晶文社から「吉本隆明全集」が出版中である。その月報に吉本隆明の長女のハルノ宵子が書いている。初回だけのつもりが毎回書く羽目になったと明かす。はるのよいこは漫画家でエッセイストだ。身内が書くものだけに吉本隆明の体温らしきものが感じられて親近感が湧き、吉本への理解が深まるような気がしてくる。最も新しい第31巻の月報の題は「科学の子」となっている。その一部を紹介したい。
●父の本を読んでいるとつくづく理系の文章だと思う。とにかく不親切なのだ。説明をすっ飛ばす。他人も当然周知のこととして話を進める。感覚も理解度も学習レベルも自分と同等とみなしている。人々に説明し広めるのが父の大嫌いな啓蒙というヤツだから、わざと避けていると思われるかもしれないが、違う。天然だ。
●原発事故は、周辺の人々は正しく被害者という他ないが、正直東京や首都圏辺りで騒いでいる人たちの気が知れなかった。検査済み福島県産の野菜や魚介類が出回るようになったら率先して買うようにした。しかし誰もが福島県産を敬遠するせいかけっこうモノの鮮度が落ちてしまっている。これには閉口した。こんなささやかな生活の中でも「非科学」は、頑張る生産者を痛みつけたのだ。
●かつて「反核異論」を書いた人だから、今回の原発事故についても何か面白いことを言ってくれるんじゃないかと期待した某雑誌のインタビュー依頼を受けた。しかし編集者が「原発をやめたら猿になる」というヒジョ~に煽情的なタイトルをつけてくれた。父の死まで1年を切っていた頃だ。煽情的なタイトルだけに1人歩きした。(右寄りの)当時の都知事にも利用されたりした。ヤレヤレ説明をすっ飛ばすから面倒くさいことになるんだぞ、オヤジ・・・程度の慣れたもんだった。