行政法の講義をする際に、私は、インターネットでローカルニュースを参照するように言います。これは、特に行政上の強制執行(代執行、執行罰、直接強制、強制徴収)の話題、空き家問題などに関するニュースは、地域新聞(例、神奈川新聞)の紙面またはサイトに掲載されることが多く、全国紙(例、朝日新聞、日本経済新聞)の地域面で取り上げられないことも少なくないからです。
このようなことを記したのは、神奈川新聞社のサイトに、2025年1月7日21時0分付で「空き家の解体と撤去、秦野市が初の代執行 所有者が死亡、親族が相続放棄」(https://www.kanaloco.jp/news/government/article-1138729.html)という記事が掲載されたからです。
神奈川県民の私ですが、残念ながら神奈川新聞のサイトの会員登録をしていないため、この記事の全文を参照することができません。「秦野市は7日、所有者不在で倒壊などの危険性がある『特定空き家』に指定した1棟を略式代執行で解体・撤去する作業を始めた。市では初の事案で、2月末までの工期を予定している。」という文章しか読めない訳です。
そこで、近所の川崎市立高津図書館に行き、神奈川新聞の朝刊を読んでみたのですが、この記事は掲載されていないようです。但し、少なくとも、川崎市で発行されている紙面では参照できないということです。
上記記事で「略式代執行」と書かれていますが、これは、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空家等対策法)第22条第10項による代執行のことです。参考までに、同条の各項を紹介しておきます。
第1項:「市町村長は、特定空家等の所有者等に対し、当該特定空家等に関し、除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置(そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態にない特定空家等については、建築物の除却を除く。次項において同じ。)をとるよう助言又は指導をすることができる。」
第2項:「市町村長は、前項の規定による助言又は指導をした場合において、なお当該特定空家等の状態が改善されないと認めるときは、当該助言又は指導を受けた者に対し、相当の猶予期限を付けて、除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとることを勧告することができる。」
第3項:「市町村長は、前項の規定による勧告を受けた者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、特に必要があると認めるときは、その者に対し、相当の猶予期限を付けて、その勧告に係る措置をとることを命ずることができる。」
第4項:「市町村長は、前項の措置を命じようとする場合においては、あらかじめ、その措置を命じようとする者に対し、その命じようとする措置及びその事由並びに意見書の提出先及び提出期限を記載した通知書を交付して、その措置を命じようとする者又はその代理人に意見書及び自己に有利な証拠を提出する機会を与えなければならない。」
第5項:「前項の通知書の交付を受けた者は、その交付を受けた日から五日以内に、市町村長に対し、意見書の提出に代えて公開による意見の聴取を行うことを請求することができる。」
第6項:「市町村長は、前項の規定による意見の聴取の請求があった場合においては、第三項の措置を命じようとする者又はその代理人の出頭を求めて、公開による意見の聴取を行わなければならない。」
第7項:「市町村長は、前項の規定による意見の聴取を行う場合においては、第三項の規定によって命じようとする措置並びに意見の聴取の期日及び場所を、期日の三日前までに、前項に規定する者に通知するとともに、これを公告しなければならない。
第8項:「第六項に規定する者は、意見の聴取に際して、証人を出席させ、かつ、自己に有利な証拠を提出することができる。」
第9項:「市町村長は、第三項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。」
第10項;「第三項の規定により必要な措置を命じようとする場合において、過失がなくてその措置を命ぜられるべき者(以下この項及び次項において「命令対象者」という。)を確知することができないとき(過失がなくて第一項の助言若しくは指導又は第二項の勧告が行われるべき者を確知することができないため第三項に定める手続により命令を行うことができないときを含む。)は、市町村長は、当該命令対象者の負担において、その措置を自ら行い、又はその命じた者若しくは委任した者(以下この項及び次項において「措置実施者」という。)にその措置を行わせることができる。この場合においては、市町村長は、その定めた期限内に命令対象者においてその措置を行うべき旨及びその期限までにその措置を行わないときは市町村長又は措置実施者がその措置を行い、当該措置に要した費用を徴収する旨を、あらかじめ公告しなければならない。
第11項:「市町村長は、災害その他非常の場合において、特定空家等が保安上著しく危険な状態にある等当該特定空家等に関し緊急に除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとる必要があると認めるときで、第三項から第八項までの規定により当該措置をとることを命ずるいとまがないときは、これらの規定にかかわらず、当該特定空家等に係る命令対象者の負担において、その措置を自ら行い、又は措置実施者に行わせることができる。」
第12項:「前二項の規定により負担させる費用の徴収については、行政代執行法第五条及び第六条の規定を準用する。」
第13項:「市町村長は、第三項の規定による命令をした場合においては、標識の設置その他国土交通省令・総務省令で定める方法により、その旨を公示しなければならない。」
第14項:「前項の標識は、第三項の規定による命令に係る特定空家等に設置することができる。この場合においては、当該特定空家等の所有者等は、当該標識の設置を拒み、又は妨げてはならない。」
第15項:「第三項の規定による命令については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第三章(第十二条及び第十四条を除く。)の規定は、適用しない。」
第16項:「国土交通大臣及び総務大臣は、特定空家等に対する措置に関し、その適切な実施を図るために必要な指針を定めることができる。」
第17項:「前各項に定めるもののほか、特定空家等に対する措置に関し必要な事項は、国土交通省令・総務省令で定める。」
行政代執行法に規定される代執行は、例えば空き家を所有する者が存在することが判明している場合に使えます。第一に、建築物除却命令、つまり違法建築物等を解体せよという命令が行政庁(例、市町村長)から所有者に対して発せられ、所有者は解体の義務を負うことになります。第二に、所有者がその義務を履行しない場合には、行政庁は、行政代執行法第2条に定められる要件が全て充足された場合に、同第3条に定められる手続に拠って代執行を行うことができます。第三に、代執行を行った後に、行政庁は所有者に対して代執行の費用を請求しなければならず、所有者が費用を納付しなかった場合には「国税滞納処分の例により」強制徴収を行うことができます(同第6条第1項)。
これに対し、空家等対策法第22条第10項に定められる代執行は、空き家の所有者が不明である場合または特定できない場合に行うことができるというものです。もとより、同第11項に定められるような事情がある場合でなければ、公告を行った上で市町村長(法律上の行政庁)が「当該命令対象者の負担において」解体などを行うことができるということです。問題は「当該命令対象者の負担」が現実に行われうるのかということです。
空家等対策法については、別の機会に取り上げられたら、と考えていますが、今回はローカル記事に行政法のネタがたくさんあるということで、記してみました。
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