ちょっと短編小説なんてのを書いてみようと思います。
待ち合わせって、どんな感じで待ってますか?
ケータイでメールをして逢うまでの時間を潰したり、コーヒーを飲んだり、本を読んだり・・・。
待ち合わせの相手が付き合ってる彼だったり彼女だったりすると、そわそわしたりするものです。
それは、現代でも過去でもたいした変化はありません。せいぜい、ケータイって道具があるかないかぐらい。
それは、まだケータイが普及し始めて間もない頃。imodeなんてもんもなく、当然スマートフォンなんて影も形もなかった時代のお話です。
その日、彼は待ち合わせ場所へと急いでいました。場所は渋谷駅ハチ公前。
すでに待ち合わせの時間は2時間近く遅れていて、待ち合わせ場所にはもういないかもしれません。
それでも、彼はあきらめずに走りました。
数日前、彼は彼女に電話しました。
「クリスマスの日、予定ある?」
「ううん、とくにないよ。仕事も早くあがれるし大丈夫だよ」
「それじゃ、渋谷駅ハチ公前に18時で待ち合わせできる?」
「いいけど、仕事あるんじゃない?」
「大丈夫、ちょうど仕事納めだから早く終わる予定だし」
「じゃ、待つね」
そして、クリスマス当日。
社内で年内の会議を終え、大掃除も終了した16時に社長から全社員へ召集がかかりました。
何事だろう?と社長室へ行くと、社長主催のクリスマスパーティーが始まってしまいました。
社長主催となれば、若手社員である彼も参加しなくてはいけません。でも、そんなに長くはないだろうと彼は考えてました。
社長は同じ場所で長くは呑まないと先輩から聞いていたからです。
だが、この日の社長は違ってました。気分がいいのか、ビールから始まり焼酎、ブランデー、ワインと次々と空けていきます。
おいおい、話が違うじゃん・・・。
気づけば18時半を回ってました。
そばに居た後輩が彼に聞きます。「今日、予定があるんじゃなかったでしたっけ?」
「ああ、あるけどこの状態じゃ抜けるわけにはいかないからな」
「ケータイ、持ってないんですか?」
「俺は持ってない」
「いや、先輩じゃなくて相手の方ですよ」
「持ってるよ」
「会社の電話を借りて連絡してはどうです?」
「いや、ダメだよ。知らない電話番号には出てくれないから」
そんな調子で彼が四苦八苦していた頃、彼女はハチ公前で待ってました。
手には手作りのケーキを持って。
(遅いなあ、どうしたんだろう・・・)
クリスマスのハチ公前には、たくさんの人が待ち合わせをしています。時期的にカップルの率は高い。
(まあ、いつものことだしね)
彼女は、自分を励ますようにそう思いました。
そう、いつだって遅れて来るんだから・・・。
これまでも、ほとんど私が待ちぼうけを喰ってきたんだよなー。でも、いつも走ってきて謝るあいつを見ると怒れないんだよね・・・。
よし、今日は来たら思いっきりわがままを言ってやろう。うん、多少言っても罰はないよね。
やがて、時刻は19時半になってました。
そろそろお開きとなり、後片付けを始めました。
当然、彼も後片付けのお手伝いです。
「先輩、何してんですか!!早く待ち合わせ場所に行ってくださいよ、彼女なんでしょ?」
「えっ、何で彼女って知ってるんだ?」
「だって、クリスマスに待ち合わせっていったら彼女でしょ、あー、何でこんなに天然なんだろ?」
彼は哀しいくらいの天然ボケでした。
「とにかく後片付けはぼくらでやりますから、早く行ってあげてください!!」
「でも、もう帰ってるかもしれないから。それにこれも仕事・・・」
「何言ってるんですか!!いいから早く行けー!!!」
「悪い。」
彼は荷物をまとめて、駅へと走りだしました。
渋谷駅ハチ公前 20時
はあ、はあ・・・。彼は階段を駆け上がりハチ公前で彼女を探しました。
彼女はハチ公のまさに正面で彼を待ってました。
「長い間、待たせてごめん。寒かったでしょ、どこか入ろう。」
「・・・。」
(やべ、怒ってるよな。そりゃ2時間だものなあ・・・)
「突然さ、仕事が入って・・・」
「本当に仕事?」
「社長がいきなりクリスマスパーティーを始めちゃって・・・、それでその片付けとかで遅れちゃった。本当にごめん」
「そう、それなら仕方ないけど・・・。今度からはちゃんと連絡とれるようにして」
「うん、そうする」
「じゃ、携帯電話をこれから買いに行くよ」
「えっ、これから?」
「あれ?反省するって言葉は嘘だったのかな~?」
「い、いや・・・」
あれっ、手に持ってるのはもしかして・・・。
彼は「そのケーキ、もしかして手作り?」
「うん」
「携帯電話、買いに行こう。買ったら二人でどこかでケーキ食べよ」
「うん!」
こうして、二人は腕を組みながら携帯ショップへと向かっていきました。
「今日はケーキ食べながら、おいしいお酒でも飲みたいなー。こんなに寒い中、2時間もまたされたんだしー」
「じゃ、居酒屋でも行く?」
「おいしいワインの飲めるお店がいいなー」
「・・・あい」