新・本と映像の森 120 松谷みよ子『死の国からのバトン ー 直樹とゆう子の物語ー』偕成社、1976年
254ページ、定価1200円(1996年22刷)
児童文学なのですが、大人向けの小説を越える感動が、ボクはありました。ボクが主人公の直樹と同一化できるからかもしれません。
直樹もゆう子も、前作『ふたりのイーダ』でのように異界と交流できる能力があります。
直樹は、東京に住む小学6年生の男の子。家族はルポライターの母と、妹とネコのルー。父は亡くなっていない。
冬に富山の父の田舎へ行く前、ネコのルーが行動がおかしくなり、家出したうえ、死んでしまった。
物語は、富山の田舎で、ネコのルーの死の謎とかくらしを守る先祖の苦闘をめぐって進行する。
小正月、鳥追い。風俗が美しく、懐かしい。
風よなあ
どうどと
山やま わたれよなあ
☆
うっつけ かみつけ
カズラの葉
ええ もう と!
☆
山を焼くぞう
山を焼くぞう
山のばばさどの
おゆるしくだされい
大蛇どのもごめんなされい
はう虫ははうていけ
とぶ虫はとんでいけ
ひっこむ虫はひっこめ
あぶらむけそうけ
☆
幻想の世界で、直樹はネコたちやルーとともに、死出の旅を歩く。
「ねこたちには、どんなかなしいおもいがあったというのだろう。いやおもいよいうより、どうにもならん苦しみだったかもしれない。まえをみてもねこの群れ、ふりかえってもねこの群れの中で。直樹は・・・・」(p128)
直樹は「山のばばさ」に会う。
「人も殺してしもうたがや。ほして、これからものう、殺しつづけるやろ。直樹、おまえも殺されるかもしれん。」
「そんな・・・・そんなこと。」
「山のばばは、うそはいわん。」
ねんねこや
ねんねこや
山の木の数 萱の数
天にのぼって星の数
田んぼにくだって稲の数
稲の数よりなおかわいい
おまえのねんねがなおかわいい
ねんねこ
ねんねこや
☆
現実に戻って、おもしろいのは「百万遍の供養」。
さいのきのひこべえや
でやにあづつのはばしんや
あぶらやにしんのぜんざいもん
かしやはなざいけのなおしちに
ばんじょうもぐさがつどうて
わすれじとおがみまつる
なまんだあなまんだあなまんだあ
なまんだあなまんだあなまんだあ
小学6年生の直樹は、これから現代を生きていかねばなりません。
1976年に12才だとすると、2018年には54才のはずです。直樹は、どんな大人になって、どう生き抜いているでしょうか。