ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

平成30年度税制改正に向けての二題

2017年11月21日 23時13分45秒 | 国際・政治

 今日(2017年11月21日)の朝日新聞朝刊7面13版には、編集委員の原真人氏による「波聞風問 低成長経済 時間かせぎの資本主義、限界に」という記事が掲載されています。これは経済成長の意味を考えるという意味において読んでおくべきものであるため、切り抜いておく予定です。

 同じ面には「中小の固定資産税免除、調整 政府、20年度までの設備投資」(http://digital.asahi.com/articles/DA3S13237506.html)および「給与所得控除 縮小を求める 政府税調が報告書」(http://digital.asahi.com/articles/DA3S13237505.html)も掲載されています。今回はこれらの内容を取り上げておきます。

 まずは固定資産税のほうです。現在も、中小企業が新たに導入した設備について固定資産税の減税措置が採られていますが、これを2020年度まで延長する方向で、政府および与党が調整しているとのことです。最近になって唱えられはじめた「生産性革命」の一環であるとのことですが、どこの省庁が要望を出しているのかが重要なポイントでしょう(大体、想像はつきます)。また、固定資産税は市町村の重要な財源の一つでもあるだけに、また、都道府県にとってもそうであるだけに(特別区の部分については東京都が課税主体ですし、一部の固定資産については道府県が課税主体となります)、地方公共団体からの反発は必至かもしれません。しかし、多少の妥協はあるかもしれませんが、基本的には政府・与党が押し切る形になるでしょう。

 元々、税制改正は国税が中心で地方税がそれに付随するような形で行われる傾向がありますが、ここ数年、おおよそ第二次安倍内閣発足時以来、とくに政府、というより政権の意向が強く打ち出されることが多いと思われます。平成27年度税制改正および平成28年度税制改正における「法人税改革」、平成29年度税制改正における「所得税改革」、そして何よりも消費税・地方消費税の税率引き上げの延期(二度)が典型的です。平成30年度税制改正は引き続いて「所得税改革」が行われることとなるでしょうが、その際には、与党税制改正大綱に「改革」と並んで「革命」の言葉も記されるのでしょうか。

 続いて所得税です。給与所得について、給与所得控除の縮小が話題となっていますが、相変わらず、この給与所得控除が基礎控除や医療費控除などの所得控除と一緒に扱われています。誤っているのですが、誤解が続くままです。上記朝日新聞記事でも「会社員向けの減税措置である給与所得控除を高所得者を中心に縮小し、すべての納税者が受けられる基礎控除を拡充するよう」に政府税調が提言したと書かれていますが、政府税調が本当にこのような提言を行っているとしたら、厳しく批判すべきことでしょう(その意味では誤報であることを願っています)。給与所得控除は減税措置などではなく、所得を計算するために必要な要素であるからです。

 私は、講義において所得税における所得の基本形を必ず取り上げます。次のようなものです。

 〔所得(の金額)〕=(収入金額)−(必要経費)

 現行の所得税法には10種類の所得が定められていますが、不動産所得、事業所得、雑所得のうちの公的年金等を除く部分についてはこの基本形がそのまま妥当するものの、他の所得については性質による修正を必要とします。例えば、利子所得の場合には必要経費が0円と考えられるために利子所得の金額=収入金額となります。給与所得も修正を要するものの一つであり、必要経費の部分が次のように変えられるのです。

 〔給与所得(の金額)〕=(収入金額)−(給与所得控除)

 必要経費であれば、収入を得るために支出せざるをえないお金、つまり経費は実額で控除されることとなります。しかし、給与所得の場合には必要経費を考えることができるものの、実額でという訳にはいかないのです。給与所得の場合には、実額による経費を考えるのが容易でないこと(これが、或る程度であれば典型的な必要経費を想定しうる不動産所得や事業所得などと異なるところです)、給与所得者と一言で表現しても多様であること(これは考えてみればすぐにわかります)、また給与所得者の数も多く、実額による控除となると大変に面倒になることがあげられます。

 もし、給与所得控除についての私の説明が誤っており、給与所得控除が「減税措置」であるとするのが正しいのであれば、何故に所得税法第28条第2項が「給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする。」と定めているのでしょうか。明らかに、給与所得控除は所得の計算のために必要経費に代わるものとして(或る意味では必要経費の一種とも言えます)定められているのであり、減免措置などとされていません。減免措置または「減税措置」とされるのであれば、第28条に定めるのでなく、第72条以下の所得控除として定めるか、第92条以下の税額控除として定めるか、租税特別措置法に定めなければならないはずです。また、所得税法第28条第2項は「給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額とする。」と定めるのが自然であるということになります。

 さらに記すならば、給与所得控除が「減税措置」であるとする考え方は、所得税法第57条の2に定められる特定支出控除をどのように説明するのでしょうか。これが大嶋訴訟の補足意見を受けてつくられた制度でもあると言うことが忘れられているのでしょうか。

 給与所得控除額の拡大・縮小は、それ自体として議論する必要はありますが、給与所得者について考えられる必要経費(的なもの)は何か、という視点で検討されるべきであり、「減税措置」などと考えられるべきではありません。

 所得税改革を進め、給与所得控除が給与所得者に対する「減税措置」であるというのであれば、既に示したように所得税法第28条第2項を「給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額とする。」と改正し、同第3項および第4項、第57条の2を削除すべきです。そして、第9条第1項に定められる非課税事由を拡大する、または第72条以下の所得控除もしくは第92条以下の税額控除を拡大することが必要となります。少なくとも、第28条第2項の改正は必要でしょう。

 なお、所得税法第89条に定められる基礎控除の拡充には賛同できますが、問題は金額です。現在は38万円ですが、どのように算定されたのかがわからない上に、この額で十分であるかどうかが問われます。都道府県住民税および市町村住民税における基礎控除は33万円で、これについても議論は必要でしょう。

 そう言えば、何年か前までは確定申告の用紙に基礎控除の額だけは事前に印刷されていましたが、現在はなされていません。どのような納税義務者にとっても必ず適用されるのが基礎控除であるのに、事前に書かれていなければ計算を誤ります。

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