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ブリュッセルのパサージュで見る夢


パサージュの夢のようにはかないブリュッセル・ワッフル。
ギャラリー・サンチュべールのDandoyのテラス席で。
重さのないサクサク、中はわずかにしっとり、ほろほろと崩れ、下の上で溶けるかのよう。
重いリエージュ・ワッフルとは全く違う。
2つめを必ず頼みたくなる。夢の続きを見たいのである。



20世紀初頭の偉大な哲学者ベンヤミンの『パサージュ論』は、学生の時に読み始めてギブアップした本の一冊である。

プルーストの『失われた時を求めて』よりも早い段階でギブアップしたと思う。なんせ長い。岩波文庫で5巻はあったと記憶している。

その本には、「そう! それそれ、それが知りたかった!」とか、「先生、そこを説明してくれて本当にありがとう!」とか、答えを知りたいと思ってはいるが設問の立て方を知らなかった...そういったことが書かれていると思っていた。

多分絶対に書かれていると思う。
完読してないけど(笑)。

そしてそれがまさに、パサージュ(あるいはギャラリー):ガラス製アーケードに覆われた歩行者専用通路の両側に商店が並んでいる施設『パサージュ論』そのものなのだ、と思っている。

追いかければ逃げる幸せな夢の物質化、のようなもの。

興味を持たれた方はWikipediaのパサージュ論の「覚書・資料」の目次だけでもご覧遊ばされるとよい。
クラクラするような素敵なマジックワードが並んでいるから。


晴天の日のギャラリー・サンチュべール




今後も読了できるとは思えないので、私淑するフランス文学者鹿島先生の本を読んで満足している。
鹿島先生の書かれたパサージュの本を片手に、パリのパサージュをめぐる楽しさよ。愛人にしてほしい(笑)。


ビスケット専門店、老舗のダンドワ店内。
ビスケットを買うのではなく、「甘い夢」を買うのである


「パサージュ(仏: passage)は、18世紀末以降、パリを中心に建造された商業空間で、ガラス製アーケードに覆われた歩行者専用通路の両側に商店が並んでいるもの。百貨店の発生以前に高級商店街として隆盛した。パサージュはフランス語で「通過」や「小径」などをあらわす」(Wikipediaより)

ロンドン、ウェールズの首都カーディフ、北イングランドのリーズのも見たことがあるし、ミラノにも、ウィーンにもある。

ブリュッセルにあるのがこのギャラリー・サンチュベールである。

一時期空き店舗が目だったのだが最近はまた復活し、ベルギーだけにチョコレート店が多く入り、由緒正しきビスケット専門店や、石鹸の専門店もある。

帽子屋、手袋屋などがあるのもいい。
おしゃれなインテリア雑貨や、婦人服の店もある。

王室御用達皮革用品専門店デルヴォーや、天井とガラスの壁が美しい書店(<本屋はパサージュになくてはならないものである)、劇場、小さい映画館、カフェ、レストラン、バレエ用品専門店のレペットもある。


バレエ用品専門店、Repetto



ギャラリー・サンチュベールから枝分かれしたギャラリー・プランスにある
ごきげんなビストロ、カフェ・レストラン『瞬く間』。
ベルギー料理おいしかった。



パサージュと百貨店の共通点は強いて言うなら、夢を売っているところか。実用品というよりも贅沢品を扱う。
パサージュとアーケードのある商店街の共通点は、個人店が通りにずらっと並び、客はその間を浮遊することか。

パサージュにあって百貨店や商店街にないのは、かつて未来に対する夢を売り、今は過去の夢を見てまどろんでいる美しい落魄である、と思う。
「現在」と関係を持つことを拒絶する、時間の回廊。タイムトンネル。

わたしが外国で故郷神戸を懐かしみ、帰省しても神戸に対して抱いた憧れがどこにも見つからない、ともどかしく感じるのは過去の神戸(旧外国人居留地など)と、パサージュが同じような装置だからかもしれない。




天井とガラスの壁の美しい書店


正面
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