ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

法人税法第22条第2項の理解について

2015年03月03日 00時00分07秒 | 法律学

 私は、毎年、とくに租税法について、講義ノートを作り替えています。そして「川崎高津公法研究室」にアップしています。

 今回は、2015年度に向けて、一部を先に公開しようと考えました。今後も修正などを行うこととなるでしょうから、さしあたって現段階でのものを掲載しておきます。なお、このブログに合わせる形で、表現などを一部変更しています。

 ★★★★★★★★★★

 法人税法は、基本的に法人の所得に課する税を規律している。そのため、法人税の課税物件は法人の所得であり、課税標準は、各事業年度における法人の所得の金額である(第21条)。

 ここで、便宜のために法人の所得を利益と同一として捉えると、その利益は、日本の企業会計において採用される損益法により計算される。第22条第1項は、このことを前提として「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した額とする」と定める。すなわち、(法人の所得金額)=(益金)-(損金)ということになる。

 基本的に、益金は収益と、損金は費用と同じ意味である。しかし、法人税法は、往々にして企業会計と異なる取り扱いを定める。このために言葉を代えているのである。

 法人税法第22条は、「第二編 内国法人の法人税」、「第一章 各事業年度の所得に対する法人税」、「第一節 課税標準及びその計算」の「第二款 各事業年度の所得の金額の計算の通則」に置かれる唯一の規定であるからである。すなわち、同条は法人税法における所得金額の計算の原則または基本を定める規定である。従って、益金および損金について、第22条各項の内容を理解しなければ、第23条以下の諸規定も理解できないことになる。

 ここで、益金の意味を考えることとしよう。第22条第2項は、次のように定める。

 「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」

 この条項によると、原則として益金として算入されるべき金額は、

 (1)資産の販売に係る収益の額、

 (2)有償による資産の譲渡または役務の提供に係る収益の額、

 (3)無償による資産の譲渡または役務の提供に係る収益の額、

 (4)無償による資産の譲り受けに係る収益の額、

 (5)その他の取引で資本等取引以外のものに係る収益の額

である。

 改めて見ていただきたい。(1)および(2)は当然のことである。(4)も当然のことであると理解できよう。これに対し、(3)については理解しえないという方も少なくないはずである。実際に、私が大東文化大学法学部および西南学院大学法学部(2004年度から2012年度まで)の講義でこの話をすると、怪訝な顔をされ、しまいには真っ白で思い空気が漂ってきたりする。

 確かに、(3)は一見すると理解しにくい。おそらく、常識的には、無償で資産の譲渡等を行ったのであれば「当該事業年度の収益」は生じないと考えるであろう。しかし、第22条第2項は、資産の無償譲渡などの無償取引であっても収益は発生するものとして扱うことを定めている。例えば、甲株式会社が乙株式会社に対して無利息融資を行った場合には、通常の利息相当額が益金として扱われる。

 そこで、(3)のように規定される理由が問題となるのであるが、見解は分かれている。

 通説は、無償取引からは収益が生じないという前提の上で適正所得算定説を採る。これは、正常な対価で取引を行ったものとの関係で負担の不公平が生じないように、また、法人の間の競争中立性を確保するために、無償取引からも収益が生ずることを擬制して規定されたものと理解する説である《金子宏『租税法』〔第十九版〕(2014年、弘文堂)279頁が代表例である》。そのため、この説の場合、法人税法第22条第2項は租税回避行為を否認するための創設的規定であると理解することになる。判例(および実務)もこの説を採り、その上で益金とされる収益については第37条に規定される寄附金として認定し、損金の算入に限定を加えるという方法を採る《水野忠恒『租税法』〔第5版〕(2011年、有斐閣)385頁、411頁。通説も同様に理解する》。

 南西通商株式会社事件第一審判決(宮崎地判平成5年9月17日行裁例集44巻8・9号792頁)は、「資産譲渡にかかる法人税は、法人が資産を保有していることについて当然に課税されるのではなく、その資産が有償譲渡された場合に顕在化する資産の値上がり益に着目して清算的に課税がされる性質のものであり、無償譲渡の場合には、外部からの経済的な価値の流入はないが、法人は譲渡時まで当該資産を保有していたことにより、有償譲渡の場合に値上がり益として顕在化する利益を保有していたものと認められ、外部からの経済的な価値の流入がないことのみをもって、値上がり益として顕在化する利益に対して課税されないということは、税負担の公平の見地から認められない」と述べ、「同項は、正常な対価で取引を行った者との間の負担の公平を維持するために、無償取引からも収益が生ずることを擬制した創設的な規定」であると理解する。また、同事件控訴審判決である福岡高宮崎支判平成6年2月28日訟務月報43巻3号1025頁は、第一審判決をほぼそのまま引用している。

 なお、同事件上告審判決(最三小判平成7年12月19日民集49巻10号3121頁)も適正所得算定説を採ると理解されるのが通常である《水野・前掲書387頁。金子・前掲書280頁も参照》。しかし、同判決は第22条第2項が「法人が資産を他に譲渡する場合には、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにしたものと解される」と述べるのみであり、適正所得算定説を採ることが明確であるとは言えないものと思われる《増井良啓「低額譲渡と法人税法22条2項」水野忠恒=中里実=佐藤英明=増井良啓=渋谷雅弘編『租税判例百選』〔第5版〕(2011年、有斐閣)96頁を参照。また、谷口・前掲書334頁の記述は、南西通商事件上告審判決が適正所得算定説を採用していないとする理解に立脚すると思われる》。

 適正所得算定説に対しては、「課税はあくまでも納税者が現実に行った取引を対象とするのが原則であり、擬制による課税は、課税上の弊害等の観点から、立法者が例外的に特別な根拠規定を設けている場合に限るべきであ」り、「租税法律主義から見て適当でな」く、「公正処理基準の定めとの関係においても、通説による22条2項の解釈には無理があると思われる」とする批判がある《岡村忠生『法人税法講義』〔第3版〕(2007年、成文堂)43頁》。

 通説・判例と異なり、第22条第2項は租税回避行為を否認するための創設的規定ではないとする見解もある。

 たとえば、岡村忠生教授は、購入時から値上がりしている資産を譲渡した納税義務者が存在する場合、資産の値上がり益は当該資産を値上がり時に保有していた者に課税されるべきであり、「たとえ対価が無償であっても、値上がり益は存在するから、清算課税は発生する」と説明する《岡村・前掲書42頁》。これを清算課税説または増加益清算課税説と呼んでおく《増加益清算課税説は谷口・前掲書330頁による表現である(増加益実現擬制説とも称される)》。

 この見解によれば、企業会計が無償による資産の譲渡などから「時価の対価を得たときと同じ収益を認識することは、一般的には認められていない」ことを理由として、第37条第8項が存在するがために「益金側で22条2項により時価までの値上がり益が課税の対象として認識され、損金側で寄付資産を時価として寄付金の額が算定されるのである」と考えられる《岡村・前掲書43頁》。

 一方、北野弘久博士は、同項が「簿記会計における商品勘定のように、両建て経理を前提としたグロスの計算構造についての例示規定にすぎない」と述べる《北野弘久『税法学原論』〔第六版〕133頁(2007年、青林書院)、同「法人税法22条2項と租税回避行為」『税法問題事例研究』(2005年、勁草書房)154頁、157頁、159頁、北野弘久編『現代税法講義』〔五訂版〕(2009年、法律文化社)87頁[北野弘久担当]》。すなわち、法人税法第22条第2項は、創設的規定でもなければ、単に資産の値上がり益に着目した規定でもなく、益金の算定、ないし所得の算定の上で当然のことを規定したにすぎない、ということになる。

 同旨の見解は税務会計論において散見される。まず、富岡幸雄教授は、「資産の無償(対価の受領を伴わない)譲渡を収益発生取引とみるべきかどうかは、財務会計上は必ずしも明らかにされていない」としつつ、「税務上は、資産の無償譲渡について、たとえば、資産を第三者に有償で譲渡した後に、その譲渡代金を特定の者に無償で譲渡したに等しいとみなすことにより、収益発生取引となり得ると解されている。この場合には、無償譲渡した資産の時価相当額が、収益の額となる」と述べる《富岡幸雄『新版税務会計学講義』〔第3版〕(2013年、中央経済社)45頁》。

 また、成道秀雄教授は、同項の趣旨を「無償譲渡でも、受け入れた側において時価で受贈益を計上する以上、時価に相当する価値の移転があり、そこに収益の実現があったとするほうが適切としている」と説明している《成道秀雄編著『新版税務会計論』〔第4版〕(2013年、中央経済社)20頁[成道秀雄担当]》。

 北野博士、富岡教授および成道教授の見解は、部分的に清算課税説と重なることも否定できないが、土地の値上がり益が実現することに留まらず、「時価に相当する価値の移転があり、そこに収益の実現があった」ことが重視されるため、説としては区別するほうがわかりやすいのみならず、視点の置き方としても妥当である。そこで、北野博士、富岡教授および成道教授の見解を例示規定説として呼んでおく《谷口・前掲書331頁は有償取引同視説または二段階説と表現する》。

 この見解は、やや技巧的であり、当初は理解しにくいという点に短所があるものの、無償譲渡、低額譲渡のいずれについても無理なく説明でき《富岡・前掲書45頁も「低廉譲渡は、有償譲渡と無償譲渡の混合形態とみることができる」と指摘している》、さらに法人税法第37条の趣旨も何の困難もなく説明しうるという長所を有する。

 ここで、成道教授が示す例および説明を借りて概観しておく《成道編著・前掲書20頁[成道]》。

 A社が帳簿価額300万円、時価1000万円の土地を保有していた。或る日、その土地を公益法人Bに寄付したとする。そうすると、A社については土地の譲渡益1000万円が益金に算入され、寄附金1000万円と帳簿価額300万円が損金に算入される。但し、実際には法人税法第37条により、寄附金1000万円の損金算入は制限されることとなる。そして、次のように仕訳をなすことができる。

 (借方) 寄附金    1000万円    (貸方) 土地譲渡収益 1000万円

      土地譲渡原価  300万円          土地      300万円

 成道教授は「比喩的には、法人がいったん資産を適正時価で有償譲渡して収益を実現し、その対価たる時価相当額の現金を直ちに相手に寄附をしたものとするのである」と述べ、

 (借方) 現金     1000万円    (貸方) 土地譲渡収益 1000万円

      土地譲渡原価  300万円          土地      300万円 

 (借方) 寄附金    1000万円    (貸方) 現金     1000万円

と表現する《成道編著・前掲書20頁[成道]》。

 低額譲渡であっても、基本的な方向線は同じである。低額譲渡は、資産の有償譲渡と無償譲渡とが組み合わされたようなものであり、いったんは時価で有償譲渡がなされたが何らかの理由によりその時の対価が譲渡者から譲受者に寄附されたと理解すればよい。再び成道教授があげる例を引用するならば、帳簿価額が300万円で時価1000万円の土地を500万円で譲渡した場合には、次のように仕訳される《成道編著・前掲書21頁[成道]》。

 (借方) 現金      500万円    (貸方) 土地譲渡収益 1000万円

      寄附金     500万円

 以上について別の表現を用いれば、次のようになる。

 (借方) 現金      1000万円    (貸方) 土地譲渡収益 1000万円

      土地譲渡原価  300万円         土地      300万円 

 (借方) 寄附金     500万円    (貸方) 現金      500万円

 なお、あまり指摘されないことであるが、法人税法第22条第2項については、所得税法第40条第1項第2号および同第59条と関連付けて検討することが必要であると考えられる。


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