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Brugge Style
最後の旅路
2022年9月19日11時。
70年間の長きに渡り、英連邦王国及び王室属領・海外領土の君主、かつ英国国教会の首長として君臨したエリザベス女王の国葬が壮大に行われた。
舞台となったロンドンのウェストミンスターやウィンザーは、わたしが住んでいるサリー州の家からは車で小一時間ほどの距離である。
わたしは健康診断が10時半から入っていた。
この日はバンク・ホリデー(英国の休日)となり、公私共にたいていの職域は休業(めったに閉めない百貨店やスーパーも)、ヒースローから飛び立つ飛行機が制限され、食料を必要とする人を支援するフード・バンクも閉まる中、健康診断もキャンセルになるのでは...
と覚悟したのだったが、NHS(国民健康保険サービス)はありがたいことに通常通りだった。
Keep Calm and Carry on.
医師に、「こんな日に診察していただけてありがたいです」と言ったら、「並びましたか?」と質問された。ウェストミンスター・ホールに安置された女王に最後のお別れをしに行ったかという意味だ。
「敬意と哀悼と共に、いいえ。並びませんでしたよ。あなたは? お忙しいですよね...」
「素敵な女性だったけど、でも、ね」
でも、何? と聞いてみたかった。
でも、忙しかったから?
でも、王の名の下の植民地搾取やジェノサイド、奴隷制、差別などへの謝罪を逡巡したから?
でも、王室はスキャンダルまみれだから?
そういうわけで、失礼ながら11時の国葬の始まりをTVで見ることもできなかった。
診察室の外、待合室では電気も落とされ、黙祷したそうだが。
寒空の下、ウィンザーまでの葬送を見送る人の群れが目に浮かぶ。
「聖なる天蓋」(社会全体をすっぽり覆って、その象徴的世界に個人を位置づけ、アイデンティティをあたえる機能を果たす)、「大きな物語」(社会で共有される価値観のよりどころ、イデオロギーの体系のこと)としての女王陛下。
その一部に同化したいと願うのは人間の自然なのだろう。
ある文化人類学者は、歴史のある時点で、ヒトは死者を弔う儀式をしたことによって人間になった、と言う。
英国軍の帝国的で絵巻的な葬送は、ハリウッド映画か、安野光雅さんの絵か、古典バレエの舞台か、おもちゃのチャチャチャか...なんと世界人口の6割以上の人が見ていたそう。
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