永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(織り2)

2009年04月20日 | Weblog
織り(2)

 固地綾織物(かたあや)=経(たて)糸と緯(よこ)糸の色を変え、緯糸で文様を著したもので、全体の色が二色混じったものとなる。織りは固く、厚い。経糸紫、緯糸金茶。緯糸の金茶色で浮線綾の丸文。

源氏物語を読んできて(織り3)

2009年04月20日 | Weblog
織り(3)

二陪(二重)織物(ふたえおり)=地紋を織りだした上に別の色で丸文などを織り だした二重織りの豪華な織物。手数がかかるので女房装束の唐衣や高級な狩衣な どに用いられる浅黄色松菱の地文に白で向かい花丸。

源氏物語を読んできて(361)

2009年04月19日 | Weblog
09.4/19   361回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(32)
 
 その年の十一月に、

「いとをかしき児をさへ抱き出で給へれば、大将も、思ふやうにめでたし、と、もてかしづき給ふこと限りなし。その程の有様、言はずとも思ひやりつべき事ぞかし」
――(玉鬘が)たいそう可愛い男の子さえお産みになりましたので、大将も今は思いどおりになって仕合せだと、いっそう尚侍の君(玉鬘)を大切になさる。その時分のご様子がどのようであったかは、言わずともご想像できるでしょう――

 父の内大臣も、これが自然な願いどおりの玉鬘のご運であると納得なさっておられます。頭の中将(柏木)などは、冷泉帝にはまだ皇子がいらっしゃらず、そのことをお嘆きのご様子ですので、玉鬘が宮仕えでもなさっていらしたら、どんなに名誉なことがあったであろう、などと、虫のよいことを言われます。

「公時はあるべきさまに知りなどしつつ、参り給ふことぞ、やがてかくてやみぬべかめる。さてもありぬべき事なりかし」
――(玉鬘は)尚侍の公務は、里邸で規定通りのお勤めをなさりながら、参内なさることは、あの時だけになりそうです。それも尤もなことですね――

 「まことや、かの内の大殿の御娘の、尚侍のぞみし君も、さる者のくせなれば、色めかしうさまよふ心さへ添ひて、もてわづらひ給ふ。(……)」
――そういえば、かの内大臣の娘で、尚侍のお役を望んでいました近江の君も、あのような気立ての人の癖で、この頃は妙に色めかしくそわそわし始めて、父君も持て余していらっしゃる。(弘徽殿女御も、そのうちきっと軽はずみなことを仕出かさないかと、はらはらしていらっしゃる。父大臣も「もう人中に出るのではない」と制しなさるのも聞かず、あちこちに出て行かれるようで)――

 どのような折でしたか、夕霧が内大臣家にいらっしゃるときに、女房たちが「宰相の中将(夕霧)は、やはり、他の方とは違っていらっしゃる」とほめているところへ、この近江の君が押し分けて出てきて、「この方だわ、この方だわ」と褒めそやし大騒ぎしています。不躾にも歌を差し上げます。その歌はこのようなものでした。
「北の方がお決まりでないなら、私が行って上げますから、お住いを教えてください」

 夕霧は、ああ、あの評判の今姫君かと可笑しくなって、返歌に、

「よるべなみ風のさわがす船人もおもはぬかたにいそづたひせず」
――妻が決まっていなくても、気の向かない所へはいきません――

女はさぞ気まり悪い思いをしたことやら。

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】おわり。

ではまた。


源氏物語を読んできて(織りⅠ)

2009年04月19日 | Weblog
織り(1)
 
 装束の織りの種類には浮織物、固地綾織物、二陪(二重)織物、穀織、平絹などがあります。

 浮織物(うきおり)=文を生地から浮かんだように織ったもの。若年の指貫などに用いられる。紫無文地に白の八藤文様。

源氏物語を読んできて(360)

2009年04月18日 | Weblog
09.4/18   360回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(31)

 源氏は、髭黒の大将からのお文に、なかなか風流な冗談を言うものよ、とお思いになるものの、お心の中では、

「かく領じたるを、いと憎しと思す」
――玉鬘を独り占めしているのを、憎らしいと思っていらっしゃる――

さて、以前の北の方は、

「月日隔たるままに、あさましと物を思ひ沈み、いよいよ呆け痴れてものし給ふ。大将殿の大方のとぶらひ、何事をも委しう思し掟て(……)」
――月日が経ちますうちに、とんでもない事の成り行きに思い沈まれて、いよいよ気が狂おしくなっていらっしゃる。大将は一通りのお世話は引き続きなさって、(お子様たちを変わらず大事にしておられますので、二人の間がまったく縁がなくなったということもなく、北の方は生活の面倒を見てもらっていらっしゃる)――

 髭黒の大将は姫君(真木柱)を耐えられないほど恋しく思っておられますが、式部卿の宮は決してお逢わせになりません。真木柱は、

「若い心の中に、この父君を、誰も誰もゆるしなううらみ聞こえて、いよいよ隔て給ふ事のみまされば、心細く悲しきに」
――(真木柱は)少女心にも、この父君を、誰も皆容赦なくお恨みして、ご自分との間をいっそう隔ててしまわれますので、心細く悲しいのでした――

 しかし、弟君たちは父邸からこちらへ来ては、尚侍の君のことなど、自然に話題にしますには、

「まろらをも、らうたくなつかしうなむし給ふ。明け暮れをかしき事を好みて、ものし給ふ」
――(玉鬘の君は)私たちをも可愛がって、優しくしてくださいます。一日中風流なことを好んで楽しく暮らしていらっしゃいます――

 などとお聞きになりますと、真木柱は羨ましく、

「かやうにても安らかにふるまふ身ならざりけむを歎き給ふ。あやしう、男女につけつつ、人に物を思はする尚侍の君にぞおはしける」
――このように自由に振舞える男の身に、どうして生まれて来なかったのかと、嘆いていらっしゃる。不思議に男にも女にも気を揉ませる玉鬘でいらっしゃいますこと。――

ではまた。


源氏物語を読んできて(359)

2009年04月17日 | Weblog
09.4/17   359回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(30)

 源氏は、やはり我慢がおできになれず玉鬘にお便りをお書きになります。あまり人の目についてはとお思いになって、たいそう真面目風に、

「おぼつかなき月日もかさなりぬるを、思はずなる御もてなしとうらみ聞こゆるも、御こころひとつにのみはあるまじう聞き侍れば、ことなるついでならでは、対面の難からむを、口惜しく思ひ給ふる」
――久しくお逢いできぬ月日が積もりましたのを、思いの外のお仕打ちとお恨みしましたところで、あなたのご一存でもないように伺いますので、特別の折でもなければお目にもかかれまいと残念におもいます――

 などと、親らしくお書きになって、さらに「あなたを一体どんな人が手に入れたのでしょう、そんなに厳しく守らなくても…、妬ましくなります」と書き添えてあります。

 髭黒の大将もご覧になって、苦笑されながら、

「女は、まことの親の御あたりにも、たはやすくうち渡り見え奉り給はむこと、ついでなくてあるべき事にあらず。まして何ぞこの大臣の、折々思ひ放たずうらみ言はし給ふ」
――女というものは、実の親の所にも、何かの用事がなくては、めったに行って逢うものではない。まして親でもない源氏が、なんで折々諦めきれずに恨み事をいわれるのか――

 と、つぶやいていますのを、玉鬘は憎らしいと聞いていらっしゃる。

「『御返り、ここにはえ聞こえじ』と書きにくく思いたれば、『まろ聞こえむ』とかはるもかたはらいたしや」
――「(玉鬘が)ご返事は私には書けません」と書きしぶっておられますと、髭黒の大将が「私が書こう」と、代筆なさるのも、全く変な話ですこと――

お返事は、「お子様の数にも数えられない鴨の子のような玉鬘を、いまさらどちらへお返しすべきでしょうか」とお書きになって、さらに、

「よろしからぬ御気色におどろきて。すきずきしや。」
――あなた様のご機嫌の悪いご様子に驚きまして、風流めかして恐縮でございますが――

と、ありました。

◆写真:手紙

ではまた。

源氏物語を読んできて(358)

2009年04月16日 | Weblog
09.4/16   358回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(29)

冷泉帝も、あの日の玉鬘をお忘れになれず、ときどきお文をお届けになりますが、玉鬘は、

「身を憂きものに思ひしみ給ひて、かやうのすさび事をもあいなく思しければ、心とけたる御答も聞こえ給はず」
――何と自分は憂きものと、しみじみ思われて、このような戯れめいたお文の贈答など、味気なく思われて、型どおりのお返事だけで、打ち解けたご返事などはなさらない――

「なほかのあり難かりし御心掟を方々につけて思ひしみ給へる御事ぞ、忘られざりける」
――やはりあの六条の源氏の、世にもあり難いお心むけが、何かにつけてお心に沁みて忘れられないのでした――

 三月になって、源氏は、六条院のお庭に藤や山吹が咲き染めますのをご覧になりますにつけても、玉鬘を思い出されて、紫の上の御殿は捨てておいて、かつての玉鬘のお部屋にお渡になって、呉竹のませ垣に自然に咲きこぼれる山吹の艶やかな色を、まことに趣深く思われて、歌

「おもはずに堰手(ゐで)のなか道へだつともいはでぞこふる山吹の花」
――思いがけず二人の間は隔たったが、私は口には出さずあなたを恋慕っています――

 と、詠まれますが聞いてくれる人とてありません。こうして源氏は玉鬘が今度こそ本当に離れてしまったのだと思い知らされたのでした。

「げにあやしき御心のすさびなりや」
――まことに怪しいお心癖でありますこと――

◆写真:山吹

ではまた。

源氏物語を読んできて(357)

2009年04月15日 | Weblog
09.4/15   357回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(28)

 右近は源氏の御文を、髭黒のお出でにならないときにそっと、玉鬘にお見せしますと、

「うち泣きて、わが心にも、程経るままに思ひ出でられ給ふ御さまを、まほに「恋しや、いかで見たてまつらむ」などはえ宣はぬ親にて、げにいかでかは対面もあらむとあはれなり」
――(玉鬘は)お泣きになって、自分でも時が経つにつれて思い出されます源氏ですが、まともに「恋しゅうございます。どうにかしてお目にかかりたく」などとはおっしゃれない。名ばかりの親なのですから、なるほどどうして対面など出来ようかと悲しくあわれも深いのでした――

 源氏のご態度を玉鬘が気に入らないご様子の少しおありのようながら、右近は、源氏と玉鬘とは実際どのようなご関係だったのかと、今でも疑問をもっております。玉鬘は、返歌に、

「申し上げますのも恥ずかしいのですが、ご返事をいたしませんのもどうかと思いまして『ながめする軒のしづくに袖ぬれてうたかた人をしのばざらめや(春雨の雫に濡れ、涙にくれて、すこしのひまもあなたを偲ばずにいられましょうか)時がたつほど寂しさを覚えます。あなかしこ』――

 と、うやうやしくお書きになります。

源氏はこのお返事をご覧になって、涙のこぼれる思いで、胸がいっぱいになって、

「すいたる人は、心から安かるまじきわざなりけり、今は何につけてか心をも乱らまし、似げなき恋のつまなりや、と、さましわび給ひて、御琴掻き鳴らして」
――色好みはわれから求めて苦労するものだ、今さら何のために心を乱そう、身にそわぬ恋の相手ではないか…と諦めようとなさいますが、やはり容易には忘れかねて、お側の和琴を掻き鳴らしていらっしゃる――

ではまた。


源氏物語を読んできて(356)

2009年04月14日 | Weblog
09.4/14   356回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(27)

 内大臣は、急なことで儀式もなくてはどうかと思われましたが、それくらいの事で大将の気を悪くさせてもと思い、「とにかく始めから、私の自由にならない人だから」とおっしゃったとか。源氏としては、あまりに突然に大将の方に引き取られたことを不満にお思いになりますが、今さらどうしようもないのでした。

 玉鬘は思いがけぬ身の上になったことに、何とも浅ましくお思いになり、髭黒大将だけは、盗み取ってきた女のように思えて、一人嬉しく、やっと心も落ち着くのでした。
玉鬘は、帝が局にお見えになったことを、髭黒大将がひどく恨まれますのも、気に入らず、

「いよいよ気色あし。かの宮にも、さこそ猛う宣ひしか、いみじう思しわぶれど、絶えておとづれず。思ふ事かなひぬる御かしづきに、明け暮れ営みて過ぐし給ふ」
――(髭黒との夫婦仲も)前よりいっそう不機嫌です。かの蛍兵部卿の宮も、あれほど強い気持ちを言われましたが、内心はたいそう悩んでいらっしゃるようで、何とも言って来られません。髭黒大将は、念願が叶って玉鬘を北の方になさって、明けても暮れても大切にかしずいて、かかりっきりになっておられます――

 二月になりました。源氏は髭黒大将に、してやられた口惜しさと、外聞の悪さに、始終玉鬘のことが気にかかって、

「わがあまりなる心にて、かく人やりならぬものは思ふぞかし」
――自分があまり呑気すぎたために、このような自業自得の苦をみることになったのだ――
 
 と、こちらは寝ても覚めても、目の前に玉鬘がちらつくのでした。とても我慢のできそうもなく、玉鬘の侍女の右近に御文を御つかわしになります。源氏の歌、

「『かきたれてのどけきころの春雨にふるさと人をいかにしのぶや』つれづれに添へても、うらめしう思ひ出でらるること多う侍るを、いかでかは聞こゆべからむ」
――「春雨が降り続いてのどかなこの頃、あなたは昔の人をどうお思いですか」つれづれに恨めしく思いだすことばかり多いのを、どうお伝えしたらよいでしょう――

ではまた。

源氏物語を読んできて(355)

2009年04月13日 | Weblog
09.4/13   355回
 
三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(26)

 帝は、玉鬘のご様子が、聞いておられた以上に実際美しいので、恋しく思われますが、余りにも軽薄な色好みのように思われて、玉鬘に嫌われてもと、心をこめてお優しく、何とか今後のお約束をと、おっしゃいますのを、玉鬘も勿体なく、わが身を自分でもどうしようもないものをと、お返事のしようもないのでした。

 御輦車(てぐるま)が準備されて、源氏と内大臣方のお迎え人たちが、待ち遠しがって、髭黒の大将もうるさいほど付き添ってお急きたてしますが、帝はなかなか玉鬘をお離しになりません。帝は、

「かういと厳しき近きまもりこそむつかしけれ」
――こうまで付きっきりで、厳重に守っているとは怪しからぬ――
 
 と、面白くないご様子です。帝の歌。

「九重にかすみへだてば梅の花ただかばかりもにほひ来じとや」
――宮中から離れたならば、梅の香ほどの、ちらとももう参内なさらないのだろうか――

玉鬘の返歌

「かばかりは風にもつてよ花の枝に立ち並ぶべき匂ひなくとも」
――お言葉だけでもことづけてくださいまし、女御更衣のようにお側にお仕えできる身分の私ではございませんが――

 髭黒の大将は、かねてからそのまま自邸へと予定していましたが、前もってお話しては、源氏のお許しが出ないと思って、それは申し上げずに、髭黒は、

「にはかにいとみだり風のなやましきを、心やすき所にうち休み侍らむ程、よそよそにては、いとおぼつかなく侍らむを」
――急にひどく風邪気味で苦しいので、気楽な自宅で休みたいと思います。その間、玉鬘と別々に居りますのも心配ですので――

 と、穏やかに源氏と内大臣のお世話をお断りになって、玉鬘を、そのまま大将の邸にお連れになってしましました。

◆御輦車(てぐるま)=輿の形をした屋形に車輪をつけ、人が手で前後の轅を引いて動かす車。写真は牛車ですが、雰囲気として出しました。


ではまた。