太陽の季節は もうすぐ終ろうとしていた
ひと夏 境目の無かった
空の青と海の青がサヨナラして
浜辺を駆け抜ける風はすでに秋色に染まる
八月最後の土曜日 僕達は海にいた
まだ彼等が少年や少女だった頃
使い切るには途方もなく長く
過ぎ去ってしまえばとても短かかった
「夏休み」という宝島のような
時間を失ってからずいぶん久しい
単調な毎日 重たい生活に追われ
果てぬ労働の日々 いがみ合う競争社会
世の中のツケを支払い続ける永久の債務者
辻褄合わせの数字と 歪んだ時間の中で
一年 一月 一日が、あの頃の
何十倍ものスピードで加速し続ける
宝島を探して 7つの海を渡る海賊には
なれなかった替わりに 僕等は大人になった
ネクタイを締めた海賊どもよ!
今こそ失くした宝島の地図を広げよう
荒くれ者のジェットスキーは
海に浮かぶ狼のように
波を飲み込んでは吐き出し
爆音の中にコンクリートのような
海の強さや固さを思い知らせてくれた
時計の針を逆回転させるくらいの
スピードに慄きながら
バーベキューの炎の中に見た
ほっぺたの落ちそうなくらい極上の焼肉の味と
皆の笑顔と馬鹿話を きっと忘れない
日本海に沈む 悲しいくらいにでかい夕陽を
ただただ 黙って見送るしかなかった
そして僕らの夏は終わり
海賊たちはまたネクタイを締め直し
疲れたスーツに袖を通し
それぞれの「日常」に帰る
ただ違うのは
スーツのポッケの中に
あの海辺で見つけた 少し砂のついた
僕等だけの金貨を忍ばせている
それは何ものとも代えることの出来ない
宝物に違いない。