遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

木製漆器を見分けるための、たった一つの簡単な方法

2021年11月05日 | 漆器・木製品

これまで、いくつか漆器を紹介してきましたが、その時、いつも問題になったのは、はたしてこれは本物(天然木に本漆塗り)だろうか、ということです。特に、プラスチック類の食器が増えてきた昨今では、悩まされることしばしばです。

そこで、何かうまい方法はないかと考えました。

ゾッキ本にあるようなチープなタイトルをつけましたが、一度、こんなのでいってみたかったのです(^^;

「水に浮くかどうか」という簡単な方法です。

水より重ければ沈み、軽ければ浮きます。

そのもとになるのは、当然、比重。

例外はありますが、木は水に浮き、プラスチックは沈むのです。

木にも、比重が1以上で、水に沈む物もあります。黒檀(コクタン)、紫檀(シタン)、鉄刀木(タガヤサン)などです。これらは、家具や調度品などの用途がほとんどで、独特の木質感が味わいです。ですから、わざわざ塗りを施し、漆器として使われることはありません。

それ以外の私たちがよく目にする一般的な木は、すべて比重が1以下で、水に浮きます。

たとえば、ケヤキ0.69、ナラ0.67、ヤマザクラ0.60、アカマツ0.53、ヒノキ0.41、スギ0.38、キリ0.19~0.30(木材博物館Homepageより)。

それに対して、容器に使われる可能性のあるプラスチックの比重は、
1.0未満 ポリエチエン(PE)、ポリプロピレン(PP)
1.0~1.1  ABS樹脂(ABS)、ポリスチレン(PS)
1.1~1.2 フェノール樹脂(PF、ベークライト)
1.2~1.3 ポリウレタン(PU) 、ポリカーボネート(PC)
1.3~1.4 エチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)
1.4 ~1.5 メラミン樹脂(MF)

PEとPPをの除いては、すべて1以上です。ほとんどのプラスチックは水より重く、海水(比重1.03)にも沈むのです。これが、海洋プラスチック問題を深刻にしている最大の理由です。海底1000mからプラスチックを回収するのは、現実的には不可能。さらにマイクロ化したプラスチックは、海流に乗って移動するし、生物連鎖に組み込まれて宿主を変えていくので、非常に複雑な動きをします。まだその実態はよくわかっていないのが現状です。

プラスチックの内で、PPやPEは軽くて水に浮くのですが、傷が付きやすく、熱にも弱いので、漆器のかわりに使われることはありません。今回の見分けには、除外してよいでしょう。

このように、「基本的に、木は水に浮き、プラスチックは沈む」わけです。これを、最近紹介してきた木の品物について、試してみました。

問題は、水を入れる容器です。透明な物が少ない。やっと探し出したのは、梅酒漬用の広口瓶と金魚鉢です。それでも、上の写真の埋木盆は大きすぎて入らなかったので、洗い桶に浸けました(^^;

まず、謎の木皿です。

続いて、埋木細工菓子皿です。

わかりづらいですが、

謎の木皿は浮いています。特別の木ではありませんでした。一方、埋木細工菓子皿は沈んでいます。埋木盆も沈みました。埋木は、ブナやナラなど山野の自然木が埋もれて、長い年月の間に出来た物です。土中で圧縮されるとともに、鉄分などが浸透して重くなったのでしょう。

欺天然木コーヒーカップです(鴛鴦メス)。

みごとに沈みました。

ペアーのオスも沈みました。

それに対して、赤黒のペアーカップは、

浮いています。ペアーの黒カップも浮きました。

付属の赤、黒のスプーンも一緒に水中へ。

同じ赤でも、カップは浮き、スプーンは沈みました。黒の鴛鴦カップと黒スプーンは逆。これらのカップ、スプーンは、木粉を樹脂で固めた物です。出来上がった品物の比重は、木と樹脂の割合によって決まります。樹脂が多ければ沈み、少なければ浮きます。同じ所で同じ型を使って作られていると思われますが、配合比が変わるのですね。

次は、顕微観察で樹脂製と判断した独楽椀です。

さあ、どうか・・・

すーっと、沈みました。沈む速度から、比重の大まかな推測ができます。これまで試した品の中で、一番早く沈んでいきました。かなり比重が大きいです。これはメラミン樹脂ですね。

極薄の朱漆金彩ワイングラスです。はたして・・・・

 

軽々と浮きました(^.^)

最後は、お局様からイチャモンがついた総金地鳳凰羽根紋吸物椀です。

はたして結果や如何に!

おお、見事に浮きました。プラスチックではなく、木製です。

お局様に完勝ですね(^.^)

 

ここでチョッと疑問。

水に浮けば木製・・・OK。

では、沈むのはプラスチックだけでしょうか。漆器の場合、漆の影響は無い?

漆のデータはあまりありませんが、固まる前の漆の比重は0.97、固化すると1.1~1.3ほどになります。実際は、地の粉やベンガラなどを添加するので、もう少し比重は上がります。大まかに言えば、漆の比重は、プラスチックとほぼ同じと考えてよいでしょう。

漆器の比重は、木と漆の体積比率で決まります。ですから、漆の比率が増せば、水に沈む木製漆製品もありうるわけです。

しかしあくまでも漆は塗りですから、漆器中の漆部の比率は、木部に対してそれほど高くありません。漆塗りによって、水に沈むほどに重さが増す漆器はほとんどないと考えてよいでしょう。

ただし、非常に分厚く漆塗りを施した堆朱では、水に沈む品物もあるかもしれません。

堆朱については、いずれまた、ブログで紹介します。

ps.水を使って木製漆器を見分けるやり方は、簡便で信頼度が高い良い方法です。しかし、難点は、店頭では使えない(^^;

 

 

 

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金澤漆器 総金地鳳凰羽根紋吸物椀(10客)

2021年11月02日 | 漆器・木製品

今回は、蒔絵の吸物椀です。

大きめの古い桐箱に入っています。

何やら煌びやかな品です。

大振りの吸物椀が10客です。蓋が一枚どこかへ紛れ込んで行方不明(^^;

径 10.2㎝、底径 4.8㎝、高 9.8㎝。重 81g。大正―戦前。

全体に薄造りです。端は1.3mmほどの厚さ、底や蓋の中央も3mm以下です。これまで紹介した轆轤引きの木製漆器よりも、はるかにプラスチック容器に近いです(^^;

内も外も金地です。

外側には、鳳凰の羽根が描かれています。

羽根の先のハート型の部分には螺鈿が入っています。

 

椀の内側には、すべて、擦り疵があります。実際に使われていたのですね。

蓋の方はほとんど無疵なのですが、一枚だけ、大きな剥げがありました。そこで、私が金粉を蒔いて補修をしました。下の写真で白っぽく見える所です。金粉も、グレードや粒度によって、色合いが異なります。金は色合わせが難しいです。

この補修は、昔、金継ぎ教室に通っている時に行いました。その教室では、陶磁器だけでなく、漆器の補修も教えてもらえました。

何年か通ったのですが、まもなく止めました。理由はいろいろありますが、一つはお局です。こういう文化教室は女性が多く、いきおい番頭気取りのボスができます。件のお局様は、いつも、教室の一番前にデーンと構えて、睨みをきかせていました。気の弱そうな新人女性が入ると、ネチネチとからむ。その一方で、それらしい男性が入ってくると、やたら、世話をやくのですね。幸いにも、私は難を逃れました。それらしい要素が何もなかったからです(^^;

で、この金地椀を修理しようと取り出しました。すると・・・「あら、いいお椀ね。でも、これプラスチックね、ホホホ」

こういうヤカラは相手にしないのが賢明です。「アンタに言われとーないわ」と胸の中でつぶやきつつ、黙々と作業をすすめました(^.^)

全体の薄造りはプラスチックを思わせますが・・・・・底には、木目がバッチリと出ています。木製でこれだけの薄造り、さすがに金沢漆器ですね。

お局様に、一本勝ち!(^.^)

ところが、この絢爛豪華な吸物椀は、ウチでは不人気です。

曰く、「品がない」

ま、確かに😅

「お前は、秀吉かー」

ですね😇

 

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蒔絵山水図硯箱

2021年11月01日 | 漆器・木製品

今回は、蒔絵の硯箱です。

幅 18.2㎝ x 長 23.9㎝、高 3.5㎝。明治―昭和。

蓋表には、金蒔絵で、山水図が描かれています。

蓋をとると、中には、トレーと台板が入っています。

硯、筆などはありません。

内側は、蓋、本体ともに、総梨地です。

トレー、板をはずした状態です。

 

こういう品の値段は、ほぼ蒔絵で決まります(^^;

まずまずの品でしょうか。

秋の夜の情景が浮かび上がってきます。

黒漆塗の上に金蒔絵を施し、透明漆をかけた後、炭で研ぎ出しています。その結果、表面はツルツル、ピカピカ。指紋が付くので、素手で触るのがはばかられます(^^; 実用的ではないですね。

底、裏側はすべて黒漆。

箱の底には、木目がくっきりと見えます。

よかった!プラなら切腹ものですね(^.^)

 

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