活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

「映画ポー川のひかり」を観て

2009-07-09 11:11:46 | 活版印刷のふるさと紀行
昨晩、イタリア映画『ポー川のひかり』の試写を観ました。カンヌ国際映画祭の招待作品で監督は名匠エルマンノ・オルミさんです。写真は作品紹介のリーフレットの一部を掲載させていただきます。

驚いたのは導入部でした。古都、ボーローニャの大学図書館で夏休みのある朝、守衛が見たのは、図書館の床一面に散らばされた蔵書のどれにも太い犬釘が打ち込まれ、まるで閲覧室全体が書籍の処刑場のような恐ろしい光景でした。

大活字と装飾画でグーテンベルク時代の聖書かと見てとれる大型本、分厚い哲学書、どれをとっても貴重な稀こう本であることには間違いありません。すぐさま、パトカーが呼ばれ、大学図書館内が蜂の巣をつついたような大騒ぎにまきこまれます。

この図書館蔵書の処刑は書物に詰め込まれた知識、学問、真理追究の否定を意味するものでしょうか。
あるいは、「宗教」、「神」の存在そのものへの抵抗でしょうか。

映画はその導入部を背景に、本の処刑をおこなった大学の哲学教授がポー川のほとりの廃屋で、「キリストさん」と呼ばれ村民に親しまれ、助けられて対人でも対自然でもいきいきとして「生」と向かい合う……それが主題ですが、割愛します。

 オルミ監督のテーマは、現世的な人間の欲望と己の中の神との対決、ポー川の自然とそこで暮らす素朴な村人の人生観にあるのでしょう。宗教観を異にする私たち日本人にはなかなか理解できない奥深いものを含んでいる気がしました。

 おそらく、この映画は自然の持つ美しさや人間の営みと自然破壊の角度から論じられるでしょうが、私は「ドラードたちは450年前、西欧生まれの神と出会い、ヨーロッパを知り、帰国後、キリシタン版を印刷しながら、日本最初の活版印刷人として、神とは?人間の知識とは?」と、悩んだのではなかろうかと、そんなことも考えさせられたのでした。深さをたたえたいい映画です。



コメント
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