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ゲントの『神秘の子羊』に呼ばれた話




ラッキーすぎてどうしよう...


今日は最初、オランダ郊外に住む友達を訪ねるか、アムステルダムにタリスで日帰りで行くか(アムステルダム国立美術館 Rijksmuseumだけ見学)...となんとなく予定していたのだが、20時から夕食の約束が入り、あまり遠出しないほうが賢明かと考えた。


前日になってなぜか突然、最近ゲントには行ってなかったな、ゲント美術館にでも行こうかな、と思いついた。
ゲントはブルージュから東に30キロ、車でも電車でも30分ほどで行ける。
ブルージュと同じように15世紀前後に交易地として栄え、歴史が豊かで街並みも美しく、ゲント大学があるためだろうか、ブルージュよりも住民志向な雰囲気があり、若々しく、活気もあるすてきなところだ。
ベルギー旅行に来られたらブルージュ、アントワープ、ブリュッセルに加えてぜひぜひ。


午前中、ホテルを出た時は、昨日とはうってかわって空はどんよりと鉛色に重く、霧で道路が湿っているような日だった。

「ああ、昨日行けばよかったなあ、昨日は晴天だったのになあ」と思った。

昼過ぎにゲントに到着して、真っ先に聖バーフ大聖堂に向かった。
ゲント美術館に行く前に、久しぶりにファン・エイク兄弟の15世紀の傑作『神秘の子羊』を見よう、閑散期だからきっとゆっくり見学できるに違いない、と思ったのだ。

湿り気のある空気が低い空と冷たい石畳の間に渋滞して「ヨーロッパの冬の底冷え」がする。
先週の天気がよかったので、今週も同じようなつもりで、キャメルヘアのコートの下は薄いセーター一枚しか着ていなかったのは失敗だった。


ところが聖堂内のいつもの場所にこの祭壇画が見当たらない。しかも工事中のエリアもある。
うろうろしているうちに、係員の人を見つけた。彼に聞いてみたら不思議なことをおっしゃる。

「今夜18時から21時の間に公開されます。今夜は無料、明日は有料です」


この時点で腑に落ちなかったのだが、無料だったらそりゃ好都合と、18時まで街中をうろうろして時間を潰すことにした。

久しぶりのゲントの街を散策していると、あっという間に時間が経過し、しかしその分身体は芯から冷え、寒い寒いと言いながら18時5分前に聖堂にもどった。

そうしたらなんと長蛇の列ができているではないか。
みなさん、きっと自分と同じように無料に惹かれて並んでいるのだろうと思い、並んでいる間(10分ほど)にニュースを読んでいたら...

なんと、2017年から修復作業に入っていた『神秘の子羊』は、今日18時きっかりから3年ぶりに公開されると書いてあったのだ。
前方を見るとカメラを持って取材陣が来ている。

いくらわたしでも『神秘の子羊』が修復作業中だったのは知っていた。しかし、とっくに完成しているはずだったんですよ!! 作業が遅れての今日(1月24日)からの公開(2月1日からヤン・ファン・エイク展が始まる)だったのだ。

めちゃくちゃラッキーじゃないですか?! 
天気に相談して前日にゲントに行っていたら見られなかったのだ!
『神秘の子羊』(イエスキリスト)がわたしを呼んだに違いない! ローマの徴税人だったマタイを召命したように(言い過ぎ、意味不明)!


『神秘の子羊』(祭壇画は巨大だが、描かれている子羊はほんとうに小さいの)、目にも絢な色が復活していた。この色合いあってこそ、15世紀の暗い聖堂内で天上界の絢爛さが現実のようだったのだろう。

カミュの『転落』の語り手、改悛した判事クラマンス氏によるとこの一部は贋作だそうだが(笑)。

何周もしてじっくり見た。

いくら写真技術が発達してもわれわれは天上に行って天上の写真を撮ることはできない...





写真撮影なんてナンセンスだが撮らずにはおられなかった。
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