AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

末梢動脈閉塞性疾患の針灸は難しい

2006-04-21 | 末梢循環器症状
1.間欠性跛行症の針灸は難しい
 間欠性跛行症には、神経性と血管性がある。神経性は馬尾性脊柱管狭窄症があり、血管性では慢性閉塞性動脈硬化症(ASO)とバージャー病(TAO)がある。
 高齢化社会になった現在、馬尾性脊柱管狭窄症やASOの患者数が増えており、針灸に来院する機会の多い疾患である。馬尾性脊柱管狭窄症は、陰部神経刺針を行うことで、症状改善する例が2~5割ほどあるが、ASOは針灸で治療することは難しいという印象がある。(TAOは治療経験は乏しいので不明)

2.末梢動脈閉塞性疾患の概要
1)慢性閉塞性動脈硬化症(ASO)
 加齢性病変(50才以上)で、動脈硬化の部分症状。下肢の比較的太い動脈に好発。危険因子はタバコ。本症があれば冠状動脈疾患や脳血管障害の生ずる頻度が高くなる。
 フォンティン分類:血行障害による筋の阻血の程度により、重症度がきまる。
 第1度:しびれ、冷感 →週1回の硬膜外ブロック
 第2度:間欠性跛行 →持続硬膜外ブロックと強制歩行訓練
 第3度:安静時痛(とくに夜間就寝時痛)→人工血管バイパス術、下肢切断
 第4度:阻血性潰瘍、壊死 →同上
 
2)バージャー病(閉塞性血栓性血管炎)(TAO)
 原因不明で、四肢の遠位部の中~細動脈に血栓が形成され、阻血を起こす。20~40才台男性の喫煙者に多い。症状は指趾の強い阻血症状(潰瘍、疼痛)、後に間欠性跛行。下肢に生ずることが多いが、上肢にも生ずることがある。
 治療は、まず禁煙。交感神経切除術(副交感神経優位とさせ血管収縮を防ぐ)。
 血流増加目的で、プロスタグランジンE1製剤(血小板凝集抑制作用)

3.慢性閉塞性動脈硬化症の針灸治療法
 この疾患の針灸治療を、なかなか論理的に説明しているのが木下晴都著「最新鍼治療学」である。衝門(鼡径動脈)と太衝(足背動脈)の拍動を調べることで動脈閉塞部位を推測し、閉塞部に対する血管壁刺針を行っている。
1)衝門拍動(+)かつ太衝拍動(-)の時
 閉塞部は鼡径動脈と足背動脈の間にある。腓腹筋の疼痛を訴えることが多い。実際には大腿動脈の内転筋管の閉塞が多いので、陰包およびその周囲に約2㎝交差刺し、動脈血管壁への旋捻法を2~3回行う
2)衝門拍動(-)かつ太衝拍動(-)の時
 鼡径動脈より体幹側に動脈閉塞部がある。総腸骨動脈の閉塞を疑い、急脈(衝門の内側で陰毛中、外陰部の上際の外側)から上内方に約2㎝刺入する。前者より重症で、下腿部はもとより大腿筋まで緊張感や痛みを感じる。

4.閉塞性動脈硬化症の針灸治療効果 
 木下先生の方法による針灸治療効果は、週2~3回の治療で、1)では1~2ヶ月、2)では半年から~1年間の治療を行うも、症状軽減する程度だということである。この程度の効果しかないのであれば、患者の大半は途中で来院中止することになろう。私が追試してみても、少しは調子いいようだが、長期通院しても次第に改善するという傾向はあまりないようである。
 要するに、動脈硬化という器質的疾患が存在する以上、動脈狭窄部を針刺激したからといって、治癒には結びつかないのである。

 安藤富美子ほか:閉塞性動脈硬化症に対する鍼灸治療の効果(日温気物医誌、第68巻,2号,2005.12)によれば、フォンティン分類1~2度18例に1~3ヶ月間の針灸(筋パルス)すると、症状軽減したが間欠性跛行が消失するまでには至らなかった。3~4度3例には針灸無効だったと報告している。