含めてあらゆる手段を通して交渉すべきです。アントニオ猪木議員など、政府にはないネットワークを持った国会議員による議員外交も有効な手段と考えています。


写真上:鴨緑江でゴミ拾いをする北朝鮮の人々


写真上:北朝鮮・恵山市の夕刻の様子






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