はぐくみ幸房@山いこら♪

「森を育み、人を育み、幸せ育む」がコンセプト。株式会社はぐくみ幸房のブログです。色々な森の楽しさ共有してます♪

アルカロイド

2021年01月03日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 アルカロイドの定義というか、線引きは明確になっていないようですが、天然由来の窒素成分を含む有機塩基類で、生物活性をもつ化合物をアルカロイドと言うそうです。

 植物毒はアルカロイド系が多く、アルカロイドと聞くと、薬よりも有害・有毒なイメージを強く持ってしまいます(^_^;)。

 だけど、アルカロイドは、植物だけでなく、微生物、真菌、魚類や両生類などの動物といった色々な生物が生産しています。

 

 例えば、動物が生産するアルカロイドで言うと・・・、

 フグやニホンイモリの「テトロドトキシン」。

 

 あと、有名な毒ガエル「ヤドクガエル類」がもつ毒の種類の1つである「バトラコトキシン」。

 実際は、まだまだ、あります。。。が、専門家ではないので・・・(^_^;)

 

 アルカロイドを生産する植物をあげると、キリがないし、専門家じゃないので、そんなにたくさん知っているわけではありませんが、代表的なものとしては・・・・

 

 じゃがいもの芽に含まれる「ソラニン」。

 

 トリカブトの「アコニチン」(写真はミヤマトリカブト。)

 

 針葉樹のイチイの種子に含まれる「タキシン」。

 赤い果肉の中にある黒い種子は有毒で、これにタキシンが含まれています。

 

 ヒガンバナの「リコリン」。

 

 このほか、チョウセンアサガオ、イヌサフラン、スズラン、スイセン、青梅など

 

 と、ここまでに上げた植物例は、強い毒性を示すアルカロイドです。

 

 一方で、カフェインなどのように嗜好品として使われるアルカロイドもあります

 (あと、僕は吸わないけど、タバコに含まれる「ニコチン」も・・・)。

 

 実は、ラベンダーの花の香り成分も、アルカロイドの一種。

 

 植物は、動物や昆虫などの外敵から葉や花を守るためにアルカロイドを生産していると言われています。

 それでも、葉を食べられたり、花の蜜を吸われたりしているし、タネを運んでもらうため、実を食べてもらう必要もあります。

 

 なので、外敵から身を守るためにアルカロイドを生産していると考えるよりも、「植物自身が描いている生存戦略を実現するため、アルカロイドを生産している」と考えた方が、面白いかも。

 植物にも好きな動物と嫌いな動物があって、嫌いな動物を寄せ付けないために効果的なアルカロイドを生産している。(あっ、それだと、外敵から身を守ると一緒か(^_^;))

 

 植物も好きな動物と嫌いな動物がいるって、考えると・・・、植物も人間みたいや (^_^;)。 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

単葉と複葉

2020年12月22日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 樹木の葉は、「単葉(たんよう)」と「複葉(ふくよう)」の2種類があります。

 

 「単葉」は下の写真で丸く囲った部分が1枚の葉・・・って、そのままの話です。

 

 次に複様。

 複葉は、下の写真で、丸く囲った部分が1枚の葉で、四角で囲った葉を「小葉(しょうよう)」と言います。

 

 次に単葉と複葉の見分け方。

 単葉は、青色で丸く囲った葉の基部に「芽」があります。

 

 複葉は、青色で丸く囲った葉の基部に「芽」があり、赤色の四角で囲った小葉の基部に芽はありません。

 

 このように「芽」の位置で、簡単に、単葉or複葉を見分けることができます。

 

 なぜ、「複数の小葉で1枚の葉」という複葉が出来たのでしょうか?

 

 簡単に説明すると、

 単葉の樹木では、葉が落葉すると、枝と小枝(分枝)が残るため、これを維持するためのエネルギーが必要になります。

 

 

 しかし、複葉の樹木は、落葉すると、残すべき枝が少ないため、維持するエネルギーも少なくてすみます。

 

 

 複葉の樹木は、

 「10枚の葉をつけるなら、10枚で1枚の葉にしよう!そうすれば、小枝(分枝)要らずで、エネルギーを抑えることができるぞ!!」

 という戦略を取っているんだと思います。

 

 一方、単葉は枝がいくつも分かれているため、いくつもの枝が風で折れても、修復しやすいというメリットがあります。

 逆に、複葉は、枝の数が少ないので、一気に折れてしまうと修復に時間がかかるというデメリットもあります。

 

 樹木の葉は「単葉」と「複葉」の2種類あります。

 その差によって、生み出される戦略があると理解するだけでも、樹木の観察は楽しくなります。

 

 

 最後に、今回のまとめを簡単な資料にしてみましたので、ご参考下さい。

 

※2015年9月の記事を改編

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

葉が赤いスギ

2020年12月21日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 通常、スギの葉は緑色。

 だけど、冬になると、スギの葉は赤褐色に変色します。

 もちろん、全てのスギが、同じように赤褐色に変色するわけではありません。

 スギの葉の変色は、系統・品種によって差があります。

 同じスギでも、赤味に個体差があったり、中には変色しないスギ(呼称:ミドリスギ)というのもあります。

 枯れてる?って、思うくらい真っ赤かなスギもあります。

 あと、日当たりが良い場所に生えているスギは、より赤味が強く変色したり。 


 
 冬になると、葉の中の葉緑素が分解され、少なくなります。

 そして、それまで隠れていたカロチノイドの一種「ロドキサンチン」という色素が現れて、スギの葉は赤褐色に変色します。

 この「ロドキサンチン」は、低温下で光ストレスを受けると引き起こされます。

 そして、「ロドキサンチン」は、光による阻害を防止する働きがあることが明らかにされています。

 なので、冬期のスギは、休眠中に光によるダメージを和らげるため、赤褐色に変色していると思われます。

 ちなみに変色しないスギ(呼称:ミドリスギ)は、より光による阻害を受けていると言われています。 

 

 なお、寒風害などで、枯れたスギも同じような色に変色するため、変色したスギが、生きているのか・枯れているのか、一目ではわかりませんが、生きていれば、春になると葉緑素が戻って、緑色になります。

 時々、「うわー、枯れてないのよね?」と思うくらい、赤褐色に変色しているスギ林を見かけます。

 そんなスギ林でも、春になると、再び緑色に戻るので、そのギャップに驚かされます。

 

※2016年1月の記事を再編

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

冬芽

2020年12月18日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 冬になって、葉が落葉すると樹木の同定って、難しいですよね。

 冬でも樹木を同定したい!、冬でも樹木観察を楽しみたい!、と思ったら、冬芽(とうが)の観察がオススメです。

 

 冬芽とは、「休眠芽(きゅうみんが)」ともいい、冬の寒さに備え、次の春に開く葉や花の芽を寒さや乾燥から守るために作られます。

 春になって、無事に葉が開き、花の蕾がふくらむと、冬芽は脱落します。

 

 冬芽にも色々なタイプがあります。

 ①芽鱗(がりん)を持つタイプの「鱗芽(りんが)」。

 ②芽鱗をもたないタイプの「裸芽(らが)」。

 ③芽鱗の表面に蝋質や油肥を被うタイプ。

 ④冬芽の全部または一部を葉痕の中に隠すタイプの「陰芽(いんが)」。

 

 ①「鱗芽」

 樹種によって、覆われる芽鱗の枚数が違います。

 アラカシ、シラカシ、コナラなどの樹木は、多数の芽鱗に覆われています。

 

 アラカシの冬芽。

 パッと見た、海にある”亀の手”に似ていません?

 

  クスノキの冬芽。

 

  シラカシの冬芽。

 

  コナラの冬芽。

 

  ヒメシャラの冬芽。

 

 

 イロハモミジ、ホオノキ、ネジキなどは2枚、タラノキは3~4枚の芽鱗に覆われています。

 ネジキの冬芽。

 

 イロハモミジの冬芽。

 イロハモミジは、葉っぱが対になって生える「対生」なので、冬芽も対生になっています。

 寄り添い合う感じで、可愛らしい冬芽ですよね。

 

 ②裸芽

 このタイプは、アカメガシワ、ムラサキシキブ、オニグルミ、サンショウなどの樹種です。

 身包みをはがされた冬芽って感じで、寒そうだなと同情します(^_^;)。

 

 アカメガシワの冬芽。

 実際の冬芽をよーく観察すると、アカメガシワの葉っぱの特徴が窺えます。

 是非、ご自身の目で、ご確認下さい!

 

 オニグルミの冬芽。

 冬芽の下にあるのは葉痕(ようこん)といって、葉があった痕です。

 

 ③の蝋質や油肥に覆われる樹種はトチノキなどで、テカテカしています。

 トチノキの冬芽。

 触ると粘つきます。

 しかし、触るのは、木にとって、あまり良くありません。

 でも、粘つくので触りたくなります。

 触りたいと思ったら、やさしく触ってくださいネ。

 

 ⑤「陰芽」

 ネムノキやニセアカシアなどの冬芽がこのタイプです。

 

 

 冬芽観察の番外編。

 時々シャクトリムシなど冬を過ごしている虫たちにも出会えます(^o^)。

 

 冬芽の観察は、冬しか出来ません!

 ちょっと寒いけど、冬芽を観察するため、樹木を巡ってみては如何でしょうか。

※2016年1月の記事を改編

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

常緑樹と広葉樹

2020年11月17日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 樹木には、一年中葉がついている「常緑樹 」と秋から冬にかけて葉を落とす「落葉樹」があります。

 もう少し丁寧に言うと、

 落葉樹は・・・

 1年のうち冬季や乾燥期(無降水量が続いた時期)など、生育不適期の前に、全て葉を落葉して休眠状態になる樹木です。

 また、全ての成葉(緑葉)を失って休眠状態に入る期間が少なくとも1ヶ月か、1シーズン以上続く樹木です。

 

 常緑樹は・・・

 1年中、生きた成葉をもつ樹木で、年中切れ目なく成葉を保持している樹木です。

 しかし、常緑樹も落葉します。

 光合成の効率が悪くなった旧葉から落葉しますが、ほとんどが新葉と入れ替わるように旧葉が落葉するため、新葉と旧葉が混在し、常に、緑色の葉があるように見えます。

 落葉の際には、落葉樹同様、紅(黄)葉してから落葉するものもあります。

 この写真はカゴノキで、よ~く見ると、黄色い葉があります。

 この黄色い葉が旧葉で、この黄色い葉が落葉します。

 あと、クスノキは紅葉した葉が落葉します。

  基本的に、常緑樹は年中成葉があります。

 だけど、時々、クスノキやカシ類は、春に一斉に落葉し、年によっては新葉が展開するまで、1週間前後、全葉が落葉した状態になることもあるそうです。(僕は、まだ、その状態を見たことがありません!)

 

 一般的に、高標高地や積雪の多い寒冷な地域では落葉樹が、低標高や温暖な地域では常緑樹と、ある程度、住み分けされています。

 これは、緯度や標高に依存しており、低緯度から高緯度になるにつれ、クスノキ・タブノキ・カシ類などの常緑樹からブナやミズナラなどの落葉樹に変わっていきます。

 しかし、低緯度・低標高でもアカメガシワ・カラスザンショウなどの落葉広葉樹が、高緯度・高標高でもモミ・トウヒ・エゾマツ・トドマツなどの常緑針葉樹が生育しており、実際には、常緑樹と落葉樹は混在しています。

 

 例えば、和歌山県の大塔山では、ブナとアカガシが混在しています。

 アカガシは、常緑樹の中でも耐凍性が高く、マイナス15℃までの環境下であれば、葉や芽の細胞が凍らず、生育することが出来ます。(マイナス15℃以下の環境では生育できないということになります。)

←アカガシ

 

 しかし、年中葉がついている常緑樹は、雪が葉の上に降り積もると、雪の重みで枝や幹が折れるリスクを抱えることになるので、積雪が多い地域では、やはり落葉樹の方が、生育に有利ですね。

 一方、寒冷地に生育するモミ・トウヒ・トドマツ・エゾマツなどの常緑針葉樹は、積雪による枝や幹の折損リスクはないのか?

 針葉樹は、広葉樹と異なり、幹は真っ直ぐに成長し、枝も広範囲には広げないため、常緑広葉樹よりも積雪による枝や幹の折損するリスクが低くなります。

 多雪な地域に適しているという表現が正しいとは言い難いので、落葉樹や常緑針葉樹は多雪な地域でも生育できる能力・性能が備わっている、という言い方がいいのかな?

 

 あと、積雪の影響以外にも、葉の維持コストと光合成の生産量の影響もあると考えられます。

 葉の生産・維持コストが光合成の生産量を上回ると葉を落葉します(維持コスト>光合成生産量で落葉。)。

 葉の光合成速度は、若齢時は高く、加齢に伴い低下していくため、適当な時期に葉を落とし、新しい葉と入れ替える必要があります。

 また、光合成に不適切な季節(冬季)になると、その期間、葉は光合成ができないのに、葉を維持するために呼吸や蒸散による損失が続くことになります。

 その損失をなくすため、葉を落葉します。

 常緑樹と落葉樹の差は、ここにあるのではないかと思います。

 冬季に落葉することで支出を抑えるか、冬季でも光合成することで収支がプラスになるか。

 落葉樹は、秋まで光合成で稼ぎ、それ以降は落葉する方が効率的という戦略で、低緯度の常緑樹はそのまま着葉した方が効率的という戦略だと考えたのかもしれません。

 高緯度の常緑樹は、光合成に不適切な季節・時期が長くなると、春に生産した葉が、秋口までに光合成で稼ぐ量が、葉の維持コストを下回るようになると、元が取れるようになるまでの長期間、葉を着けて稼がせるという戦略だと考えられます。

 

 簡単にまとめると・・・・

・落葉樹は、春~秋までに光合成で稼ぎ、それ以降は落葉した方が効率的という戦略。

・高緯度の常緑樹は、春~秋までに光合成で稼いだ分では元が取れず、それ以降も着葉し、元を取るという戦略。

・低緯度の常緑樹は、光合成が不適切な冬季であっても、年中着葉した方が効率的という戦略。

 では、ないかと思います。

 

 常緑樹は、冬季でも光合成できる能力を備えています。

 冬季だから常緑樹も光合成しない・・・というわけではありません。

 冬季の光合成による生産量は高くないかもしれませんが、落葉するより着葉する方が効率的・効果的だという戦略だと思います。(そうでなければ、光合成が出来ないまま着葉していると、収入0なのに支出が続くという無駄な状態になってしまうので。)

 そもそも、樹種によって光合成に適した温度が異なります。

 夏季だから光合成に最適というわけではなく、夏季でも高温過ぎると光合成を行わない場合もあります。

 

 常緑樹と落葉樹。

 分け方は単純ですが、樹種ごとの戦略は異なるので、追いかけるととても複雑です。

 温暖な地域なのに、なぜ、落葉するのか?

 寒冷な地域なのに、なぜ、常緑なのか?

 積雪による折損リスクが大きいor小さいとか、落葉した方が効率的/着葉した方が効率的、というのも答えの1つなんでしょうが、樹種ごとの特徴もこれに加わってくるのだと思います。

 

 樹種を特定するのもいいけど、常緑樹と広葉樹の違いに想像を広げる観察も楽しいと思います(^o^)。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

紅葉

2020年11月03日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 今回は、葉が紅葉する仕組みについて、お話します。

 

 落葉する時期になると、葉柄の基部に「離層(りそう)」というコルク質の組織を形成します。

 

 

 離層ができると、葉に送られる水分や養分の供給がストップします。

 しかし、葉の中にはマグネシウムなどのミネラルや窒素が、まだ取り残されているので、離層が完成する前にそれらを回収します。

 だけど、糖類(ブドウ糖やショ糖)は、十分に回収することが出来ず、葉の中に残ってしまいます。

 残された糖類が、酵素と強い紫外線の影響によって、「アントシアン」が生成され、葉が紅葉します。

 落葉するときに、「アントシアン」が生成される理由は、明確になっていないそうですが、徐々に後退する葉緑素を紫外線から守るためという説があるそうです。

 

 次に黄葉。

 離層が出来て、養分が回収され、緑色が退色する過程で、葉の中にもともと存在していた「カロチノイド」という色素が現れて、黄葉します。

 

 続いて、褐葉。

 離層が出来て、葉緑素が減少し、タンニンの仲間である物資が酸化重合した「フロバフェン」という物質の色が現れて、褐葉となります。

 

 紅葉という現象は、葉が何らかの原因で光合成ができなくなったとき、葉が脱落する前にミネラルや窒素などを回収する段階で起こります。

 ほとんどの落葉広葉樹は、気温が5℃以下になると光合成ができない状態になります。

 中には、ハゼノキやヤマザクラのように、5℃より高い気温でも、光合成ができなくなる樹種もあります。

 また、樹勢に元気がない個体では、雨が少なく乾燥した日が続き、干害などのように光合成が不利な状況だと判断されると、早々に落葉する場合もあります。

 

 一方で、ハンノキやオオバヤシャブシなどのように緑色が少し退色した程度で落葉する樹もあります。

← オオバヤシャブシは緑色のまま落葉。

 このような樹種は、窒素やミネラルなどが回収されない代わりに、限界ギリギリまで光合成を行うという戦略をとっています。

 

  一方、お正月を明けても、葉は変色しているのに落葉しない樹木もあります。

 よく見かけるのが、クヌギやヤマコウバシ。

 これらの樹種は、完全な離層を形成しないため、なかなか落葉しないようです。

 特にヤマコウバシの褐葉は、とても目立ちます。

 葉が「落ちない」!!

 ということで、受験生にとって、縁起の良い樹木とされています。

 受験生がお近くにいる方。

 是非、葉が落ちない「ヤマコウバシ」をプレゼントしてあげて下さい!

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

t/R率

2019年11月12日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 林業では馴染みない(と思うんですが・・・)「t/R率」。

 これは、樹幹内部の腐朽による空洞の割合を判定し、落枝や倒木が発生するリスクを判断するための指標になります。

 街路樹診断などで使われる指標になるんですが、林業では、ほとんど使われていないのではないかなと思います。

 千葉県で発生したサンブスギと溝腐れ病の問題の事を考えると、森林管理を行う上で、必要な指標、知っておいた方がいい知識ではないかな?、と思います。 

 

 「t/R率」は、樹幹の直径(R)と健全部の直径により算出し、0.3以下になると倒木が発生する可能性が高いとされています。

 なお、tとRの直径に樹皮は含みません。(下記イラストの黒い部分は腐朽または空洞です。)

 樹幹内部の腐朽による空洞率が断面の50%を超えると。落枝や倒木する確率が高くなるとされており、t/R率の0.3は、面積換算すると断面積の50%以上にあたります。

 

 樹幹内部の腐朽による空洞の割合は、外見からでは判断できないなので、樹木診断では、レジストグラフという診断器具やガンマ線を利用した診断器具(レントゲンみたいに樹幹内部をスキャンする器具。)、成長錘など使って、判断しています。

 

 林業の場合、樹幹に傷ついた木は、除伐や間伐によって、早い段階で除去されていますが、一方で、高性能林業機械が導入され、作業道+列状間伐という方法が広まり、残存木に傷がつき、そのままにされている現場も少なくありません。

 そうした立木が、将来的にキズが原因で樹幹内部が腐り、結果、倒木や樹幹折損に至る可能性も0ではありません。

 

 今回、このブログでは、「t/R率という指標を理解することで、残存木にキズを付けてしまうことが、材価だけでなく森林管理という点で将来的なリスクを負うかもしれない」という事を知っていただければと思います。

 

 という訳で、キズが出来たことによって、樹幹内部の腐朽がどのように進行するのか、イラストで、簡単に説明したいと思います。

 樹木は、樹皮が剥けるくらいの外傷を受け、材部がむき出しになると、その部分を覆い始めます。

 イラストは、それを前提に、木口・樹幹内部の断面をイメージ図化したもので、薄いピンクが心材、薄い黄色が辺材、茶色いラインが樹皮、黒が外傷または腐朽部分です。

 

①外傷を受け、樹皮が剥がれる(黒色の箇所)

②樹皮が剥がれた部分(黒色の箇所)を覆い被さる様に樹木が生長する。

③何年か経過すると、外傷を受けた部分(黒色の箇所)が、新しい樹皮によって、完全に覆われる。

④さらに、時間が経過すると、腐朽部分が樹幹内部に取り込まれる。

 実際の樹幹表面は、こんな感じです。

 もし、樹幹の表面に凹んでいる部分が確認できたら、昔に何かしらの傷を受けた可能性が高いです。

 上の写真の木を伐った断面の木口です。

 上の写真にある黒い部分が、昔に傷を受け、そこに腐朽菌が入り、樹幹内部が腐っています。

 樹木を腐らせる腐朽菌は、心材を腐らせる「心材腐朽菌」と辺材を腐らせる「辺材腐朽菌」があります。

 この写真は、心材腐朽菌なので、辺材まで影響を及ぼしませんが、樹木の生長と時間とともに、辺材は、やがて心材に変わります。

 今、辺材の部分も、いずれ心材になってしまうので、このまま成長していくと、辺材部分が心材になったとき、そこまで腐朽菌が広がることも考えられます。

 

⑤イラストの続きです。

 外傷を受けた部分に腐朽菌が付着していれば、そこから徐々に腐朽菌が広がります。

 実際、どんな風に広がっているのか分かりませんが、イラストは、あくまでイメージですので。

 

⑥時間の経過とともに、腐朽菌が内部に広がります。

 これも、あくまでイメージ図です。

⑦最悪、心材全体に広がるかもしれません。

 実際、ここまで腐朽菌が広がった樹木を観たことがないので、このイメージ図は、かなり大げさですね。すみませんm(_ _)m。

 

 この写真は、樹幹内部の腐朽による空洞が、明らかに見えているものです。

 樹齢が100年を超えているので、成長のスピードが緩やかなため、完全に腐朽部分を覆い被せていないと思います。

 

 中には、キノコが発生しているものも・・・。

 サルノコシカケみたいに、年々生長するキノコが発生していると、樹幹内部は、かなり深刻な状態だと思います。

 

 台風によって枝が折損したり、伐倒時に枝を折損したりすると、それが大きなキズとなり、腐朽菌が樹幹内部に侵入するおそれもあります。

 

 ほかにも、ツキノワグマやニホンジカなどによる剥皮被害も。

 下の写真に写っている茶色い部分は、傷付いた部分を樹皮で覆っている途中で、樹種はスギです。

 これだけ剥皮されると、通常は枯れるんですが、この現場は、谷・湿気気味の林内・日光が当たりにくいという整った?条件だったので、枯れずに生き残り、必死に修復しているんだと思います。

 

 街路樹のイチョウ。

 このような樹幹の形状は、大きなキズがあり、確実に樹幹内部の腐朽が進んでいると思います。

 そして、根元まで腐朽が進んでいると思います。

 

 このような被害は明らかなので、危機感を感じると思います。

 

 樹幹内部の腐朽は、完全に巻き込まれてしまう場合とそうでない場合があります。

 後者は、見たまんまですが、巻き込まれているものは、傷を修復した痕跡を早々に気づかないと分かりにくくなります。


 樹幹内部の腐朽による空洞率から倒木や折損リスクを判断する「t/R率」。

 林業では馴染みないものだし、使われることも、ほとんどないと思いますが、t/R率が0.3以下になると倒木や折損するリスクが高まります

 しかし、t/R率というものを、理解または知っておくことで、残存木にキズを付けてしまうことが、材価だけでなく森林管理という点で、将来的なリスクを負うかもしれないと思っていただくことが出来れば、より良い森林管理の提案や実践を進める、1つの根拠になるのではないのかなと思います。


 森林づくりと樹木医。林業と樹木医。

 縁がなさそうに思いますが、森林づくりも林業も、育てているものは樹木なので、こうした指標を知っておくことも大事なのでは?、と個人的に考えています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雌雄異株 雌雄同株 両性花

2017年08月30日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 同じ種類の樹木なのに、雄花だけ咲くものと雌花だけが咲くものに分かれるタイプがあります。

 これを「雌雄異株(しゆういしゅ)」と言います。雄花と雌花が別々の株に咲くということです。

 例えば、ヤマモモ。

  

 街路樹で使われる場合は、雄花しか咲かないオスの木が使われています。

 時々、メスの木も混じっています。

 オスの木を使う理由は、実が出来ないから。

 実が出来ると、熟して落ちた実で汚れたりするからでしょうね。

 このほか、アカメガシワ、イチョウ、イヌマキなども雌雄異株です。

 

 その逆で、雄花も雌花も同じ株で咲かせるタイプの樹木を「雌雄同株(しゆうどうしゅ)」と言います。

 コナラやクヌギ、ウバメガシなど。

 左が雄花、右が雌花。

 

 自家受粉を避けるため、雄花と雌花で咲くタイミングが違います。

 コナラやクヌギなどは、雄花が咲いた後に、雌花が咲きます。

 

 雄しべだけ、雌しべだけを持つ花を「単性花(たんせいか)」といい、両方をもつ花を「両性花(りょうせいか)」と言います。 ※上記で紹介した雌雄異株や雌雄同株は「単性花」となります。

 両性花は雄しべと雌しべを両方持っていますが、雄花と両性花を持つ樹木と途中で性転換するタイプの花をもつ樹木があります。

 前者の両性花は雌花的な要素を含み、イロハモミジなどがこれに当たります。

 後者の両性花はホオノキ、タムシバ、ヤツデ、タブノキなど。

 下の写真はホオノキの花で、左が雌花、右が雄花。

 

 咲いた日は雌花で、次の日に雄花になります。

 これも自家受粉を避けるため、開花するタイミングをずらしています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クヌギの樹液にカブトムシたちが群がる理由

2017年07月23日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 この時期お馴染みの・・・「なぜ、クヌギの樹液にカブトムシたちは群がるの?」というお話。

 

 夏、樹木はもっとも光合成を盛んに行っている時期です。

 光合成によって、葉で生産された糖などは、師部を通って樹体全体に送られます。

(師部=しぶ。外樹皮のすぐ内側に作られる組織。光合成生産物を樹体全体に輸送する器官。外樹皮と形成層の間にある。)

 樹液は師部を傷つけたときに出てきます。

 そして、師部は糖を輸送しているので、出てくる樹液は、基本的に甘い。

 しかし、病原菌や害虫から身を守るため、樹液の中にポリフェノールなどの抗菌物質が含まれています。

 その主な成分は「タンニン」で、抗菌物質が多いほど渋みが強い樹液になります。

 一般的に樹皮が薄い木ほど、抗菌物質を多く出していると考えられています。

 例えば・・・ヒメシャラやアオハダ、身近な樹木だとリョウブやサルスベリ。

 (ヒメシャラ)

 (アオハダ)

 樹皮が薄い樹木は、薄いという欠点を「抗菌性物質を多量に出す」ことで補っています。

 「じゃあ、初めから樹皮を厚くすればいいじゃない?」

 と、思うかもしれませんが、樹皮が薄い樹木は、「樹皮で光合成する」という戦略をとっています。

 樹皮の薄い樹木は、生き残るために考え、考えぬき、

 「ん~・・・・効率よく光合成するために樹皮を薄くしよ!

  傷ついたら抗菌物質をいっぱい出したらエエねん。

  まずは、光合成して、稼がな!」

 という結論を導き出した・・・のかも。

 ちなみに、軽く樹皮を傷つけて、めくると、緑色になる樹種は、樹皮下光合成をしていると考えられます。

 ※写真のように傷つける行為は、樹木に良くないので、マネをしないで下さい※

 

 話を戻します。

 「樹皮の薄い樹木は、抗菌性物質が多く含まれているから渋みを感じる」と解釈してください。

 では、クヌギのように樹皮の厚い樹木は・・・

 クヌギの樹皮は、コルク層が厚く、ゴツゴツしています。

 このコルク層は、「スベリン」という”微生物が消化・分解しにくいロウ物質”から出来ています。

 なので、コルク層が厚ければ厚いほど、病原菌や害虫が攻撃できない強力なバリア(盾?)になります。

 リョウブやサルスベリのように樹皮が薄い樹木は、成長するたびに古い樹皮を捨てて、新しい樹皮を作るので、パラパラと剥がれます。

 しかし、クヌギのように樹皮が厚い木は、古いコルク層の上に新たなコルク層を作るので、樹皮がパラパラ剥がれず、より樹皮が厚くなっていきます。

 さ・ら・に!

 クヌギの樹皮は、タンニン成分を多く含んでいるので、樹液に抗菌物質を多量に含む必要がないため、樹液が甘く、自ずとカブトムシたちが集まるというわけです。

 

 カシ類はクヌギよりも樹皮が薄いので、抗菌物質が多いと思われます。

 なので、カシ類には、あまりカブトムシたちは集まりません(もちろん、全く集まらないというわけではありません)。

 が、カシノナガキクイムシの被害を受けたアラカシ・ツブラジイ(コジイ)・シラカシなどから出てくる樹液に、カブトムシやクワガタムシ、カナブンやスズメバチが集まっています。

 これは推測ですが、おそらく、カシノナガキクイムシが保有する菌の1つである酵母菌と樹液がいい感じに発酵しているため、その香りで誘われているからではないかと、思います。

 カシノナガキクイムシの被害を受けたウバメガシから流れる樹液は、3月くらいに舐めると渋みがなく、甘い。

  

 ちなみに、大きいクヌギでカブトムシたちを探すと、よく高いところで群がっているのを見かけるかと思います。

 クヌギは、成長するたびにコルク層が厚くなるので、幹の下部ほどコルク層が厚く、樹液が出にくく、幹の上部だとコルク層が薄く、樹液が出やすいため、カブトムシたちは高いところに群がるというわけです。

 なので、「カブトムシたちが集まりやすくかつ、捕りやすい森」を作るには、絶えず、樹液の出る若いクヌギがある状態を維持することです。

 

 最後に、クヌギを傷つける肝心な虫の話を少し・・・。

 まず、幹に卵を産み付ける「カミキリムシ」。

 (写真はアラカシの産卵痕です)

 この傷口から樹液が出てきます。

 ただし、コルク層が厚すぎると産卵できないので、コルク層の薄い若木(もしくは薄い部分)に産卵します。

 

 もう1つ重要な虫が「ボクトウガ」の幼虫。

 この幼虫が、絶えずクヌギの内樹皮を傷つけて、樹液を漏れ続けさせるそうです。

 その目的は、「樹液に集まってくる小さな虫」。

 ボクトウガの幼虫は、樹液に集まる小さな虫を食べるために、内樹皮を傷つけて、クヌギに樹液を出せ続けるそうです。

 

 まとめ。

 1.樹皮が薄い樹木の樹液は、病原菌や害虫から身を守るため、抗菌物質を多く含むため、樹液が渋い。その代り、樹皮で光合成できる。そして、古い樹皮を捨てて新しい樹皮を作る。

 2.クヌギは、コルク層を発達させることで、病原菌や害虫から身を守り、樹液に抗菌物質を含む必要がないため、樹液が甘い。その代り、樹皮で光合成できない。そして、古いコルク層の上に新しいコルク層を作るため、成長するたびにコルク層は厚くなる。

 

 以上、最後までお付き合いいただき、ありがとうございましたm(_ _)m。

 

 以下、関連記事です。

夏休み! 樹液に集まる虫達

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

皮目が並ぶ樹皮 ヤマザクラ・シラカンバ

2017年03月12日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 今回は、サクラなどのように皮目が横に並ぶ樹皮について。

 その前に、「皮目」とは、簡単に言うと、枝や幹、表面がコルク化した根における空気の取り入れ口です。

 そこから病原菌などが侵入しないよう、コルクが特殊なフィルターの状態になっています。

 

 ヤマザクラやシラカンバなどは、初めの周皮は、長期間生き続けているため、肥大成長によって樹皮が接線方向に引っ張られても引き裂かれず、細胞数を増やしたり、接線方向に細胞を長く成長させたりして、横方向に繊維が発達したような樹皮となります。

 ←ヤマザクラ

 ←シラカンバ

 ←ミズメ

 簡単に言うと、横に引っ張られながらも樹皮は伸長している・・・ということです。

 

 林内を歩くと、時々、写真の様なサクラの枯れ木を見ることもあるかと思います。

 サクラ類の樹皮は、枯れた部分を囲むように残ります。

 

 ヤマザクラなどのサクラ類では、横方向に引っ張られるとともに、皮目も横並びに形成されるので、サクラ独特の樹皮となって、樺細工として利用されます。

 

 ケヤキも皮目を形成します。

 ケヤキも最初の周皮が長期間生き続けますが、ヤマザクラなどのように繊維が横方向に長く発達することはなく、少し、横方向に引っ張られたような状態になります。

 そして、壮齢木や傷がついた木、直射日光が直接幹に当たる部分などでは、コルク形成層の分裂が盛んになり、外側のコルクが鱗状に剥げ落ちて、滑らかな樹皮ではなくなります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする