7月8日にJR東日本の平均通過人員(厳密ではないですが輸送密度と同じと考えてよいでしょう)の話を記しました。そこで見たように、東北地方の路線に見られる惨状とも言える状況が存在するのですが、これは別にJR東日本に限られたことではなく、私鉄(第三セクターを含む)も同様です。
今回は阿武隈急行を取り上げます。2023年7月9日の6時付で、河北新報社のサイトに「阿武急、膨らむ財政支援 負担割合巡りザワつく宮城の沿線3市町」という記事(https://kahoku.news/articles/20230708khn000053.html)が掲載されており、他に2023年5月24日5時付で「阿武急の輸送人員、過去最低128万人 2022年度」(https://kahoku.news/articles/20230523khn000065.html)、2023年4月11日5時付で「阿武隈急行経営改善策 宮城県が沿線3市町と協議へ 検討会での意見すり合わせ」(https://kahoku.news/articles/20230410khn000056.html)という記事が掲載されていますが、いずれも有料記事で、会員でない私は参照できませんので、7月9日付記事を参考にし、引用も行いつつ記していきます。
まず、阿武隈急行とはどこの鉄道路線であるかを書かなければなりません。この会社は福島県伊達市に本社を置く第三セクターで、福島県、宮城県および福島交通が大株主というところでしょうか。他に福島市などが株主として名を連ねています。運営している鉄道路線は阿武隈急行線で、東北新幹線と山形新幹線(奥羽本線)の分岐点である福島駅から、梁川駅、丸森駅を経由して東北本線の槻木駅までを結ぶ約55キロメートルの路線です。
第三セクターであることについては理由があります。阿武隈急行線は、元々、鉄道敷設法別表第27号の「福島県福島ヨリ宮城県丸森ヲ経テ福島県中村ニ至ル鉄道及丸森ヨリ分岐シテ白石ニ至ル鉄道」と同第21条ノ2の「宮城県槻木附近ヨリ丸森ニ至ル鉄道」として予定されていたものです。より正確には、第27号のうちの福島駅〜丸森駅と第21条ノ2の槻木駅〜丸森駅とを合わせた路線です。福島駅から槻木駅までは既に東北本線が通っていましたが、勾配区間があったことから東北本線の輸送力増強のための迂回路として1957(昭和32)年に調査線となり、1959(昭和34)年に着工されました。槻木駅から丸森駅までの区間は、1968(昭和43)年に丸森線として開業します。
しかし、1961(昭和36)年には東北本線の福島駅から仙台駅までの区間が電化され、1967(昭和42)年には福島駅から槻木駅までの区間が複線化されました。こうなると、福島駅から丸森駅までの区間を開業させる意味が薄れてきます。東北本線の電化と複線化が進められているのであれば、早く丸森線などの建設をやめればよかったのですが、実際には進められており、福島駅から丸森駅までの区間は1974(昭和49)年に竣工していたようなのですが、国鉄は引き受けなかったようです〔川島令三『全国未成線徹底検証国鉄編』(2021年、山と溪谷社)67頁によります〕。結局、丸森線は第一次特定地方交通線に指定され、国鉄の路線としては廃止されることとなりました。
こうして、福島駅〜丸森駅〜槻木駅は、第三セクターの阿武隈急行に引き継がれました(丸森線の部分が先行)。1988(昭和63)年には交流電化の上で全線が開業しました。既に電化されていた国鉄またはJRの路線を引き継いだIRいわて銀河鉄道、青い森鉄道(いずれも東北本線の一部)、IRいしかわ鉄道、あいの風とやま鉄道、えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン(いずれも北陸本線の一部)などのようなところは別として、交流電化された私鉄・第三セクターの普通鉄道は珍しいのですが、東北本線への乗り入れのためであるとは言え、交流電化が阿武隈急行の経営に負担を強いるものになっているのではないかと考えられます。
さて、阿武隈急行の経営に関する話となりますが、第三セクター鉄道らしい問題であると言えるものであり、財政支援をめぐる問題です。2022年度決算では、輸送人員が128万9741人であり、経営損失が5億6421万円、累積赤字が14億2963万円であるとのことです。上記河北新報社記事には、2019年の台風19号による豪雨、2021年および2022年の福島県沖地震という災害が示されており、COVID-19による影響が上乗せされたことが書かれていますが、おそらくもっと前から赤字が続いていたものと思われます。今年の3月に、阿武隈急行線在り方検討会なる組織が設置され、上下分離方式の導入も含めた経営方式の変更なども合わせて、経営改善について議論を進めていますが、ここで沿線自治体の負担額および負担割合が争点となっています。
上記河北新報社記事によると「阿武隈急行への財政支援の地元負担割合」は次の通りです。
宮城県側 宮城県50%、県内3市町(柴田町、角田市、丸森町)50%
県内3市町の負担のうち、25%を3市町で均等割、残りの25%を定期券利用者によって分割する(柴田町が16%、角田市が65%、丸森町が19%)。
福島県側 福島県50%、県内2市(福島市、伊達市)50%
県内2市町の負担のうち、25%を営業距離で分割し(福島市が35%、伊達市が65%)、残りの25%を駅利用者で分割する(福島市が64%、伊達市が36%)。
以上の負担割合に対して異議を申し出たのが柴田町です。同町には槻木駅と東船岡駅があり、同町が問題として掲げたのが、東北本線との乗換駅である槻木駅の定期券利用者数でした。乗り換えと言っても、改札口が全く別になっていない限り、改札を通ることなく乗り換えることができる訳ですから、実際にどれだけの人が純粋に駅を利用しているのかがわからないということになります(余談ですが、例えば私のように東急田園都市線の電車に乗ってそのまま東京メトロ半蔵門線の永田町駅、神保町駅あるいは大手町駅まで乗るか、表参道駅で銀座線に乗り換えて銀座駅や上野駅に行く場合、私は実際に渋谷駅で降りたりしなくとも渋谷駅の改札口を通ったものとして勘定されます。一方、表参道駅を利用したものとはみなされません)。そこで、やや漠然とした感じがしなくもないのですが「このため、槻木駅発着の定期券購入者の5分の1を駅利用者と見なす運用が1997年から行われている」とのことです。正直なところ、意味不明な点もあるのですが、それは脇に置くとして、「これにより、2021年10月~22年9月の柴田町内2駅(槻木、東船岡)の定期券利用者数は7万9492人となったが、滝口町長は『実際はもっと少ない』と言い切る。町が23年2月に行った高校や主要企業への調査で、2駅の定期券利用者は年間3万6000人程度と推計されたという」。槻木駅がJR東日本の管轄下にある業務委託駅であり、阿武隈急行の駅係員はいないので、みなし運用が行われているのかもしれず、定期券利用者数についての曖昧さの原因となっているのかもしれません(これは私の勝手な想像です)。
また、柴田町からは、利用者数の比率と負担割合とが釣り合っていないことが指摘されています。やはり上記河北新報社記事によると「21年10月~22年9月の角田市の定期券利用者数は31万3058人。柴田町とは約4倍の差があるが、均等割りを加えた負担額(22年度)になると角田市が約2億3600万円、柴田町が約1億1900万円と2倍差にとどまる」とのことです。そこで、均等割をやめるという提案がなされたのでした。
そもそも均等割を導入した理由が上記河北新報社記事にも書かれていないのですが、合理的なのでしょうか。利用者数や営業距離の割合で負担額を決めるのが通例でしょう。
しかし、柴田町が見直しを訴えるとしても、他の市町が受け入れるとは考えにくいでしょう。いかに柴田町の負担が増え、2018年度には約1300万円であったのが2022年度または2023年度には10倍以上になっているとしても、長らく均等割で行われていた以上、慣例のようになっていることから、変更するのは難しいのです。
阿武隈急行の経営状態を見直すためには、まず出資者の出資割合などを見直すことが必要であるということになるようです。沿線自治体の足並みが揃わなければ、経営再建が進まないこととなるでしょう。そればかりでなく、存続か廃止かが問題となる場面において大いなる紛糾が容易に想像されます。
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