はちみつと青い花 No.2

飛び去っていく毎日の記録。

藤田真央著『指先から旅をする』

2024年10月25日 | 
2024/10/25


藤田真央さん、というより
藤田真央君と呼んだほうが
しっくりくるような真央君ですが
いま評判の『指先から旅をする』を読みました。






華やかで輝かしくもあり
また過酷でもある経験を語っていて
旅の記録としても大変興味深かったです。

≪音楽の前では、嘘をつけない≫
という言葉がありました。 

〈どなたとの出会いも一期一会なのですから、「私にとっては日常です」という態度で弾いていいわけがありません。私がちょっと過剰なほどにこうしたストイックな考え方をしてしまうのは、これまでのピアニストの歩みと関係しているかもしれません。わたしは、いきなりパアッと華やかなスポットライトを浴びた人間ではなく、地道に歩んできたほうです。その過程でコンクールで賞をいただき、舞台に立つ本数をすこしづつ増やしてきました。
 一つひとつの公演をしっかりやらなければ積み上げてきたものもあっという間に崩れ去る―そうずっと心に留めています。ですから、舞台に上がる度に、毎回すごく緊張します。〉(p.16)


〈わたしは、いきなりパアッと華やかな
スポットライトを浴びた人間ではなく、
地道に歩んできたほうです〉

この言葉がちょっと意外でした。
20歳という若さで
チャイコフスキーコンクール2位。

いきなりパアッと華やかな
スポットライトを浴びた人のように
私は思っていたからです。


でも彼はストイックに地道に
歩んできた結果、と感じているほど
その裏では努力があったのですね。

そして「毎回すごく緊張する」というのは
そんなふうに見えないので
ビックリしました。

読んでいると
人に対しても、音楽に対しても
直感が大変に優れている人と感じたのです。

でも
「音楽をやる人の2つのタイプがあって
イメージ先行型と楽譜・理論先行型。 
自分は後者。
音楽やピアノを使って〈じぶん〉を表現するのではない。
橋渡し役。」

ああ、そうなのかと思いました。
楽譜を緻密に分析して練習を重ねるんですね。

天賦の才があって、なおかつ
ストイックに努力をしないとトップに
上れない世界なんですね。



「思い返すと、パンデミック前は
あまりに忙しくなりすぎていましたね。
1週間で新しい曲を譜読みして弾いて、
また新しい曲を…というペースを続けていました。」

そうでなくては
1週間ごとに違ったピアノ協奏曲を
違うオーケストラ・指揮者と合わせられない。


憧れの指揮者たち、大ピアニストとの
邂逅エピソードも大変おもしろいです。

私は書かれているピアニストの名を検索し
何度You Tubeで曲を聴いたでしょう。

そしてGoogle Mapで旅した公演先の
地名を検索します。
そして、なんときれいな場所なんだろうと
感動するのです。

ピアニストって過酷だなあと
つくづく感じました。

演奏家というのは旅をする人。
彼のように世界中を飛び回っていると
時差の問題は大きい。

日本→ベルリン→バンクーバー
→オランダ・アムステルダム→ベルリン
などというのは
もう体が「自分は今いずこ?」状態で
体内時計はわからなくなってしまうようです。

数時間後の公演のために
寝ておこうと思うのだが眠れない。

ヨーロッパの地方都市などでは
会場にたどり着くまでが大変だろうなあ。


アムステルダムでは舞台を終えた後
雨の中を傘なしで15分歩いてホテルに戻り
もうレストランも閉まっているので
冷凍食品を買って帰り
ホテルで温めて食べようとしたら
「Out of Service」と言われたとか。

悲しすぎる😰 


しかし、苦労も含めて楽し気に
それを語っているのは
彼の楽天的な気質だろうか。

名だたる先輩アーティストたちから学んだこと
教えられたことをよく反芻して
自分のものにしていく。

なんといっても「愛されキャラ」
ですよね。

読み進めていくうちに
これはひとりの青年の成長物語だなあと
感じたことでした。

 



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