犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

ミャンマー便り~レストランFEEL

2015-08-25 23:21:15 | ミャンマー

 「ヤンゴンフマー(ヤンゴンで) アカウンゾウン(いちばんおいしい) サータウサイン(レストラン) ベーフマー(どこ) レー(ですか)」

 出張前のミャンマー語のレッスンで、先生に聞いてみました。

FEELが有名ですよ。ヤンゴンに何か所かあります」

 運転手に聞くと、シュエタゴン寺院のそばの店を知っているという。

「じゃそこをお願いします」

 墓地から市内まで、また40分ほどかけて戻ります。

 途中、あんなによく晴れていた空に暗雲がきざしはじめ、瞬く間にスコールになりました。日本製中古車のワイパーを最強にしても、視界がきかないほどの激しい雨。さすが熱帯の雨季です。

 雨の影響で、車は多少渋滞しましたが、道が冠水するまでにはならず、FEELに着くころには小降りになっていたのが幸いでした。

 FEEL
はこぎれいな店です。看板も照明もしゃれていて、周囲には庶民的な屋台と一線を画しています。

「運転手さんもいっしょにいかがですか」

「とんでもない。わたしはこっちの店で食べます」


「遠慮しなくてもいいですよ。朝ごはんのお返しをします」


「いやいや、ここは高すぎます」


 運転手さんは固辞します。仕方がないので一人で入ることにしました。

 午後2時頃だったので、幸い待たずに入れましたが、席はほぼ一杯。裕福そうな家族連れが多いようです。メニューには写真があり、英語表記もあったのですが、なにしろ料理の種類が多いのでなかなか決まりません。そばでオーダーを聞こうとしていた店員が、しびれをきらして、

「あっちで、直接見て選べば」

と言っているようです(ミャンマー語なので正確にはわかりません)。

 タイにもよくありますが、ショーウィンドウ越しにおかずを指さして選べる便利なシステムです。

「これと、あれと、それからこれも」

 チェッター(鶏肉)とバズン(エビ)の煮込み(ミャンマー式カレー)を頼みました。

「これはいかがですか。セイッターヒンです」

(セイッター……。ヤギか。珍しいな)


「じゃそれもお願いします」


 席に戻ると、テーブルの真ん中に茹で野菜の盛り合わせがドンと置かれていて、その隣に大盛りのご飯。おかわり用のご飯まで用意してあります。

(一人なんだけど……)

 茹で野菜は、皿の真ん中に置かれた小皿のたれにつけて食べます。味噌のようですが、ガピと呼ばれる小エビのたれ。日本では見たことのない野菜ばかりです。

 必死に食べましたが、もちろん食べきれません。特にヤギはこちこちに煮しめられていて、歯がたたない。売れ残ったのを勧められたような気がしないでもない。

 最後にはういろうのようなミャンマーのデザートも出ました。

 しめて、15000チャット(1500円)。優に3人前はあったから、1人分なら500円ぐらいのものなのでしょう。

 タクシーに戻ると、運転手はすでにスタンバイしていました。

「いかがでしたか」

「サーロ テイッ カウンデー ターベーメ ミャーデー(おいしかったけど、多かった)」


「いくらでした?」


「15000チャット」


「オーッ!」


 運転手さんは目を見開いて、のけぞりました。

「ゼーチーデー!(高い!)」

「たくさん頼みすぎたみたい。食べきれなかった」


 考えてみると、朝、運転手さんがおごってくれたモンヒンガーが200チャット、今食べた昼食が15000チャットですから75倍! 

 
ミャンマー人の平均月収は1万円以下と聞いていますから、月収の6分の1の昼食ということになります。

「次はどこへ行きますか」

「ダウンタウンの本屋街へ」


「本屋街?」


「ここです」


 日本のガイドブックで「本屋街」と書いてあるところを指さします。

「本屋あったかなあ。とにかく行ってみましょう」

 ダウンタウンには、市場、中華街、インド人街などがならび、そのはずれの方に本屋街があることになっているのですが、それらしきものはない。

「この辺なんですけどね。いちおう、あそこに一軒ありますね。行ってみますか」

 本屋街と言われて、東京は神田のような街を想像しちゃったのですが、たんに本屋が数軒ある通りのようです。入ってみると、店内はあまり広くない。けれども、私が探していた辞書類の品ぞろえは豊富で、望みのものを買うことができました。

「これは娘にプレゼントです」

 運転手さんも、一冊の英語の辞書を手にしていました。

 お子さんは三人。長女は工学系の大学生、次女は高校生、長男は小学生。辞書は、次女のためなんだそうです。運転手の収入がどの程度か知りませんが、教育費が家計の負担になっていることは容易に想像ができます。

「まだ行きたいところはあったけど、雨も降ってるし、疲れたし、もうホテルに戻りましょう」

 運転手にはとてもよくしてもらったので、米ドルで30ドル相当を払いました。

「ちょっと、これ、書いてもらえませんか」

 差し出されたノートには、これまでに乗せた外国人の乗客のメッセージが英語や日本語で書かれていました。

「こんどまたミャンマーに来たら、ここに電話してください」

「うん、ぜひ連絡するよ」


 朝ごちそうになった屋台のモンヒンガーは、幸い、私のお腹に何の変調ももたらしませんでした。


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