新・本と映像の森 199 原田マハ『たゆたえども沈まず』幻冬舎、2017年
408ページ、定価本体1600円。
『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』などを書いた原田マハさんの新作小説yh。
現実に存在したゴッホや弟のテオを副主人公にして、画家と画商の共同作業としての芸術のリアルな姿を描いている。
傑作だと思う。ただしボクは「正主人公」としての2人の日本人、19世紀末にフランスへ渡って画商となったという林忠正と加納重吉を描いている。
「林忠正と加納重吉」が時代を実際に生きた人なのか、著者のフィクションなのかは知らない。さほど重要なことではない。
マネでないこと、独創的なこと、オリジナルなこと。それが芸術や科学に求められることだ。
そこで芸術や科学に従事しようとすものは悩み、苦悩するのだ。
当時のパリにはアカデミーの権威派と新興の「印象派」、そして日本の浮世絵などの「ジャポニスム」があった。
そこで、苦闘するゴッホとテオと林忠正と加納重吉、4人の姿を活き活きと描き出す。
そのゴッホとテオの苦闘は、やがて狂気に至るのだが…。残念ながら狂気へのみちのりをリアルに描き出せてはいないと思う。
それは画商に比重を置いて物語を書いてしまったからではないのか。テオも画商だったから。