朝ドラ「虎に翼」で、寅子の大学時代の同級生、没落華族の涼子さまが再登場しています。
これですべての同級生と再会を果たしたことになりますね。
本日の放映分では、涼子が新潟でしている喫茶店、Lighthouseに寅子が訪れる場面でした。
別れ際、涼子が言いました。
「今日はとっても楽しゅうございました」
元華族らしい、上品な言い回しですね。
没落した上流階級と言えば、以前、太宰治の作品に言及したことがありました。
貧しい家の出で、「流行作家」の主人公が、上流階級出身の家に呼ばれ、蜆(しじみ)汁の蜆をほじくって食べていたとき、「そんなもの食べて、なんともありません?」と言われ、恥辱を感じたといった話です。
生卵のてんぷら
『斜陽』の一場面かと思っていましたが、あらためて調べてみると『水仙』という短編でした。
この作品は著作権フリーとなって、「青空文庫」で読むことができます。(リンク)
作品の後半で、主人公は上流階級の夫人から手紙をもらいます。
そこに次のような表現が出てきます。
「三年前のお正月に、本当に久し振りにお目にかかる事が出来て、うれしゅうございました」
「私は恥ずかしゅうございました」
涼子さまと同じ言い回しですね。
平民ならば、「楽しかったです」「うれしかったです」「恥ずかしかったです」と言うでしょう。
ただこれは、現代人の感覚で、50年以上前はそれほど違和感がなかったのかもしれません。
形容詞(い形容詞)の丁寧形については、以前取り上げたことがあります。
ありがとうの考察
「い形容詞+です」は比較的新しい形で、以前は「+ございます」が正用だった。過去形の「~かったです」は普通に使われるが、「~いです」はいまも避けられる傾向にある。
上の記事では『三省堂国語辞典(第八版)』の説明を紹介しましたが、今回は『明鏡(第二版)』の説明を引用します。
です:⑥《形容詞や形容詞型の助動詞の終止形、または形容詞連用形+過去の助動詞「た」に付いて》丁寧な気持ちを添える。「僕(は)とてもうれしいです」「この小説は面白くないですよ」「昨夜は暑かったね」
【表現】
(1)「少し暑いですね」のように「ね」「よ」「か」などの終助詞を伴う形は普通に使われるが、「ちょっと暑いです」のように「です」で言い切る形はぎこちなく感じられる。過去を表す場合は「昨日は暑いでした」ではなく、「昨日は暑かったです」の形になるが、やはり終助詞を伴わない形はぎこちなく感じられる。
(2)形容詞を丁寧に言うには、「楽しゅうございます」「待ち遠しゅうございます」など形容詞の連用的+「ございます」の形もあるが、「おはようございます」「ありがとうございます」など決まった言い回し以外はあまり用いられなくなっている。「仕事は楽しいです→楽しく仕事をしています」「お会いするのが待ち遠しいです→待ち遠しく感じられます」「足下がおぼつかないです→おぼつかない状態です」のように、形容詞を述語にしない形に言い換えることができる。
このあたりのニュアンスを外国人に理解させるのは至難の業でしょう。
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