(画/仙厓禅師)
賢しげな男が、文字を知らない男にこういった。
「世の中を上手く渡る秘訣はそれほど難しいものではない。ただただ「堪忍」という二字を固く守ってさえいればよいのだよ」
文盲の男はしばらく考えていたが、
「そうですか。しかしですな、‘かんにん’ とは二字ではなく四字じゃありませんか」と、そしてか・ん・に・んと指を折って数えながら「たしかに四字ですわ」と言う。
「君は実に頭の悪い男だね。堪忍とは堪え忍ぶ(たえしのぶ)という二字なのだよ」
「あんさんこそ間違ってます、‘たえしのぶ’なら五字になります。わしはなんといわれても四字にしかおもえませんから、四字で‘かんにん’してあげましょう」
「君のような愚か者は相手にならない、昔から馬鹿と阿呆につける薬はないというが、全くその通りだ」
と賢しげな方は怒って大声を上げたが、文盲の方はいたって冷静に、
「なんとでもいいなされ。わしはどんなにバカにされてもだいじょうぶです。なにせかんにんの四字の秘訣を教えて貰ったのでなぁ」
気に入らぬ風もあろうに柳かな