住職のひとりごと

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御生誕1250年の弘法大師

2023年01月26日 14時14分55秒 | 仏教に関する様々なお話
御生誕1250年の弘法大師 令和5年1月21日薬師護摩供後の法話




今日は初大師、御生誕1250年の記念すべき年の初大師となります。全国各地の弘法大師を祀る寺院では盛大にお祭りがなされていることでしょう。こちらにも土曜日ということもあり、早朝8時からにもかかわらず、遠方からも大勢のお護摩のお参りをいただきありがとうございます。

弘法大師は今年が西暦2023年となりますから、774年宝亀五年にお生まれになられています。六月十五日のお生まれと言われており、六月には各本山でも記念の法会が執り行われることと存じますが、はたしてお大師様はどのようなお方であったのか。皆様ご存じのことと思いますが、概略申し上げてみますと。

生まれた場所は、讃岐の屏風ヶ浦と言われますが、香川県の今善通寺のある場所とされています。群司をされていた父佐伯善通(さえきよしみち、俗名:田公 たぎみ)氏の子として真魚と名付けられ、十四才で奈良の都に上京、中央佐伯氏の氏寺佐伯院に滞在し、十五才で桓武天皇の皇子伊予親王の家庭教師であった母方の叔父阿刀大足について論語、孝経、史伝、文章などを学んだとされています。そして、十八才のとき京の大学寮に入り、専攻が明経道で、春秋左氏伝、毛詩、尚書などを学んだということです。

ですが、十九才を過ぎた頃から山林での修行に入ります。熊野や四国の山々を跋渉し、四国室戸岬の洞窟で修行をしているとき、口に明けの明星が飛び込んできて特殊な体験をなさるわけです。このとき洞窟の中で目にしていたのは空と海だけであったため、その後空海と名乗ったということです。こうした山岳修行によって、宗教的な才能が開花して、遣唐使の一員として留学僧の立場で後に天台宗を開く最澄師とともに唐に赴くのです。

その時には中国の言葉に不自由なく、詩文や書に際立った才能を発揮されて、インドから伝わっていた当時の仏教の最も進んだ教えである真言密教の正統な継承者であった青龍寺の恵果和尚に奇跡的に邂逅されて、すべての教えを授かり第八祖となり、二年ほどの滞在で帰国します。その後嵯峨天皇の即位によりその存在を見出され我国における真言宗の開教をみて、その後一大宗派に築き上げられ、高野山の地に伽藍を築いて修禅の道場とされ、東寺を下賜されて国家の祈願所とされます。さらに、東大寺の別当に任ぜられて奈良の仏教も真言化し、宮中にて正月の後七日御修法を定例の法会として宮中の祭祀も密教を取り入れたものに換えていくことに成功されたのでした。

未だに伝教大師最澄師とともに日本仏教の二大巨人と言われます。ですが、天台宗はその後浄土宗、禅宗にと様々な宗派に枝分かれしていくのに、真言宗は派は分かれ本山は沢山ありますが、一つの教えとして続いています。それはひとえにお大師様が真言教学を、とても難解ではありますが、完璧に著作として後世に残されたからではないかと思います。

ではなぜそこまで偉大な生涯を送れたのかということになりますが、昔から不空三蔵の生まれ変わり説というものがあります。ご誕生の年や日にちまでが、不空の亡くなられた日と同じであるとされてきました。

不空とは、正式には不空金剛であり、インド北部のバラモンを父とする西域の人とされ、若くして唐の長安にきて、金剛智に師事し密教を学び、三十六才の時741年金剛智の入寂後に、師の遺言に従って『金剛頂経」『大日経』等の梵語原典の密経経典を請来するためにセイロン・インド南部に渡り、龍智阿闍梨のもとで胎蔵・金剛両部にわたる伝法灌頂を伝授されています。

そして746年長安に帰り、755年の安史の乱をきっかけに 唐朝の内患外憂に処する護国思想として、またその呪術的機能により宮廷内に強固な基盤を作り帰依をうけることになります。そして、玄宗、粛宗、代宗の三代の国師となり、密教を国家仏教の地位にまで引き上げることに成功します。また110部143巻もの密教の経論を漢訳し、鳩摩羅什・真諦・玄奘三蔵とともに、四大訳経家の一人とされています。そこで不空三蔵ともいわれているのですが、774年に入寂しています。

お大師様も唐に渡り受法され、多くの経典を持ち帰り、810年薬子の乱に国家鎮護を祈り、嵯峨天皇、淳和天皇の帰依を受け、多くの著作を残されました。その生涯はこの不空三蔵の事蹟をそのまま成し遂げられているようにも映ることからも生まれ変わりではと、そう言われているのです。まさに不空三蔵のような偉大な宗教的才能を受け継がれたかのような生涯でした。

時々このように思えるような人は世に出ていることは以前にも紹介したことがあります。幼少期に子供のおもちゃのピアノを教えられてもいないのに引き出して、英才教育を施されて世界的なピアニストになられている辻井伸行さんや書家のお母さんの手ほどきでみるみる才能を開花させた書家の金澤翔子さんなど。他にも多くのこうしたまるで前世から才能を受け継がれてきたのではないかと思いたくなるような方はたくさんおられることでしょう。

ですが、実は私たちも本当はそうした才能がありながら、それを開花させずにただの凡人と思って暮らしてしまっているのかもしれません。世界最高水準の才能はともかくとして、これまでしてこなかったものの中に、もしくは本当は関心を強く持ちながら諦めてきてしまったことの中に、前世で強く関心を持ち、かなりの時間を費やし磨いてきたものをそのままにしてしまっているということもあるかもしれません。好きなこと、関心をそそられるもの、簡単にあきらめてきてしまっていることの中にそんなものが隠れていることでしょう。

坐禅や瞑想なども、まったくしたことの無かった方が、人に連れられてやってきて試しに坐ってみたら、突然かなりのレベルまで到達してしまったということがよくあるものです。同様に、これまで全くしてこなかったことの中に新たな自分の目標が見つかるかもしれません。今年は是非、生誕1250年のお大師様にあやかり、私たち自身の隠れた才能を探し出し、開花させられないまでもそれを楽しみ、より輝いた人生へのスタートにしてみてはいかがかと思っています。今年も一年ご参詣をいただけますよう宜しくお願い申し上げます。



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