東京からでき得る限り青春18切符で北海道の稚内を目指しました。その前に山形県の鶴岡です。鶴岡に行こうと考えたのは、いずれも今は亡き先輩教師や作家藤沢周平の故郷であると聞いていたからでした。国分寺から武蔵野線で武蔵浦和に出て、埼京線で大宮に、そして高崎からは上越線に乗り信越本線の長岡を経て新津からは羽越本線となります。上越線、信越本線、羽越本線の位置関係をほぼ理解できました。
羽越本線はいつしか車窓から日本海が見え始め列車はいつまでも海岸線をひた走ります。あいにくのどんよりした曇り空です。日本海の日没は素晴らしいと誰かが紹介していたことを思い出しました。荘厳でさえあるとも。お天気ならばどのあたりに陽は沈むのか乗り合わせた高校生の男女に聞きました。あの粟島の右あたりと教えてくれました。旅に出る前には日本海の日没のことは考えていませんでしたが、思い出したせいでこの日の曇り空を恨めしく思い始めました。
鶴岡駅前の 「ワシントンホテル」 で5時近くに目覚め、ホテルの朝食前に人通りの少ない市街地を2時間ほど散策しました。大浴場がないホテルはバイキングの朝食が付き、大浴場のあるホテルは朝食は別料金というのが相場のようです。午前中はバスで片道30分の湯田川温泉に行きそこで75分ほど過ごしました。藤沢周平は山形師範学校を卒業後昭和24年から2年間湯田川中学で国語と社会の先生でした。そして26歳の時に結核のため東京の武蔵村山の療養所に入ります。温泉往復のバスの窓からネムノ木の花が見えます。私が今年からしっかりと認識できるようになった花です。東京ではすでに散ってしまったネムノ花がここでは今が盛りです。
空路北海道入りするためまず鶴岡から秋田に向かいました。酒田で1時間弱の乗り継ぎ時間があったのでさっそく駅周辺の散策です。こんな時間を持てるのが青春18切符の特徴です。さらに途中の象潟ではホームの案内板に芭蕉の 「象潟や雨に西施がねぶの花」 の句が見えました。ネムノキは夕方になると葉と葉をあわせて閉じ睡眠運動をします。このため日本語では眠(ねむ)または眠(ねぶ)の木といい、漢語では合歓といいその連想がもっと色っぽくなります。西施は中国古代の美女。西施が風邪などひいてうつむいた様子などは一段と見栄えがします。芭蕉が象潟で見た合歓の花も雨にぬれてうつむいていました。白に淡く紅をふくんだ花は薄命の美女を思わせるのでしょうか。この句の種々の解釈をどなたかご教授いただきたいものです。