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Brugge Style
秋の夜長に8 1/2
劇場の演目には「ここには存在しないものへの畏れ」を描いているものが非常に多い...
インターネットを介して視聴者に直接提供されるメディアサービス(NetflixやAmazonプライムなどのこと)の戦略についてのニュースを見た。
視聴者の視聴動向を分析して導き出される結果に基づき、新たな「ヒット作品」を作るという手法に、従来よりもかなり重きが置かれているということだった。
うむ、「ヒット作品を作る」というのも、実は「宝くじの当たり券を買う」というくらいおかしなことだとは思うのだが。
わたしも英国の長かったロックダウン時には、スカンジナビアの刑事もの、いわゆるノルディック・ノワールをたくさん見た。見れば見るほどもっと見たくなった。あれは購買行動を監視され、嫌でも営利戦略に参画させられていたのね!
一方で...
英国映画協会が数年ごとに発表する「史上最高の映画100選 2021年度版」から
評論家選
映画監督選
わたしよりもずっと映画好きな方はたくさんおられると思う。
そしてご想像であろう通り、両リストのほとんどがいわゆる「古い名作映画」で占められている。
複雑なアルゴリズムを駆使し、100年後も繰り返し鑑賞されるであろう大ヒット名作を狙って映画を作ることがほんとうに可能なら、最近の作品がもっと入っていてもよくないか??
...まあ今後コンピューターがもっと人間的な才能に近づいたらどうなるかは予想できないけれども。
では、「成功戦略」「金儲け戦略」などの小手先では決して作ることのできない作品があるとしたら、いったいそれはどういうものなのだろうか。
マーケティング調査をし、最新の技術を使い、人気名作映画から「名作エッセンス」を抽出し、組み合わせ、昇華させた「史上最高の一本」を作ることはできるのだろうか。
セオリー上は可能だろうが(コンピューターに文豪の作品全部を読み込ませ、新作を書かせるという試み、ありましたね)、なんだかあまり面白くないものになりそう...
この2つの100選リスト(多くが被っているのは当然か)上の作品を、9月の終わり頃からランダムに見ている。
中学生のころからこの手の映画を見まくったので、過去に何度も鑑賞したことのある作品も多く含まれているが、そこは名画、何度観ても飽きないし、なぜか全く覚えていない作品もあるし、10代20代の頃抱いた感想とは当然違う感想を抱くのもおもしろい。今は俳優情報もロケ地などもすぐに調べられるし...こんな月並なことしか言えないのが悔しい。
昨夜は夫が見たことがないと言うので、たまたまフェリーニの8 1/2を見た。
中学生の時から繰り返し見ている最高に好きな映画のひとつだ。
この、白黒で豪華キャストのドタバタコメディ、過去と現在と現実と妄想が入り混じる、マストロヤンニ演ずる「スランプに陥った映画監督」のハナシを見て思ったのだ。
今のところアルゴリズムを駆使して作れないものとは...「欠落」であろうか。
人間にあってコンピューターにないのは、己の無能と無力、欠落と限界と有限性に不安を覚え、苦悩する能力であろう、と。
フェリーにはインタヴューで作品についてこう答えている。
"on which our minds live: the past, the present, and the conditional - the realm of fantasy".
「われわれ人間の心のありか:過去、現在、そして条件つきのファンタジーの領域」と。
人間を人間として存在させ、人間としての生き方を垂訓し調整してくれる「なにか」はもう存在せず、再来することもなさそうである。しかし人間はそのことを根拠にして、現実世界を秩序しなおし続けなければならないのである。
「人間」を「映画監督」に入れ替えても同じことだと思ったの。
人間はしんどいのである。
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10月のロンドン夜景
エネルギー不足が懸念される今冬は、ロンドンでも夜景が見られなくなるのだろうか。
停電の噂が広がり、なんとなんと、すでにろうそくのパニック買いが起こっているそう...
週末、娘にナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』のドキュメンタリー版を見せたのだが、この世はあの路線のままであるなあ。
......
メールをいただいたので補足させてください。
「ショック・ドクトリン」、日本語で「惨事便乗型資本主義」。
カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインが2007年に出版した書籍The Shock Doctrine: the Rise of Disaster Capitalismによる。
災害、疫病、戦争、革命、政変、経済破綻などの惨事につけこみ、復興や支援の名目のもと、激烈な市場原理主義を導入して大儲けするネオリベの手法のこと。
例えばエネルギー不足が懸念される中、十分な議論のないまま原発を再稼働させたり、戦後、「復興支援をするからインフラは私営化しろ、海岸線は海外資本のリゾート地にしろ」などと、どさくさに紛れた金儲けに群がる。
YouTubeでドキュメンタリーが見られ、かなりおもしろいが、英語版のみで画像も悪い。
ナオミ・クラインの書籍、おすすめです。
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mayerling 2022 シーズン初日
ロイヤル・バレエの新シーズンのオープニングナイトは、おととい5日。
1978年ケネス・マクミラン『マイヤーリンク』Kenneth MacMillan’s Mayerlingで開幕した 。
オーストリア・ハンガリー帝国の皇太子ルドルフの自殺、あの有名な心中事件を扱う。
皇太子ルドルフは平野亮一さん。
2018年に演じられたルドルフも素晴らしかったが、さらに進化しているのでは...
ロイヤル・バレエのシーズン初日にふさわしい、息が止まるような勢いと、役柄の魂を召命するようなパフォーマンスだった。
帝国末期の1889年、皇太子ルドルフは17歳の愛人マリー・ヴェッツェラと、王室の狩猟ロッジのあるマイヤーリンクで情死する。
母親は、美貌の王妃エリーザベト。
父親は皇帝フランツ・ヨーゼフ1世。
母親の愛情に飢え、父親との関係不全に悩み、ハンガリー民族独立勢力などの政治に利用され、孤独で、薬物中毒、死に取り憑かれ、暴力的でミソジニー、女性なしには生きていけない男である。
彼を取りまく5人の個性的な女性(どのダンサーも秀逸だった!!)との関係性で描かれる皇太子の最後は、観客が強い痛みを感じるほどの最高に難易度の高い振り付けで表現される。
観客の歌声にはGod save the QueenとGod save the Kingが入り混じっていた。
緞帳の下中央にあるエリザベス2世のシンボルがチャールズ3世に変わるのはいつごろなのだろう。
ちなみにチャールズ3世は、ロイヤル・バレエの大ファンだそうで、ちょくちょくお姿を見かける。
婚礼舞踏会シーンでの、固く心を自分自身からも閉ざした歪んだルドルフの雰囲気、母親の関心をひこうと子供のように振る舞い、一転して花嫁ステファニー王女Francesca Haywardを陵辱する一幕の終わり。
高級娼婦ミッツィ・キャスパーMarianela Nunez、黒いマリアネラ最高! 舞台を支配。
ラリッシュ伯爵夫人Laura Moreraは老いた元愛人。Laura Moreraは役柄理解がすばらしい!
ルドルフは自意識が高いだけで未熟な男だが、まわりの女性たちによって輪郭が際立ち、どんどん死に向かって押され流されていく。
そして17歳にして「愛ゆえに死ぬ」ことを理想的に確信的に選ぶヒロインとしてのマリー・ヴェッツェラNatalia Osipovaは、最初の寝室のシーンで堂々とした「死神」として艶かしく誘惑するように現れ、そして最後の心中シーンでは全く母親のようにルドルフをあやすのであった。
そしてルドルフは自分を撃つ前に、「死神」マリーを撃つ。
CROWN PRINCE RUDOLF/Ryoichi Hirano
BARONESS MARY VETSERA/Natalia Osipova
COUNTESS MARIE LARISCH/Laura Morera
EMPRESS ELISABETH/Itziar Mendizabal
PRINCESS STEPHANIE/Francesca Hayward
BRATFISCH/Luca Acri
MITZI CASPAR/Marianela Nuñez
EMPEROR FRANZ JOSEPH/Christopher Saunders
COLONEL 'BAY’ MIDDLETON/Gary Avis
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夜の紅茶屋
同じマリアージュ・フレールのお店でもパリのお店の方が断然雰囲気がいいにしろ...ロンドンにも数軒ある、フランスの紅茶店。
意外に思われるかもしれないが、紅茶で有名な英国ロンドンには、ティールームの備わった紅茶専門店は全く多くない。
カウンターのフランス人青年(おそらくマネージャー)が、若き日のサン=ローランのようで、彼が分銅を用いて紅茶葉を量るのは、まるで映画のシーンのようだった。
夜中まで開いていたらいいのに、ロイヤル・オペラ・ハウスの公演が終わってから、Evening Tea(夜向き紅茶)を飲みに行くのに。
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秋のリインカーネーション
週末はロンドン・マラソンが開催され、外出時には冬コートが必要となり、アメリカ蔦がシャネルの口紅のような色に変わり始めた。
スーパーには今月末のハロウィンの飾りが目立ち始め、百貨店にはクリスマスコーナーができ、パブは「クリスマスの予約を!」などと看板を出している。
散歩に行くと、森には栗のイガがたくさん落ちており、かわいいプードルがテニスボールのように誇らしげに口にくわえて側を足速に歩いていった。
ブルージュ育ちの夫は、子供の頃、森で拾っては生で食べていたそうである。ええええーっ!! マロニエ(トチノキ)を食べないという知恵くらいはあったのか...
うちでは庭師さんが庭を冬用に整えてくれ、ガーデンチェアやテーブルを仕舞った。
今夜はロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでロイヤル・バレエのシーズン開幕...
秋である。
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