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「かご以外の技術」 高宮紀子

2016-12-23 11:51:38 | 高宮紀子
◆高宮紀子「角と丸の関係」(紙バンド・30×30×30cm・2002年)

◆①ワークショップでの作品

◆②ワークショップでの作品

2002年4月10日発行のART&CRAFT FORUM 24号に掲載した記事を改めて下記します。

 「かご以外の技術」 高宮紀子

 去年の暮れ、東京テキスタイル研究所で行われたニードルワーク(刺繍)のワークショップに参加しました。イギリス人のシェリル・ウエリッシュさんが講師で三日間の講習でした。ちょうどクリスマスと重なったというのに、参加者は定員オーバーの状態。新しいニードルワークに興味を持って集まった人の多さに驚きました。このワークショップでどんなことが行われたのか、お話をしたいと思います。まず、彼女は自分や他の作家の作品をスライドで見せ、イギリスの近代的な刺繍の歴史について説明しました。伝統的な技術を使った作品に、アップリケやビーズをつける手法で、それまでには無かった素材を付けたり、アクリル絵の具を塗ったりする作品が出現、同様に、モチーフが古典的なものから、個人的なイメージの世界へと広がっていきます。表現する形は新しくなっても、伝統的なステッチが随所に使われていたのですが、やがて刺繍、つまり縫うことについても、イメージを作るための手段ではなく、新しい展開を示した作品が誕生します。ウエリッシュさんの作品は、そういった新しい領域のものですが、彼女独特の金属的なテキスチャーの世界が魅力です。彼女は刺繍を専攻した後、ジュエリーを学び、刺繍と金属のテクニックが合体したような「彼女の刺繍」を作り出しました。作品の主役は素材で、いろいろなテキスチャーを生み出すことがテーマです。彼女の作品からは従来の刺繍に当たるものは見当たらないばかりか、縫うということですら、手製のピンで布を留めて立体にする、という行為に代わっています。

 彼女が持ってきた実験的なサンプルを見せてくれました。布を折ってしわをよせたり、金属の箔を叩いたものなど、その一つ一つが見たことの無いような質感のものでした。また、叩いた金属の箔を布と合わせて一枚にする「融合」と呼ぶ実験を多くやっていて、一見すると、柔らかい金属の布のようです。どれも刺繍というよりは、刺繍という行為の機能を根本的な所で展開させたものでした。

 スライドショウの後は作業の時間でした。新聞紙を渡され、指を濡らして新聞紙の端を丸めるのですが、ただ丸めるのではなく、できるだけ小さい直径になるように、新聞紙を斜めに巻いていきます。何回か、最初の紙を丸めるのを繰り返している内に、しっかり固く丸まってくる状態が指で確認できるようになります。そうしたら、初めて全体を巻いていくのですが、できたら固い棒のようになります。これは英国で薪に火をつける時に使われるそうですが、簡単そうで難しい作業でした。また、何も考えないで即興的に紙の形を変えてボタンを包む、という作業も行いました。考えないでと言われても、やはり一瞬、考えてしまいますが、彼女は即興的な行為を望んだようです。その方が素材の特性を直感的に捕らえることができる、と言ったように覚えています。

 素材の感触をつかみ即興的に作業するというのは難しく、才能の有無を試されているようですが、何回か繰り返すことで訓練されるかもしれません。だけど簡単な作業をすることで、素材の感触をつかむというのは、よりわかりやすいと思います。例えば新聞紙を丸めることで、新聞紙の薄さをコントロールする力の入れ加減がわかりました。他には役に立ちそうもないことですが、素材を扱う時、既成の技術とすぐに結びつけずに、少し待ってみる慎重さにつながるように思います。

 その後、素材を使ってそれぞれが実験をすることになりました。彼女が強調していたのは、初めから形を作るのではなく、まず素材のテキスチャーを変える行為をいろいろと実験し、体験してほしいということでした。

 ①はその時、私が作ったものです。棒で金属のメッシュの目をこじあけるように、一方方向に開けていくので、穴の開いた部分がくぼんでいます。全体のメッシュに巻き癖がついているので、全体の形がこのようになりました。写真では穴のある部分が二つあるように見えますが、下は陰で実体は上の部分、一つだけです。表面のテキスチャーを変えるために作業を繰り返したのですが、素材自体が固かったので立体になりました。これは後からウエリッシュさんから聞いたのですが、金属の技法に同じような技法があり、やはり立体にする方法だそうです。

 次にアルミフォイルを折って少し厚みを持たせ、巻いて塊を作る実験をしました。写真(②)だとはっきりしないのですが、固くしっかり何重にも巻いて周りをとめ、金槌で真ん中を叩いてへこませました。フォイルの端が一緒につぶれて、一つの塊のように見えました。これはやっていて楽しかったです。手持ちの写真が無く皆さんに紹介できないのが残念なのですが、参加者の方の面白い断片を見ることができ、とても刺激になりました。
 
 写真は後日、上と同じ方法で作った作品です。紙バンドでブレイドを組んで中心から作っています。立体の方法としては、少しずつ組んだ組織を周囲に巻いて重ねるだけですが、材同士をどう組むか、ということが造形の重要なポイントになっています。ブレイドは同じ面だけを向けて材を組む為、できた組織が丸まる傾向があります。‘87年頃も同じ方法でいろいろな形を作りましたが、同じ所で丸めた作品は作りませんでした。この方法で組みながら巻いて重ねると、同じ本数でも少し内側にかぶさろうとする傾向が出てきます。そこで本数を増やして安定するようにした結果、中心がくぼんでいて外側が出っぱりました。最後はブレイドの端の材を所々で裏側に折り返し六角形にしました。材の面を折り返すか、同じ面で編むかの違いですが、形としては違ってくる、そういう発見をこめたかったのです。最後の六角形の所はある程度柔らかい性質が必要になるので、両面を少しやすりをかけて削りました。

 彼女のワークショップを受けた後、何が変わったかと聞かれてもはっきりしませんが、今まで考えてきたことをもう少し深めてみようというきっかけになったと思います。また、彼女が金属の手法と刺繍を融合した世界を作り出したということは、たいへん興味深かったことでした。今まで私は、編み組みの技法を展開させてどういう可能性があるかを考えてきたわけですが、全く別の素材の技法というものも参考になる、刺激になると思いました。ウエリッシュさんは全体の講評の中で、素材の素材感がそのまま残っていると、人と同じに見える、ということを言っていました。個性を創造する徹底したもの作りへの情熱が強く残りました。