1.虚血性心疾患と胸壁神経痛の相違点
心疾患に対して針灸の適応はほとんどない。しかし左胸痛を訴える者は、虚血性心疾患よりも胸壁神経痛の場合の方が多いことが知られる。虚血性心疾患では、姿勢に関係なく突然発作が起こる。数分で痛み消失すれば狭心症、30分異常痛みが続けば心筋梗塞を考える。
一方、胸壁神経痛では、何日も前から痛む、押圧すると痛む、体動で痛むなどと訴える。医者に行って検査するも、心電図は正常なので、心配ないといわれるのが通例だが患者は不安になっている。
2.胸壁神経痛の針灸治療
後胸壁の知覚・運動支配をするのは胸神経後枝、前胸壁の知覚・運動を支配するのは胸神経前枝すなわち肋間神経である。患者の疼痛部位を把握したら、肋間神経痛の治療と同じく、脊柱点・外側点・胸骨点に10分間置針するとよい。最も効果的なのは脊柱点(起立筋隆起の中央)の脊柱寄りで、棘突起の直側または外方1寸の部で、後枝刺激や椎間関節刺激あるいは肋横突関節刺激になる。
「数年来の痛みが施術直後にピタリと緩解する」ほどの効果が得られるのが普通である。
3.深谷伊三郎は間違いか?
深谷伊三郎は著名な針灸家として広く知られている。深谷先生の著作は非常に多いが、ライフワークの一つに、「督脈基本5穴の施灸治療」すなわち身柱・神道・霊台・至陽・筋縮への施灸、各15~20壮を行うというものがある。この治療パターンの適応症として、心臓神経症や神経症性の高血圧などを挙げている。(「灸治療の臨床研究 名灸師の足跡」鍼灸の世界社)
深谷先生の心臓神経症の定義とは、心季亢進・心臓部不快感あるいは疼痛・腹部圧迫膨満感・恐怖症としている。これでは胸壁神経痛と重複する部分が多い。現在の心臓神経症とみなされる症状は、「動悸息切れ時に生ずる胸痛であり、体動とは無関係に起こる」である。胸壁神経痛が督脈基本5穴で改善する理由は、前述した通りである。今から40~50年ほど前に発表されたものなので、やむを得ない面は相当ある。しかし間違いは間違いとして、後に続く者が是正していかないと、鍼灸古典の二の舞になってしまう。
心疾患に対して針灸の適応はほとんどない。しかし左胸痛を訴える者は、虚血性心疾患よりも胸壁神経痛の場合の方が多いことが知られる。虚血性心疾患では、姿勢に関係なく突然発作が起こる。数分で痛み消失すれば狭心症、30分異常痛みが続けば心筋梗塞を考える。
一方、胸壁神経痛では、何日も前から痛む、押圧すると痛む、体動で痛むなどと訴える。医者に行って検査するも、心電図は正常なので、心配ないといわれるのが通例だが患者は不安になっている。
2.胸壁神経痛の針灸治療
後胸壁の知覚・運動支配をするのは胸神経後枝、前胸壁の知覚・運動を支配するのは胸神経前枝すなわち肋間神経である。患者の疼痛部位を把握したら、肋間神経痛の治療と同じく、脊柱点・外側点・胸骨点に10分間置針するとよい。最も効果的なのは脊柱点(起立筋隆起の中央)の脊柱寄りで、棘突起の直側または外方1寸の部で、後枝刺激や椎間関節刺激あるいは肋横突関節刺激になる。
「数年来の痛みが施術直後にピタリと緩解する」ほどの効果が得られるのが普通である。
3.深谷伊三郎は間違いか?
深谷伊三郎は著名な針灸家として広く知られている。深谷先生の著作は非常に多いが、ライフワークの一つに、「督脈基本5穴の施灸治療」すなわち身柱・神道・霊台・至陽・筋縮への施灸、各15~20壮を行うというものがある。この治療パターンの適応症として、心臓神経症や神経症性の高血圧などを挙げている。(「灸治療の臨床研究 名灸師の足跡」鍼灸の世界社)
深谷先生の心臓神経症の定義とは、心季亢進・心臓部不快感あるいは疼痛・腹部圧迫膨満感・恐怖症としている。これでは胸壁神経痛と重複する部分が多い。現在の心臓神経症とみなされる症状は、「動悸息切れ時に生ずる胸痛であり、体動とは無関係に起こる」である。胸壁神経痛が督脈基本5穴で改善する理由は、前述した通りである。今から40~50年ほど前に発表されたものなので、やむを得ない面は相当ある。しかし間違いは間違いとして、後に続く者が是正していかないと、鍼灸古典の二の舞になってしまう。