昨日、毎日新聞社が11時40分付で「司法試験予備試験:法科大学院生の8割『就職に有利』」(http://mainichi.jp/select/news/20150207k0000e040178000c.html)として報じていました。見出しだけでは少々意味のわかりにくい記事ですし、中身についても「?」が浮かぶのですが、題材を提供してくれるものではあります。
政府に法曹養成制度改革推進室という組織があり、予備試験受験者を対象としてアンケート調査を行ったようです。毎日新聞社の記事では「司法試験の予備試験を受けた法科大学院生の8割が『就職で有利』と考えている--。(中略)経済的に法科大学院に進学できないような人のために設けられた制度だが、本来の趣旨から離れ、『抜け道』として利用されている実態が裏付けられた」と書き出されています。たしかに制度上はそうですが、そもそもの前提からして「抜け道」と捉える考え方には疑問も湧くところでしょう。そして、記事の中身を読み進めれば「そんなことは当たり前だろ?」と言いたくなる方も多いのではないでしょうか。
なお、以下では予備試験を、あくまでも例外としての制度として記します。現在、そのように位置づけられている以上、まずはこの点を確認しておかなければなりません。
予備試験となると常に出てくる話ですが、上記毎日新聞社記事でも「知識偏重からの脱却を目指した法曹養成制度改革で、司法試験は原則として法科大学院を修了しないと受験できなくなったが、予備試験合格者は例外的に受験資格が得られる。昨年は司法試験合格者1810人のうち163人を予備試験通過者が占めた。合格率は大学院修了者が21%、予備試験組は66%だった」と書かれています。
これだけ読むと、予備試験は完全な抜け道であるとか、原則と例外とが逆転している、などと早合点したくなりますが、実は違います。抜け道とは言い難い制度ですし、原則と例外が逆転してもいません。以前、「司法試験予備試験の受験者が1万人を超えた」(2014年5月19日23時47分51秒付)および「今年の司法試験の結果」(2014年09月11日9時38分58秒付)でも記したことを、再びあげておきましょう。但し、私自身の誤解もあったため、実質的な訂正を加えています。
意外に忘れられやすいのは、予備試験そのものの合格率は非常に低いということです。河合塾の「2013年度司法試験予備試験結果公表」という記事によれば、2013年の予備試験受験者数は11255人で、実際に短答式試験を受験した者は9224人、最終試験(口述試験)合格者数は351人です。従って、合格率は3.8%ということになります。2011年から実施された予備試験は、合格率を1.1%、3.0%、3.8%と上げていますが、相当の難関であることがわかります。
2013年の予備試験合格者が2014年の司法試験を受験することができます。実際に受験したのは244人で、司法試験合格者は163人です。この部分だけを見れば、合格率は66.8%となり、どの法科大学院よりも高い率となります。
しかし、これは当たり前の話です。予備試験は、法科大学院修了者に課せられない試験ですから、ここで受験資格を調整しているのです。旧司法試験にあった第一次試験と似ている部分もあります(旧司法試験においては、ほとんどの受験者が第一次試験を受けていません)。2013年の予備試験短答式試験受験者数9224人のうち、2014年度司法試験最終合格者が163人ですから、合格率は約1.77%です。ここまで視点を拡げた上で見ていただきたいものです(さらに拡げるべきであるという御批判にも賛同します)。制度は、常に全体的に考えなければなりません。司法試験も同様で、予備試験も含めて全体的に見なければなりません。上の約1.77%という数字が、予備試験という制度の意義を語っています。「今年の司法試験の結果」においても記したように、予備試験合格者の司法試験合格率が低ければ、何のための予備試験なのかがわからなくなります。
この一点からしても、予備試験の受験資格などに制限を設けることはおかしいと言えるでしょう。現在でも、立派に例外的な試験としての役割を果たしています。法科大学院生が予備試験を受けることに疑問を示す意見もあり、理解できます。しかし、受験制限を設ける必要性はないと考えます。設ければ制度が複雑化するだけですし、かえって法科大学院の評判をいっそう落とすことになりかねないでしょう。受験機会は多いほうがよいはずです(制限するのであれば、正当な理由が必要となります)。ここで身も蓋もないことを書くならば、予備試験に合格し、その上で司法試験にも合格した法科大学院在籍中の学生は、やはり非常に優秀な人であり、予備試験を受験しようがしなかろうが最終合格を果たせる人です。
さて、上記毎日新聞社記事に戻りますと、アンケート調査で、予備試験の受験理由を尋ねる項目があったようです。法科大学院生が何と回答しているかと興味が湧くところですが、やはり、予備試験に合格することが就職(弁護士事務所などへの就職です)に有利となる旨の答が多かったようです。当然でしょう(ここに「業界人」の本音が隠されているとみることもできますが)。そして、「また、法科大学院生の84%が進学理由を『予備試験に合格しなかった場合に司法試験受験資格を得るため」と回答。88%は大学院の教育が予備試験受験に「役に立った」としたが、大学院修了後も司法試験に合格していない人の場合は『役に立った』は46%だった」とのことです。さらに、大学生(おそらく学部生)の受験理由ですが、圧倒的に多い回答は「少しでも早く法曹資格を取得して実務に就く」で84%を占めており、一方で「法科大学院に進学する経済的余裕がない」という回答は12%だったようです(繰り返すようですが、上記毎日新聞社記事の中身を紹介し、引用しています)。
また、回答で気になったのは、法科大学院生でもなければ学部生(場合によっては法科大学院以外の大学院の学生)でもない人の受験理由で、38%の人が「必ずしも法科大学院で学ぶ必要はない」としていることです。割合としては高くないかもしれませんが、無視できない意見です。私自身、2009年度から2014年度まで、大東文化大学大学院法務研究科(法科大学院)で講義を担当したことがあるだけに(但し、2014年度は受講者ゼロだったので、実際には担当していません)、自己の反省も含めて納得できる意見です。勿論、私が全ての法科大学院の講義を担当した訳でもなければ聴講した訳でもないので、教育レベルの高低についてあれこれと論じることはできませんが、合格率、募集停止となった(またはこれからなる可能性のある)法科大学院が続出しているという事実は、問題の一端を示すことにはなります。
法科大学院がスタートして10年以上が経過しますが、問題はいっそう深刻化しているようです。ここは清算を含め、ゼロからの見直しが必要となるところでしょう。その意味で、予備試験は「抜け道」であるとか、受験資格に制限を設けるべきだという議論は、本末転倒である、とも言いうるものです。
何の本で読んだのか忘れましたが、法科大学院の本家本元と言うべきアメリカのロー・スクールについても、現実は課題が山積み、という言葉では足りないようなものであるというような話が出ています。日本(人)の特技に、教訓に学ばないこと、他所にあるお手本を、ろくに吟味もしなければ課題などを検討することもなく取り入れてしまうということがあり、それを我々日本人は誇るべきではないのかと、常々思っているのですが、21世紀初頭になされた司法改革はその一つではないかと考えられます。
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