ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

「ローカル線の悲鳴」

2020年10月08日 00時37分40秒 | 社会・経済

 朝日新聞朝刊の経済面に「けいざい+」というコーナーがあります。10月7日付7面13版Sに掲載された記事は「ローカル線の悲鳴1 往時の石炭路線、豪雨で寸断」です(https://digital.asahi.com/articles/DA3S14649367.html)。

 記事に書かれていたのは、このブログでも何度か取り上げた日田彦山線です。北九州市にある日豊本線の城野駅から日田市にある久大本線の夜明駅までの非電化路線で、終点の夜明駅を除き福岡近郊区間に入っています。

 2017年7月に九州北部豪雨がありました。その時より、添田町にある添田駅から夜明駅までの区間が不通になっています。被害箇所は63箇所でした。存続か廃止かの議論がなされましたが、結局、今年の7月にこの区間のバス路線化が決定されました。

 日田彦山線の歴史は複雑です。かなり簡略化して記しますと、明治時代に小倉鉄道によって開業し、戦時中に買収による国有化がなされています。その際には添田線という名称が付けられました。起点は今の城野駅ではなく東小倉駅、終点は添田駅ですが経路が現在と異なり、田川後藤寺駅を通らず、大任駅を経由していたのです。一方、田川伊田駅から田川後藤寺駅を経由して西添田駅までの区間は九州鉄道によって開業し、田川線の一部とされていました。添田線は終戦までの間に彦山駅まで延長されます。

 また、添田駅から夜明駅までの区間ですが、戦前に開業したのは宝珠山駅から夜明駅までの区間で彦山線という名称が付けられていました。戦後間もなく、大行司駅から宝珠山駅までの区間が開業しますが、彦山駅から大行司駅までの区間の開業はさらに後のことです。

 戦後、添田線と彦山線が統合されて日田線となり、香春駅から田川伊田駅までの部分が開業し、その少し後に日田線は田川伊田駅および田川後藤寺駅を経由する路線となり、香春駅から大任駅を経由して添田駅までの区間は添田線として分離されます。1980年代に添田線は廃止されました。

 1980年代前半の地図を見ると、北九州市、田川市など筑豊地域には煩雑と言える程に国鉄の路線網が築かれていたことがわかります。そのほとんどは「石炭路線」であり、あちらこちらの炭鉱を結んでいました。日田彦山線もその一つと言えます。しかし、エネルギー革命と言われる石炭から石油などへの転換により、筑豊地区の炭鉱は次々に閉山となります。これに伴い、旅客輸送も貨物輸送も激減した鉄道路線は深刻な赤字に見舞われます。沿線の人口も減りました。1980年代には、添田線の他、上山田線、室木線、漆生線、香月線など、筑豊地区の鉄道路線が次々に廃止されます(伊田線、田川線および糸田線は平成筑豊鉄道の路線として現存)。

 日田彦山線は残りましたが、沿線の人口は減少しています。上記朝日新聞記事では東峰村の様子が書かれています。この村は平成の大合併によって誕生しており、それまでは小石原村と宝珠山村でしたが、おそらく両方の村の人口を合計すると1950年代に8000人台の人口であったということなのでしょう。現在は約2000人とのことです。

 この東峰村は、バス路線化される添田駅から夜明駅までの区間に入っています。この区間の平均利用者数はJR九州発足時に比較して3分の1まで減少したということです。この区間に70億円の工事費を注ぎ込むことに、JR九州が「及び腰だった」というのも理解できます。1両だけのディーゼルカーで十分に過ぎるほどの輸送量ですし(本数もかなり少なかったのでした)、1年で2億6000万円ほどの営業赤字が出ていたというのですから。

 一方で、鉄道路線の廃止に東峰村が反発したのも理解できます。添田駅から夜明駅までの区間にある市町村のうち、廃止によって鉄道路線がなくなるのは東峰村だけです。通学通院のために必要な路線ということであり、観光のためにも必要であるという訳です。また、赤字鉄道路線を廃止してバス路線化するのがよいと昔から言われており、今もよく言われるのですが、実際にバス路線化するとさらに利用客が減り、ついには公共交通機関空白地帯になり、人口の減少も加速化するというのは、九州や北海道でよく見られる経験です。地元の懸念も当然でしょう。

 また、日田彦山線が城野駅から添田駅までの路線となった時に、とくに田川後藤寺駅から添田駅までの区間が気になります。部分廃止されたことによって残った区間の利用客数にも影響が出るのではないかと予想されるからです。

 「けいざい+」でどこまで九州のローカル線が取り上げられるかはわかりませんが、日田彦山線だけでもあれこれと考えさせられることは間違いありません。

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