玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

歌集・凪ぐ日しぶく日

2005年05月25日 | 捨て猫の独り言
NHKラジオ毎週土曜21時「土曜の夜はケータイ短歌」という視聴者参加番組は、若い人たちの投稿が多く、短歌がぐんと身近になっていることを示している。皆様も一度お聞きいただきたい。短歌は日本人の「詩のこころ」を表現するのにぴったりの形式なのだろう。

さて標題の歌集の著者本田藤さんは、戦争直後、まだ40歳にならないうちに夫を亡くし、それまでしたことのない農業をして5人の子供を育てあげた。子供の巣立った50歳台になってから短歌に手を染めた。そして80歳近くになって子供、友人の強い勧めで、350首を収めた歌集が誕生した。長い老後を充実して生きたこと、とりわけ短歌への精進ぶりを、私たちは見習いたいと思う。この歌集からいくつか再録してみたい。(著者はすでに故人)

〈親ごころ〉
遺されし五人の子も世立ちして
我も安らぎの日々が来たれり

「お父さん」よびしことなく嫁ぐ娘は
はじめて呼ばん君の父の名

老いの身のたしなみとして髪を染め
鏡に立てば娘らと逢いたし

〈日記〉
誰がためというにはあらねど秋野菜
蒔きし品種を日記に誌す

我が死ねば子らが焼くらむ日記ぞと
みる人なけれど友の訃を書く

〈鹿児島県日置明信寺の歎異抄会と短歌会と〉
スタンドを引きよせ歎異抄読む夜更け
庭の木犀部屋に匂いくる

神を説き本を買えよと強うる男
仏教語れば笑みて帰りゆく

〈陶芸など〉
つげの木に白百合活けて子らを待つ
黒薩摩の壷我が焼きしもの

機織れば織る間は雑念忘れおり
あやなす糸にすくわれながら

〈他者へのまなざし〉
軍服を軒端につるす狂人も
勤めたる日を思いしのぶか

年老いし門弾きなれば声かけて
車はげしき道に見送る

越中に明日帰れると薬屋は
顔をほてらす妻待ちおらん

ねぎらいの言葉互みにかわしつつ
失対労務者辻に別るる

車中にて手話をかわす二人若々し
ときおり屈託のなき笑いして

《私の一番好きな歌》
信じたる人に意外の虚勢あり
みがく流木すなおに立たず

薩摩半島の東シナ海に面した吹上浜には潮に乗って南島から流木などが漂着する。持ち帰った流木はオブジェとして部屋に飾られるのであろう。流木はたてにされたりよこにされたりして紙やすりかなにかで丹念にみがかれるのである。

コメント
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