新・本と映像の森 280 小松左京『結晶星団』1972年
『小松左京コレクション4 短編小説集Ⅱ』ジャストシステム、1995年、p9~78。
「外へ出ると、一面の星月夜だった。
大地は青白い光に照らされて、てらてらと鋼鉄のように光っている。
トクトクトクトク・・・・・・
とあちこちの岩陰で、虫が鳴く。」
悲しいような風景で始まる、この場所は「大宇宙の奇蹟ー“結晶星団”」の14個の恒星系を間近にした惑星だ。
異星人のすむ惑星に多星人「結晶星団調査隊」が来て、結晶星団への探査機を飛ばそうとしていた。
探査機には主人公アイのコンピューター・モデル「アイ2」(2019年風にいうと「AI」)が搭載されてる。
ストーリーは前半は、むしろ現地人の結晶星団伝承と惑星の考古学発掘によって出土した「結晶星団遺跡」をめぐって展開する。
後半でアイが探査機を無断で飛ばし、結晶星団のなかへ突入するところから、伝承がリアルに立ち上がり・・・・・・。
小松左京さんのSFものでは「果てしなき流れの果てに」「氷の下の暗い顔」「ゴルギアスの結び目」「神への長い道」と同じタイプの小説だと思う。
それに主人公の名前も「アイ」だ。「果てしなき流れの果てに」の主人公の一人も「アイ」という。
1965年に書かれた「果てしなき流れの果てに」の派生ストーリーと言ってもいいくらいだ。
アーサー・クラークさんの名作『都市と星』の終末に出てくる「狂った精神」のはなしに酷似しているようにも思う。
これは小松左京さんの方が哲学的にはるかにおもしろい。
なんせ悪魔(ルシファー)と神、の話だからね。もっとも小松左京さんは神についてはほとんど語らない。小松左京さんが力をこめて語るのは悪魔(ルシファー)についてだ。