すべてのものには名がある。畑で見かける白や黒のビニールなどのフィリムの名を初めて覚えた。畑のそれはマルチという。mulch=(根覆い、敷き藁)からきている。multi=(多くの、種々の)と混同するのはしかたがない。物の名を商品名で代用することも多い。私が飲んでいる安価な乳酸飲料をヤクルトと呼んで通用している。
これまで多年草の「おいらん草」が占めていたせまい場所を、無残にも掘り返して整地した。花より野菜というわけだ。さて整地したもののこの時期に植え付ける野菜は数が少ない。ニンジンで苦杯をなめた後だが、これまた初めてタマネギに挑戦することにした。この時季は「たまねぎ苗」が出回っているというアドバイスを受けて農協に出向いた。
職員に「苗」のことを尋ねると、そんなもの見かけたこともないというような顔つきである。不安を抱きながらつぎに量販店を訪ねた。色とりどりの草花が並んだ片隅に、泥のついた段ボール箱の中に、皺になった新聞紙で覆われて、ネギとタマネギの苗が横たわっていた。葉の半分は枯れている。あまり予想してない姿との出会いだった。
たまねぎ苗の植え付け方をパソコンで調べたのは、そのあとだった。教えられた通り量販店に「菜園黒マルチ」と「S型シートおさえ」を買いに出かけた。マルチを張る意味は、保湿、保温、雑草防止だという。霜についての記述はないが保温がそれに対応しているのだろう。肝心の土づくりについては全く自信がない。苦土石灰をやや多めに、かき混ぜただけである。