2018/11/12
『チーム・ブライアン』の3冊目となる『新たな旅』を読み終えました。
前作「300点伝説」と内容の重なるところもありますが、読みごたえのあったのは、やはり帯にも書いてあるように「平昌のあの感動」。
オリンピックシーズンに向かう2017年から、まさに平昌オリンピック。
昨年のNHK杯での負傷から、羽生さんはマスコミに登場することもなく、どのような状態であったか。ファンでなくとも大変に心配になったわけですが、その時期の様子をブライアンの言葉から知ることができます。
ToDoリストを作ったこと、24時間イメージトレーニングをしていたことなど。
平昌オリンピックで、男子ショートの試合が近づく公式練習の時のこと。
ここは印象的かつ感動的なので、文章の一部を引用させていただきます。
チーム・ブライアンにはとてもいい輪が生まれていました。まるで家族で休日にスケート場に来ているような、そんな温かな空気です。リンクのフェンスのところにユヅルが来て話し、笑いました。彼は明るく笑って、その笑顔を見て、思わず私はトレーシーに、「あんなユヅルを見られるなんて、すごく嬉しいね」と言いました。
ユヅルにとって、そのようにポジティブにふるまうことが、オリンピックに臨む唯一の方法だったのでしょう。(p177)
そしてここもまた感動的。
部分的に抜き書き、引用させていただきます。
男子ショート前日の公式練習の最後、クリケットクラブでやっていた基礎スケーティングをハビとユヅが行なったのです。
トップ選手が一斉に同じフットワークをする様子はとても荘厳で美しく、私が一番好きな瞬間です。2人はこの基礎トレーニングを、なんとオリンピック最後の公式練習で行ったのです。私は、「ああ、すべてが実を結んだ」と思いました。あのとき2人は真の絆を結んでいました。
2人の心理的距離が、本当に難しいシーズンだったからです。その2人が、なんとあの瞬間に一緒になったのです。どちらともなく、「最後はいつものスケーテイングを一緒にしよう」と目配せで合図して、始めたのです。
2人を見てきた日々の中で、最もうれしい瞬間でした。
「ああ、なんて素晴らしいんだ。私たちはすごく幸運じゃないか。こんなに素晴らしい選手が、こんな、とてつもないスケーターが2人、私たちのところにいるなんて、私たちはすごくラッキーで、運がいいんじゃないか」
私はどうしてもその気持ちを2人に伝えたくなりました。 「君たちのおかげで、私たちがとても立派に見えてしまうよ。君たちは素晴らしいね。君たちは本当に素晴らしい選手で、信じられないようなスケーターだ。私はどうしても君たちにお礼を言いたい」
すると、ユヅルとハビがハイタッチをしたのです。私は目頭が熱くなっていました、トレーシーも目が潤んでいました。ショートの本番を前にして、私はもう世界で一番幸せなコーチになっていました。(p182‐187)
いい話ではありませんか!
この話に出てくる、練習動画がないかなと探しましたが、私の検索能力では見つけられませんでした。
オリンピック直前まで2人の心理的距離が難しかったからこそ、さあ、これからというときには、2人で急速に距離を縮めて、心配していたコーチ陣を安心させ、感謝を示したかったのでしょう。
羽生さんは誰とも対立を作らない人なんだなと思いました。ほんとうに!
対立せずに平和な心の状態にいてこそ、自分の力が発揮できる、奇跡のような力も天からもらえるというものです。
このハグは今こうしてみると、なぜこんなに抱き合い、泣いたのか、わかる気がします。
先日のフィンランド大会で、バックヤードでブライアンとブリアンコーチと共に立っている羽生さんを見たとき、もうすっかり立場が逆転してしまったような感慨に打たれました。
以前だったら、試合前にはどこか張り詰めた感じを醸し出すブライアンの表情が、もうすっかり穏やか。コーチ2人はすっかり安心して羽生さんを見て、そしてオリンピックチャンピオンをサポートしていることを誇らしく頼もしく感じているように見えました。
「ユヅルは〈この大会は勝つことが必要〉というタイミングで本当に勝ちます。それは彼の才能であり、彼の精神であり、だからこそユヅルは特別なのです」
ブライアンの言うとおり、ほんとうに私たちもそう思います。
平昌オリンピックの感動がよみがえり、また動画を見直してしまったのでした。
(お写真、感謝してお借りしています)
『チーム・ブライアン』 こちらも必読。
表紙写真のウエストの細さに驚がくしました(笑)