2018/10/23
先日、ノーベル平和賞が発表され、コンゴのデニ・ムクウェゲ医師、イラクの人権活動家ナディア・ムラドさんが受賞しましたね。世界中の紛争下で起きている性暴力との闘いが評価された受賞です。
イラクのナディア・ムラドさんは25才、イラクの少数派ヤズディー教徒。
ムラドさんは2014年にイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に拉致され、3か月間性奴隷として拘束されたものの、逃げ出すことに成功して難民ャンプにたどり着き、ドイツに亡命しました。
私はムラドさんのことやヤズディのことを今回の受賞で初めて知りましたが、2015年に彼女に会って取材をしていた日本人女性のフォトグラファーがいたのです。そして、2016年にはその写真集も出版されていました。
それが林典子さんです。
林典子さんは1983年生まれ、大学で国際政治学や紛争・平和構築学を専攻していた時にアメリカの大学に留学、その後西アフリカのガンビア共和国を訪れ、新聞社で写真を撮り始めたそうです。その後、世界最大規模の報道写真祭で最高賞を受賞した写真家です。
この写真集は、一見平穏にも見える写真が並んでいますが、文章の中に何が起こったか書かれています。
ヤズディ教徒は、地球を創造した神「Xwede」(ホデ)を振興する一神教で、ゾロアスター教、イスラム教、古代ペルシャの宗教、キリスト教などとも通じています。ISからは異端者として、消滅させなければならない存在とみなされていました。
ISが多くのヤズディの少女たちを連れ去って、結婚と称した性奴隷として扱っていることは、当時のニュースで漠然と知っていました。この写真集にナディアさん自身の語る言葉でその様子が書かれていました。それはとても痛ましいという言葉では言い表せないものです。
ですが、私が驚いたのは、ノーベル平和賞を受賞したナディアさんのことを3年前に知っていて、現地取材をしている日本の女性がいたことでした。
危険地帯にも単身飛び込んでいく勇敢さ。
行動力や交渉力、情報収集力に驚かされてしまいます。そして、相手に信頼されるまで時間をおいて、ともに生活をして密着取材をします。外見は可愛らしい、うら若い女性なのに。
林さんの取材対象は女性が多い。やはり戦争においては迫害されるのは女性、同じ女性として一番つらいであろうことを取材しています。こういう日本人がいるんだなと、その目をそらさない姿勢が頼もしい。
この本では、独裁政権と闘うジャーナリスト、難民キャンプで暮らす少女、配偶者から硫酸で顔を焼かれた女性、震災で家族を失った被災者、誘拐され結婚を強要された女子大生の姿が報告されています。
題名どおり、世界の片隅で、ニュースにもならない、しかし、人の尊厳にかかわることが現実に起こっていることがわかります。
興味のある方は、ぜひ読んでみていただきたいです。