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サハラから風が吹く



列柱回廊を渡る風。


このところ、マラケシュの最高気温は35度程度に(今日は32度の予報)に落ち着き、とても過ごしやすくなった。
乾燥しているので屋外でも日陰に快適に座っていられる。涼風が心地よい。

が、先週末の数日間は45度にもなり、熱い爆風が吹いた。
現地の方も驚くような暑さだった。


どれほどの暑さかというと、まるで...
メディナ(旧市街)で見学した、各コミュニティにひとつずつあるという「平たいパンを焼く釜」の中はかくやあらむという感じ。

家庭でこねて寝かせたパンのタネを、布巾に包んでこのパン釜に持ってくると、パン釜屋さんがオールのような巨大な木製のヘラにタネをのせ、こんがり黄金色に焼いてくれる。
あとは頃合いを見て、焼き上がったパンを取りに来るだけでいい。

小麦の焼ける香りに垂涎していると、子供がおつかいに来た。
サザエさんで読んだ、昔の日本の風情はこんなだったろう。



客室ヴィラの写真を撮るために立ち止まった5秒間でモエも焼き上がりそう...


ガイド氏曰く、モロッコの最小コミュニティに必ず備わっているのが、このパン釜、ハマム(アカスリのできるスチームバス)、モスク、学校なのだと。

人間らしい生活を送るために不可欠な、心身を育むシステム。わたしの住んでいるイングランドの最小のコミュニティ(村)に、必ず教会とパブがあるようなものか。



プールに飛び込み、上がると涼風が。


この「パン釜」のような機能を、行政のトップダウンではなく、コミュニティが自治管理・運営するのは昔からある優れた知恵かと思う。

何にでも値札をつけて売る市場の原理に侵されてきた社会資本だが、できる範囲でコミュニティの管理・運営にした方が、われわれはずっと豊かに暮らせるのではないかと思った。


閑話休題。
風の話をしているのだった。



水路に沈む砂漠の砂。


乾燥した、気温45度の世界では、熱せられた爆風がサハラの砂を運んで来、ホテル内を縦横するブルーグリーン色のタイルを貼った水路は、あっと言う間にサンド・ベージュ色に変わった。

さらさらで粒の小さい砂は、プールサイドに置きっぱなしの本の表紙や、アイパッドをうっすらと覆って去っていく。


昔読んだ本の出だし、登場人物の女性が、アレクサンドリアかどこかの海辺でターキッシュデライト(粉砂糖をまぶしたゼリー上の菓子)をつまみながら読書をしており、風が強いために粉砂糖が飛び、本のページを何度もはらわなければならなかった...というのを思い出した。
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夜はやさし




酷暑の国では、月と星が輝く涼しい夜が尊いため、娘に「夜」という名前をつける、と聞いたことがある。

先週末からのマラケシュは、数日間、気温が45度にもなり、夜の気温もさっぱり下がらなかった。

最高気温が35度のこのごろは、夜も美しくやさしい。




ホテルの中心にある人工池の水面に涼風がさらさらと波を起こし、灯りの反射が揺れ、たまに魚が高くジャンプしては涼しげな水音を立てる。




夕食後のテラス席では、星座アプリを使って星を見るのが新しい楽しみ。

満月間近。
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モロッコ薔薇のデリバリー



あちこちにある水盤に散らされた白薔薇の花びら。


滞在中のモロッコ、マラケシュから南の方角へ80キロほど、オートアトラス山脈が悠々と横たわっている。

標高4000メートル以上あるこの山脈は、一部、冬でも雪をたたえているという。

山脈を超えるとその先はサハラ砂漠。

砂漠のオアシスに薔薇の谷があるという。

エラ・ケラア・ムグナ。

世界的に有名なモロッカン・ローズはこちらが産地だ。

「新型コロナ禍で観光客が少ないせいで、薔薇精油の生産もほとんど行われなかった」とは、メディナ(マラケシュ旧市街)のスークで訪れた香辛料店亭主の話だが、ほんとうなのだろうか。




薔薇に目がない薔薇狂いとしては魅惑的な観光先ではある。
しかし今年は暑いだけでなく、新型コロナウイルスの影響もあって、そこまで遠出する計画はない。

昨日、熱波が去り、最高気温は35度以下に落ちて朝晩大変過ごしやすくなった。が、一昨日までの数日間は最高気温が45度まで上昇、現地の人もびっくりの暑さだったのだ。


いつかは行ってみたい、薔薇色の谷へ。



部屋の薔薇のアレンジメントを活けかえるためのデリバリー。
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リヤドの中庭の美




マラケシュでのバカンスも一週間が経過し、折り返し地点。あと一週間...残り時間を考えるとブルーになる。

......


この世で一番欲しいものがある。

それは、ブチェラッティのジュエリーでも、20年代に作られた寝椅子でもなく、モロッコのリヤドスタイルの家だ。

マラケシュのメディナ(旧市街)にある本物のリヤドを自分の好きなように改装できたら最高だが、まだ欧州を離れて暮らす予定はないので、自分でデザインしたリヤドをどこかに建てたい...
モロッコから専門家をやとって来てもらって...

夢は語るのはタダ(笑)。


リヤドというのは、日本語のWikipediaによる定義では、

「レコンキスタ(キリスト教徒によるイスラム教徒からの国土回復)の進展にともなってイベリア半島を追い出され対岸のモロッコへ移住してきた人々のうち、裕福だった人々が建設した邸宅であるという。イベリア半島のアンダルスとモロッコのテイストの混ざり合った建築が特徴」

とあるが、この部分は英語版にはない。


「リヤド」は、アラビア語の単語「庭」からきており、アル=アンダルス様式(イベリア半島で発展した折衷スタイル)のムーア建築と、北アフリカに特徴的な家屋である。その名の通り、「庭」がこの建物の中心だ。

長方形の中庭を左右対称に4つに分け、中心には噴水を置き、その周りを各部屋が取り巻く。
コロネードで繋いだ渡り廊下が中庭の周りにあれば最高だ。

外から見ると壁の高い箱型の家で、入り口を入ると中庭が広がり、その半屋外、半屋内の空間が、家族や友人とのコミュニケーションの中心だ。


漢字の「田」の形に、4本の水の流れによって四分割された庭園は世界と宇宙の顕現であり、同時にイスラムのイメージの楽園と関連している。

わたしも楽園に住みたい!


写真は、ホテル内のレストラン。リヤドの中庭にヒントを得たデザインになっている。

大理石の色彩といい、タイルの色、カーテンの色、噴水に浮かぶ白薔薇の花びらも、たえなる水音も、その周りの4本のオリーブの樹、イーワーンとアーチ使い、装飾の過剰すぎないところもう好みすぎて!


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パラダイスとしてのペルシャ庭園




滞在中のホテルの中心には巨大な人造湖。
この周囲を取り巻くようにヴィラが立つ。

乾燥した国においては特に水は豊かさの象徴であろう。

「長く伸びる木陰の、絶え間なく流れる水の間で」というのは、イスラムにおける美しく望ましい天国の描写だ。




水路と噴水があちこちに。
部屋にもプールと噴水がある。

夜は窓を開け、水音とこおろぎを聞きながら眠りにつく。
今朝は5時20分にアザーンの声で目が覚めた。夜明け前。




マラケシュにある12世紀に造園されたメナラ庭園(世界遺産)を、比較的涼しい午前中に訪れようとガイドブックを見ていたら、とても興味深い記述があった。




曰く、メナラ庭園の中心には巨大な人造湖が貯水池として設けられ、周囲にはガゼボやパヴィリオンが立つ、と。
人工湖の水はカナートと呼ばれる地下配水システムによって、周囲を灌漑し植物を育てる。

そうか、これは滞在中のアマンジェナ(全写真)の構成と同じなのだ。
建築家はホテルを建設するにあたって、この土地に伝統的な庭園の建築様式を参考にしたのだろう。

この土地に伝統的な庭園の建築様式...とは、いわゆるペルシャ様式の庭園で、西はスペインのアンダルシアから、東はインドの庭園造成に影響を与えた。




古くは紀元前4000年代にまで遡ることができるようだが、特に発展したのはアケメネス朝ペルシャ(紀元前6世紀ごろから)で、だそう。
このころには、パラダイス「壁に囲まれた地上の楽園」のコンセプトが、文学などを通じてギリシャやエジプトにまで広がっていた。

2世紀ごろからのササン朝ペルシャの時代になると、ゾロアスター教(拝火教。善と悪、光と闇の二元論が特徴)の影響で、芸術における「水」の重要性が増し、この傾向は庭園デザインにも取り入れられ、噴水や池の設置が必須となっていく。




庭の形的には、漢字の「田」の形に土地を四分割(「十」が噴水路)して造園される庭園で、周囲は壁に囲まれ、精神の充実と休息のためのもの、エデンの園の再現でもある。
また、中央の泉から四方向へ流れ出る4つの川と、川に4つに分割された形は「世界」の象徴でもある。

世界を象徴し可視化し、天国を地上に再現したペルシャ庭園...人間が強く惹かれるのも無理もない。非常に魅力的だ。


メナラ庭園、行ってみよう。
一昨日金曜日から、週明けの火曜日までは熱波が来ていて46度越えゆえ、一気に気温が20度から30度前半まで下がる水曜日以降にでも。
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