ヘーゲル『哲学入門』 中級 第二段 自意識 第二十九節[主と僕]
B. Herrschaft und Knechtschaft(※1)
§29
Der Begriff des Selbstbewusstseins als eines Subjekts, das zugleich objektiv ist, gibt das Verhältnis, dass für das Selbstbewusstsein ein anderes Selbstbewusstsein ist.(※2)
B. 主であることとしもべであること
第二十九節[主と僕]
同時に客体的でもある一つの主体としての自己意識という概念は、その自己意識に対して他の自己意識が存在するという関係におかれる。
※1
自己意識の概念の進展において、まず欲望において客体的でもありかつ主体である個人(前節)に自己意識が確立されるが、この自己意識の対象は、単なる物からつづいて他の自己意識へと向き合うことになる。その関係性は、さしあたっては「主であることとしもべであること」(Herrschaft und Knechtschaft)である。
金子武蔵氏は「主であることと奴であること」と訳し(岩波版『精神の現象学』)牧野紀之氏は「主人であることと召使であること」(鶏鳴出版『精神現象学』)、武市健人氏は「支配と隷属」(岩波文庫『哲学入門』)とそれぞれ訳している。
Herr
主、主人、主君、殿
Herrschaft
支配、主権、領土
Knecht
僕しもべ、使用人、召し使い、奴隷、 従者、下僕
Knechtschaft
隷従、隷属、奴隷制
-schaft 接尾辞
名詞・形容詞・動詞などにつけて、性質・状態といった抽象的意味を持つ女性名詞をつくる。
(註解において有用であればドイツ語についても文法的、語学的注釈もしていくつもりです。)
※2
「主であることとしもべであること(Herrschaft und Knechtschaft)」の関係性は、ただ個人の間ばかりとはかぎらない。それは諸動物において典型的に現れ、さらには国家や部族、民族、企業など、意志と欲求とをもつあらゆる主体同士の間にも現れる。たとえば敗戦の結果としてのアメリカと日本。
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