今年のバレンタインチョコの収穫はついにゼロとなった。
かつての栄華も寄る年波にはさからえない。レストランを経営していた若き日には、戴いたチョコの始末に苦慮したものであったが・・・・。
丁度、「失恋レストラン」なる歌が流行ったころで、(聴いてよ、マスター・・・)と、若い娘たちが悩み事や相談ごとをもって連日ぼくのところにやってきた。
当時、喫茶店やレストランのマスターというのは若いひとたちのチョッとした憧れだったのかもしれない。
成人式の会場からまっすぐ晴れ着を見せにやってきたり、結婚してからは赤ちゃんを見せにやってきたりして、駆け込みレストラン・よろず相談レストランとして地域の若者たちの集いの場であった。人生や恋愛や芸術について夜通し語り合った。
いつも土曜の夜にやってくるステキなカップルがある日、婚約指輪を預かってくれと言う。あまりにも深刻な様子なので事情を訊くと、男の海外出張のため暫らく離れ離れになる、一年後受け取りに来なかったら私たち二人の間は駄目になったと思ってください、そのときはこの指輪も処分してください・・・と。男のほうは今にも泣き出しそうであった。
ぼくは占い師ではないので、若者たちに適切な指針を与えるようなことはできない。只、彼女たちの話にうん、うん、頷くだけである。
ちゃんと聴いてくれる人がいる・・・・・。それだけでも彼女たちの心の慰め、癒しになっていたのだろう。閉店時間が過ぎてもなかなか帰ろうとしなかった。
思春期あるいは青春の過渡期には、身近にそういう人間の存在が必要なのかもしれない。
レストランをたたみ美術館の館長に納まってからは、さすがに彼女たちも追いかけてはこなくなった。今は孫たちに囲まれて穏やかな暮らしをしていることだろう。
昨日、チョコレートはゼロであったが、当時の記憶がほろ苦く想い出されてくる。
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